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三話 家から出してもらえなくて暇すぎる!

「ん……朝か」


 半分破れかけているカーテンの隙間から、日差しがもろに俺の顔面を照射している。

 今日はまず、このベッドを横にずらすことから検討しようかな……。


 異世界に飛ばされてから三日目。

 昨夜、梨佳と真理亜がそれぞれの場所に帰ったあと。

 俺は外に倒れている兵士をかかえ、そーっと扉の横に背を持たらせて、いかにも居眠りをしているような格好にしてみたりと……まあ、色々大変で。

 あの兵士、めっちゃガタイが良いから、そりゃぁ重くて重くて――。


『……おい、起きてるか。坊主』


「あ……はい! 起きてます!」


 噂をすれば何とやら。

 扉の外からあの兵士が俺を呼んでいます。


「ええと……何か御用ですか?」


 そっと扉を開けて、兵士に問いかける。

 真理亜の回復魔法のお蔭で、すっかり頭のタンコブが取れている兵士。

 しかし、何やら首を傾げています。


「……昨日のことなんだが。どうにも記憶が曖昧でな」


「ぎくっ」


「俺はここで、お前が逃げないように見張っていた。そしたら急に頭部に打撃を受けて気絶をしたようだ。だが、今朝になって目覚めてみると、どこにも怪我は見つからない」


 兵士はまるで幻でも見たかのようにそう話す。

 ていうか梨佳の奴……!

 忘却魔法とやらで忘れさせたのは、お前のことだけじゃねぇかよ!

 襲ったことも一緒に忘れさせないと意味ないだろ!! アホか!!


「しかし、坊主。お前がちゃんと家にいて逃げ出していないところをみると、坊主の仕業ではなさそうだな」


「あ……はい! そうなんです! 俺は何にも知りません! ていうか知りたくもありません!」


「そ、そうか。要件はそれだけだ。今日も家から出るんじゃないぞ。今、お前の存在が世間に知れたら色々と面倒だからな。食事は昨日と同様、このパンを用意してきた。ほれ」


 兵士に渡された普通の食パン。

 さすがに二日連続で食パンだけでは腹が持たない……。


「何だ。何か言いたいことでもあるのか」


「ありません! お勤め、ご苦労様であります!」


 兵士に礼を言い、慌てて部屋に戻る。

 昨日、帰り際に真理亜の手持ちのお金を少し分けてもらったのはいいんだけど。

 街に買いに行けなかったら何の意味もないことに、今気づきました……。


 割れたテーブルを尻目に、俺は再び直射日光が当たるベッドに戻る。


「うーーんしょ……。うーーーんしょ……と! よし、これで一応日は当たらないか」


 カーテンのほうもどうにかしようと思ったが、生地が無ければどうしようもない。

 俺はベッドに腰を掛け、改めて室内を見回した。


 広さは十畳ほどだろうか。

 部屋の中央には割れたまま放置してあるテーブルと椅子が四つ。

 一応台所らしきものもあるけど、まったく使い方が分からない。


 風呂とトイレは無し。

 トイレに行きたくなったら兵士に言って、扉を出てぐるっと回った場所にある庭で済ませて帰ってくる。

 風呂はここ三日、入っていない。

 さすがにそろそろ脇とか臭くなってきたような……。


 食事は日に一度、あの兵士から配給される食パンのみ。

 これを三等分して朝昼晩と食べている。

 飲み物は台所のにある蛇口をひねれば水がでるし、いちおうお茶とティーカップだけは用意してあった。


 昨日、それで梨佳らに茶を淹れたんだけど、お湯を沸かしたのは梨佳の火魔法フレイムだったという……。

 回復魔法やら忘却魔法やら火魔法やら。

 これからもどんどん人間離れしていくのだろうか、あいつらは……。


「はぁ……。今日も一日缶詰なのかなぁ」


 ボサボサの頭を掻き、俺はそのままベッドに横たわった。

 あとどれくらいの間、俺はこの借家に監禁されるんだろう。

 さすがにもう飽きてきたんだけど。


 後でこーっそりと兵士の目を盗んで――。

 いやいや、無理だ!

 俺は『無能者』なんだから、見つかり次第ボコボコにされるだろ!

 運が悪けりゃ殺されるかもしれないし……!


「あーあ、風呂入りてぇなぁ……」


 何もすることがないまま、俺は再び眠りに入ってしまったのでした。





 ――永瀬竜己ながせりゅうき

 これが俺の名前だ。

 妹は永瀬梨佳ながせりか。姉は永瀬真理亜ながせまりあ


 都内の高校に通う俺達三人は、ちょうど一歳ずつ歳が離れた姉弟というわけなのだが。

 妹の梨佳は今どきの高校一年生という感じで、怖いもの知らずのやんちゃな性格。

 姉の真理亜は生徒会長を押し付けられた品行方正な高校三年生……と思いきや、そこは梨佳の姉。

 見た目と違っていい加減なところが沢山あるんだが、持ち前の要領の良さで周囲を欺き、今まで生きている。


 まあ、とにかく俺達はそれなりに楽しい高校生活を送っていたわけだ。

 そんなある日の部活帰りに、三人とも大穴に落ちちまったわけなんだが。


 でもさ、ちょっと愚痴ってもいい?

 いいよね。夢の中くらい、愚痴っても。


 そりゃさ、姉弟の俺から見ても、梨佳や真理亜はそこそこ出来る奴だと思うよ。

 というか、正直、鼻が高いよ。

 だって『勇者』と『魔王』だぜ?

 この世界の覇者になりえる人物になっちまったんだぜ、あいつら。


 でもさ、どうして俺は『無能者』なの?

 ひどくね? ひどいよね?

 どうせ異世界に転移するんだったら、もっとこう、格好良いのになりたいじゃん。

 聖騎士とか、魔法剣士とか?


 うーん、悔しい。

 梨佳と真理亜が凄いから、余計に悔しい。

 何とかならんのかね、神様。

 俺だって、きっと役に立つよ。この世界のために。


 あ……そろそろ夢から覚めそう。


 起きたら、なんか格好良い『能力』に目覚めていますように――。





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