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嘘つき魔王  作者: 氷純
ベリンダの広場

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九話 信頼はたやすく崩れる

 魔物が叩き落とした包丁を拾う。正確には包丁だった物、かな。刃の部分が砕かれて原形を止めてない。

 それで魔物の鎌を叩いてみれば金属質の音が返ってきた。

 風魔法で加速した瓦礫は鉄をも砕くって認識でいいみたい。

 魔王は風魔法瓦礫ガトリングを覚えた! ファンファーレはまだ?

 馬鹿な事を考えている内に息一つ切らさずベリンダが曲がり角から走ってきた。


「もう片づけたんだな」


 魔物の惨状を見て怪訝な顔を作るベリンダに私は頷く。


「何とか倒せた。瓦礫が混じっていても良ければ解体するよ?」

「そいつは毒があって食えない」


 ……苦労して倒したのにすごく損した気分。

 サイの魔物は食べられるので今日はただ働きじゃないけど。

 私は思考を前向きに切り替えて立ち上がる。


「それにしても、ベリンダにしては来るのが遅かったね。魔物に反撃でもされた?」


 土埃を払いながら訊く。

 ベリンダは魔物が死んでいるか常よりも丹念に調べている。心配しなくても死んだ振りじゃないよ。


「お前があちこち逃げ回るからだ。探すのに苦労した」


 ……そうですか。

 ようやく気が済んだらしいベリンダが魔物の死骸に一つ蹴りを入れて歩き出したので私もそれに続いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 もう心理的な抵抗も無くなっちゃったな。

 サイの足を切り取りながら思う。

 魚を捌くのとは違うから最初の頃は抵抗があったのに。

 環境に飼い慣らされている感が否めない。

 それでも食べないと餓死するし食べ物があるなら食べないともったいない。

 あぁ、食材として見ているから抵抗無くなったのかな?


「結局のところ、お前は何者なんだ?」


 ずっと無言で作業していたベリンダが唐突に訊いてくる。

 元々は女子高生で元暴行犯、今は魔王やってます。我ながら波乱万丈で笑えてくるよ。

 口が裂けても言えないけど。

 だから、お茶を濁す。それがこの一週間のやり取りの全て。


「今日はいつもと口調が違うね。何かあった?」


 手を動かしながら私は聞き返した。


「はぐらかすな。気になるのは当たり前だ」


 ベリンダが私を睨む。


「魔法も剣も使えず魔物のいる森を抜けてやってきた。驚異的な早さで魔法を修得し、魔物と一人で戦う事を恐れない。機転が利き、人並み以上の知識があるにも関わらず一般常識はまるで知らない」


 既にベリンダの手は止まっている。

 私も手を拭いて彼女に向き直った。


「お前は怪しすぎるんだ」

「それだけ?」


 間髪入れずに問い返す。

 ベリンダは一瞬だけ目を伏せたけどすぐに険しい顔を私に向ける。

 彼女の無言に先を促されて私は再び口を開く。


「前に言った通り、空間把握には自信があるの。人の視線にも敏感よ」


 私の言葉の意味に思い当たったベリンダが視線を逸らした。おそらく無意識だと思うけど、私にとっては十分すぎる証拠になった。


「流石に誰の視線かなんて分からないけど、この街には私とあなたしかいない。それに、あなたは現れた時に息が乱れていなかった。探し回ったにしては随分と余裕があったね。そもそも、かなりの範囲を索敵可能なあなたが私をただ探すだけに時間をかけ過ぎよ」


 広場に居れば街の何処から魔物が入ったのかを感知できるベリンダ。

 今なら分かる。彼女は街全体の魔力の流れを感じ取る事ができるのだ。

 魔力は酸素と同じで大気中に散らばっている。物が動くだけで風が起きるように魔力にも多少の変化が起こる。

 それを感じ取れるからベリンダは迷わず魔物にたどり着ける。


「後は魔物の死亡確認にかなりの時間をかけていたのもおかしい。どう見ても死んでるし、普通の魔物は生きてたら暴れてる。ベリンダはあの魔物が知性を持っていると知っていたから念を入れて調べた。……まだ聞く?」


 私が訊ねるとベリンダは盛大なため息を吐いた。


「覗いていることに何時から気付いてた?」

「友人を裏切らないと宣言する直前」

「ほぼ初めからか。確かにあの台詞は微妙に違和感があったな」


 やれやれ、と彼女は空を仰ぐ。暫くそのまま雲を眺めていた。


「そこまでバレてるなら率直に訊く。お前は魔王、なのか?」

「違う。でも信じ切れないでしょうね。」


 感情が急速に冷めていくのが分かる。

 共に過ごした一週間は魔物の言葉であっさりと崩れ去る程に薄っぺらい交流だったのか。

 実に私らしいね。胸も感情も薄っぺらいよ。厚いのは面の皮だけ。

 ……もう、どうでもよくなってきちゃったな。


「街から消えることにする。悪いけどこの包丁とナイフは貰っていくよ」


 食料は森でとればいいかな。今は魔法も使えるし。

 包丁を鞘に収めながら立ち去ろうとした私は周囲の魔力がベリンダに集まって行くのに気が付いた。


「お前には街に残ってもらう」


 振り返った私に、ベリンダは大量の魔力で私を威嚇しながらそう言った。


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