四話 俺だって思春期の男の子だからな!
「あ……やべ、また寝ちゃってた……」
夢から覚めベッドから身を起こす。
「……」
一応、念のため、俺はそのままベッドの上で正座をし、右手を前に突き出してみた。
そして昨晩の梨佳のように怪しい腰つきをしながら適当に詠唱してみる。
「――出でよ! 炎っ!」
……。
…………しーん。
「……よし。出ない」
そのまま再びベッドにごろんします。
やっぱ俺には無理だ。
寝て起きたら魔法とか使えるようになってるかもなんて、甘い夢を見てしまった……。
それにしても、することがない。
俺はいつまでこんな場所に監禁され続けるのだろう。
「……ああ、そういえばあのときのお姉さん。顔色とか変だったけど、めっちゃエロい服装で可愛かったなぁ」
ふと俺達三人が召喚された日のことを思い出す。
召喚士の集団に混ざり、梨佳を連れていた不死王なんちゃらとかいう名前の女性。
大きく胸の開いた水着みたいな姿に、ヒラヒラのマントみたいなのを着ていて――。
「……」
……うん。仕方ないよね。
俺だってまだ思春期真っ盛りの高校二年生。十七歳です。
なーんにもすることがなくて、こんなに静かな夜で。
あんなハレンチな姿のお姉さんを思い出しちゃったんだから。
「もぞもぞ……」
ベッドの位置もちょこっとずらしたし。
万が一、あの破れたカーテンの隙間から中を覗かれても、この位置だったら絶対に見えない。
……。
…………。
「りゅーう、にーーーいっ!」
「どわあああっ!?」
いきなり窓から梨佳が顔を出して、俺はそのまま硬直する。
「…………ん?」
「あ……ああ……あの、これは、その……!」
梨佳が俺を凝視する。
というか、俺のオレを凝視する。
「……竜兄ぃ?」
「いやちょっと待って……違うんだ! ていうかお前! こんな夜中に窓から侵入とか……!」
慌てて後ろを向き、無理矢理ズボンを上げる。
このタイミングはまずい……!
実の妹に見られるとか、俺の一生に関わる大問題だ……!
「もう、そんなに焦らなくたっていいじゃん。竜兄ぃだって男の子なんだもん」
「焦るよっ! ていうか妹にそんなこと諭されたくねぇ!」
真っ赤な顔で叫ぶ俺。
もう、恥ずかしいったらありゃしない……!
「あれでしょ。ジェネルのこと、考えてたんでしょ」
「う……」
図星を突かれ、またもや硬直。
「ふーん。竜兄ぃ、ああいうのがタイプなんだぁ。……まあいいや。今度暇があったら紹介してあげる」
「いらんわ! どうして俺が魔族の幹部を紹介されにゃあかんのじゃ!」
「え? だってジェネル、彼氏いないって言ってたし。私が命令したら、嫌でも首を縦に振らざるをえないし」
「無理矢理くっつけようとすんじゃねぇ! ……おっそろしい魔王だなこいつ……」
……いや、それよりも魔族に彼氏とか彼女とかあんの?
どんな世界やねんここ……。
「ていうか何の用だよ……。魔王っつうのは、そんなに暇なのかよ」
少し冷静さを取り戻し、俺は梨佳に向き直る。
相変わらず痛い格好をしている梨佳は、キョトンとしたままこちらを見ているし……。
「暇なわけないじゃーん。今日だって魔族会議とか始まっちゃって、今さっき抜け出してきたんだから」
「……お前、抜け出してばっかりだな」
「だって、朝からずっとだよ? なんか『三魔皇』……? とかよく分からない幹部たちがいてさ。……まあジェネルもその三魔皇のひとりなんだけどね。『不死王ジェネル』、『獣王ガーランド』、それに……『魔剣王デュラハム』だったかな」
確かに梨佳の表情は少し疲れているようにも見える。
こいつはこいつで大変なのかもしれん……。
「ジェネルはまだ私の言うことを聞いてくれるからいいんだけど、他の二人がねぇ……。もう私、あだ名つけちゃったし。『脳筋のガーランド』と『分からず屋のデュラハム』ってね」
「……可哀想、その幹部達」
梨佳に一度でもあだ名をつけられたら、きっと死ぬまで言われ続けることだろう。
アーメン……。
「でも名前を聞くだけでもめっちゃ強そうだよな。どんだけ屈強な野郎どもなんだそいつらは」
「へ? みんな女の子だよ?」
「……は?」
女の子?
あのジェネルとかいうボインなお姉さんだけじゃなくて?
「あ、言ってなかったっけ。魔族って、女の子しかいないの。何でかは知らないけど、ここはそういう世界なんだなーってことで納得してください」
「あ、はい」
チョコンと窓枠から部屋の中に降りた梨佳。
しかしその瞬間、しかめっ面を俺に向ける。
「……何かクサい、この部屋」
「う、うるせぇ!」
クンクンしながら部屋中を歩き回る梨佳。
そしてそのまま俺に近づく。
「……臭いの元は、竜兄ぃでした」
「仕方ねぇだろ! もう丸三日も風呂に入ってねぇんだから!」
「うわ! 信じらんない! そんな不潔な竜兄ぃとかキライ! 臭い兄貴とかないわー!」
「じゃあどうしろって言うんだよ! 風呂も便所もないボロ借家に監禁されてんだぞ、俺はっ!」
そこまで言って、ふと外の兵士のことが気になった。
これだけ騒いでいるのに、中の様子を窺いに来ないということは――。
「あ、兵士のほうは大丈夫だよ。今回は後ろからこーっそり近づいて睡眠魔法で眠らせたから」
「……前回の忘却魔法も中度半端だったから、まったく信頼できないんだが」
「ていうかそんなことよりも、お風呂だよ! ほら、行こう!」
「あ、おい……! 行くって……どこに?」
無理矢理袖を引っ張られ、俺は玄関まで強制連行される。
そして勢いよく扉を開いた梨佳。
ゴンッ!
「あっ……。兵士さんの頭に扉をぶつけちゃった…………まあいいか」
「良くねぇ! また目覚めたときに俺が真っ先に疑われる!」
「えー、でも私、回復魔法は使えないからなぁ。真理姉ぇが来た時に頼んでみてよ」
……そんなに都合よく真理姉ぇまで現れたら苦労はしないだろ……。
「この先の通りをずーっと真っ直ぐに行って、角を右に曲がった先にお風呂屋さんがあるから」
「……マジで行くのか」
一応俺、この家に監禁されている身なんだが……。
魔王に連れられて銭湯に行っても問題ないのだろうか……。
「あー、でもこの格好じゃまずいなぁ。ええと……ほーれ、ほれほれ」
お決まりの怪しい動きで魔法を唱えた梨佳。
すると痛い子の格好から街の少女の格好に早変わり。
「これでよしっと。じゃあ行こうか、竜兄ぃ♪」
俺の腕に嬉しそうに抱きつく梨佳。
まあ、俺だって風呂に入りたくないわけじゃないから、梨佳の申し出は有難いっちゃあ有難い。
「……竜兄ぃ、クサい」
「はいはい! さっさとお風呂に入りましょうねー!」
何度も妹からクサいと言われる駄目兄貴……。
――悔しさを胸に俺は、いざ銭湯へと向かう!




