九話 危うく貞操を失うところだったよ!
「うふふ、貴方すごく面白いわね。お姉さん、ビクビクしちゃう」
「ばふっ!」
酔っぱらったヴュセルに抱きしめられ呼吸困難に。
おっぱい……嗚呼……おっぱいに挟まれて――。
「もう、駄目よヴュセル。竜己さんが困っているじゃない」
眼鏡をくいっと上げ、ヴュセルのおっぱいから俺を救出してくれたアーレウス。
しかしそのまま俺の顔を掴んだまま、じっと俺の目を見つめている。
「……あの、アーレウスさん?」
「……ちゅうしていい?」
「お前も酔っぱらいかああああ!」
眼鏡の奥の焦点が定まっていないアーレウスの腕を振りほどき、俺はその場から逃げようとする。
が、寸前でミレイに足を掴まれすっ転んでしまう。
「どこに行こうと言うのだ、永瀬竜己。お前が探している三人はここにいるではないか」
「痛い! 足首折れる! 放してください! マジ痛い!」
ミレイの信じられないほどの握力により、俺の足の骨がパキパキいってるし!
このままここにいたら、俺の貞操どころか命すら危うい……!
「ねぇ、ミレイ。ここは竜己に誰が一番好みか決めてもらおうじゃない」
いきなり訳の分からないことを言い出したヴュセル。
……いや、この飲み会がスタートした時点ですでに手遅れなほど変なことを言い続けているんだけど!
「こほん。もちろん竜己さんは、清楚な眼鏡っ子が一番ですよね?」
酒に酔い、我を忘れている聖職者が何を言うか!
「いいや、永瀬竜己は強い女が好きなはずだ。私には分かる。もしお前が望むのなら、マンツーマンで聖騎士への道を私自ら指導してやろう。手とり足取りな……!」
そのままミレイに引きずられる俺。
もう、お願いだから、おうち帰してください……。
異世界こわい、異世界こわい……。
「あのー、そろそろ閉店なんですけど……」
救世主……!
マスター、早くこの酔っぱらいどもを俺から遠ざけてくれ……!
「む。そうか。閉店ならば仕方がない。よおし、家で飲みなおすか」
「……え?」
「そうね。どうせ私達ルームメイトだし。竜己さんも来たそうだし」
「ぜんっぜん、そんなことありません!」
この酔っぱらい聖職者が一番厄介かもしれない……!
「今夜は色々と楽しめそうね。い・ろ・い・ろ、と♪」
「未成年をたぶらかすんじゃない! 助けて! 誰か、俺を助けて!」
喚き、叫ぼうとも、すでに酒場には俺達しかいない。
マスターを振り向き、目で救援を求めるも、首を横に振る反応が返ってくるだけ。
あんのマスター……!
俺を見捨てる気か!
「よっこらせっと。じゃあ行くか。…………久しぶりの活きのいい男子だしな」
「聞こえてるよ、アホ騎士! 放せ! 俺を拉致するんじゃねぇ! 放せよ、この!」
ジタバタしても全く振りほどける気がしません。
俺……齢十七歳にして、お姉さん方に捕食されてしまう運命なのでしょうか……。
……いや、それだけは嫌だ!
初めてのひとは……俺自身の意思で決めたいっ!
「毎度ー」
あっさり俺を売ったマスターに心底恨みを込めた視線を向けながら、俺はギルドから強制連行されたわけで――。
◇
「……グスン。あ、竜くん」
ギルドの扉が開いた先に、何故か地面にのの字を書いて半泣きしていた真理亜の姿を発見。
……こいつ、この数時間、ずっとここでこうやって待ってたのか?
「マズい……! 王宮の兵士が何故、こんな場所に……!」
……お?
三人のアホ女が真理亜を見て怯んでいる……?
……そうか!
今、真理亜の姿は他人には兵士の姿に見えるんだった!
これなら……!
「そ、そこの兵士さん!」
「え? 兵士? どこどこ?」
「お前だよ! そこでのの字を書いているお・ま・え!」
キョトンとしたまま人差し指を自身に向けた真理亜。
この表情は状況をまったく理解していない顔だ……!
ええい、面倒臭い!
「た、助けてください! このお姉さんたちが、僕を連れて行こうとするんです! この純真な、未成年の僕をっ!」
俺の叫びに三人が慌てふためく。
いいぞ……!
さすがにこいつらも城の兵士に事情を知られたらヤバいことに気付いているだろう……!
「……。あ、そういうことね。ええと、こほん。……な、なんですってぇ~! それは~、いけないことだねぇ、うんうん、駄目だよ~、絶対駄目~!」
「……」
……演技が下手すぎる。
真理姉ぇ、本当に生徒会長の仕事やってるのかってくらい……。
「……どうする? 国王に知られたら、いくら私達でもこの街で仕事を貰えなくなるぞ」
「……ええ、そうね。この街の男なんて、数が知れてるもの。こんなことがバレたら重罪も重罪……!」
そんなに重い罪なの!?
それを酔っぱらった勢いでやろうとしているお前らがホントよく分からない!
「嗚呼……神父様にでも知られたら私……! 考えただけでも恐ろしい……!」
ごにょごにょと三人で話し合った結果。
俺は無事に解放してもらえるみたいで、話は纏まりました。
「「「け、警備、ご苦労様です~!」」」
「あ、逃げた」
あっという間にその場から立ち去った三人。
ようやく解放された俺は、今日この日ほど真理亜を頼もしく思ったことなどないわけで。
「はぁ……。マジで疲れた……」
その場にへたり込み、大きく息を吐く。
そんな状態の俺の前にチョコンと座った真理亜。
「……で、あの三人がそうなのね?」
「……ああ。『聖戦士ミレイ』、『神官アーレウス』、それに『呪術師ヴュセル』だ。三人ともルームメイトで……ほれ」
ちゃっかりと手に入れていた、三人が住んでいる場所のメモ。
ここに後日、勇者の姿で真理亜が行けば、依頼終了。
ほんっと、マジで今日は疲れた……。
このまま家に帰って、明日の昼くらいまでぐっすりと眠りたい。
「ふふ、お疲れ様。家に着いたらたっぷりと回復魔法を唱えてあげるから、それで今夜はぐっすりと――」
「て、敵襲ー!! 魔王軍が……魔王軍が攻めてきたぞーーーー!!!」
「「…………へ?」」
――ようやく家に帰れると思ったのもつかの間。
騒ぎのある方角へ視線を向けると、地響きと共に魔族の大軍が街に攻め入ってくるのが見えました。
…………マジで?




