八話 不意打ち
一言で表せば強すぎ。
魔王扱いされている私より遙かに強い。
「魔法は無駄だって言ってんだろ」
私が逃げながら肩越しに放った火球をあっさり避けた蜘蛛型の魔物が怒鳴った。
「ちっ」
こちらの攻撃が一切当たらない。
隠蔽技術があれば状況も変わるけど私にそんな技術はない。
四本の前足が鎌になっているせいでバランスが悪いのか魔物の足は遅い。それが唯一の幸運だった。
広場から遠ざかるように逃げているものの私の体力が何時まで保つのか。
「ガキのケツ追っかけても楽しくねぇんだよっ!」
「こんな可愛い十六歳になんて事言うんだ馬鹿!!」
不毛な言い争いをしつつ道を曲がる。
三件先に玄関扉が朽ちている家を見つけて駆け込む。
遅れて道を曲がった魔物は私を見失ったようで、警戒するように足を止めた。
「どこ隠れやがったぁ」
面倒くさそうに辺りを見回す魔物。私が明確に敵対しているので放置できないのだろう。
魔物が私の射程に入った瞬間、道を歩くあいつの周りを囲むように魔力を集める。
これで避けられまい。
「仕留めた!」
自然と弾む声と共に起爆した……筈だったのだけど。
「爆発しない……?」
「残念だったなぁ!」
私の声を聞きつけた魔物が前足の鎌を振るって家をなぎ倒した。
私が潜んでいた石造りの家も拍子抜けするほど容易く崩される。
慌てて道に転がり出た私の退路を断つように魔物の鎌が背後に突き立てられた。
間を置かず私の首に鎌が突きつけられる。
「魔力は乗っ取らせて貰ったぜ」
……なるほど、そんな事も出来るのか。
魔物が鎌を振りかぶる。
チェックメイト。やるなら、今。
私は鎌が振り下ろされる直前に魔物の顔めがけて包丁を投げつける。
「な!? 何処からこんなもん」
魔法以外の攻撃は予想していなかった魔物は振り上げていた鎌で弾き落とす。
私はその隙をついて緑色をした風の魔力で周囲に散らばる瓦礫を包んだ。注意を逸らしておけば乗っ取られる心配はないだろう。
単なる石つぶても殺傷力があるんだよ。私の経験が保証する。
「石つぶてガトリング、発射!」
風魔法で吹き飛ばした瓦礫が魔物に次々と命中する。
適当に発生させた風が石の軌道を無秩序に変えているから魔力の流れやレールが見えても関係ない。
術者の私でも屈んでいないと危ない石の乱舞だ。体が大きい魔物に避ける術はなく、その体のあちこちに石がめり込む。
「ぐがぁっ!」
魔物が頭を守ろうとして交差させた二本の鎌に亀裂が入った。続けざまにぶつかった煉瓦が関節から鎌を吹き飛ばす。
私も頭を上げたらさぞかしスプラッタな結末になるだろうね……。
魔物の体から力が抜けた。既に鎌は千切れ飛び、顔も体も石がめり込んでいる。足もおかしな方向に曲がっていたり関節が増えているから満足に動けないと思う。
私は魔物が抵抗できないと見て魔法を解除した。
甲高い風切り音を伴った瓦礫は民家の壁に激突して、瓦礫ガトリングは終了する。
「こ、小娘、刃物はどっから……?」
息も絶え絶えな様子で魔物が聞いてくる。
冥土の土産にしては欲がない。
「包丁は魔物の解体に使うから何時も持ってるの。それで家に隠れた時に抜いた」
武器としては魔法の方が汎用性は高いので、普段は解体まで鞘に入れていた。
そのせいで今回とっさに武器として使えずにいたけど、おかげで暗器として活用できた。
何がどう転ぶか分からないものだよ。
魔物が絶命したのを確認して、私は地面に腰を下ろした。
流石に死ぬかと思った。
まぁ、ベリンダの役には立てたから良しとしよう。




