七話 魔物と知性
空に合図の火球が打ち上がる。
魔物達が一斉に空を見上げるのを私は裏通りから見ていた。
瞬時に逃げる体勢に入った蜘蛛型の一匹を除いて、魔物達は空を見上げる体勢のまま続けて放たれた巨大な火球に飲み込まれた。生き残りは後ろにいた六匹。その六匹も体に火傷を負っている。
通りに現れたベリンダに生き残りが反応して殺到する。
そんな彼らの後ろに回り込んだ私はバレーボール大の火球を魔物の後頭部に叩き込み二匹倒した。
挟み撃ちにされた魔物達が混乱している間にベリンダが土属性の魔法で岩の杭を生み出し魔物の周りを囲んだ。
後はベリンダが始末する方が手っ取り早い。
「私は逃げた魔物を倒す」
「任せた!」
生き残りに打ち込む特大の火球を準備するベリンダを置いて私は蜘蛛型の魔物を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蜘蛛型が街の中央に向かって行くのを見つけた私は別の道から奴の側面に先回りする。
背後からの奇襲を警戒しているらしく、頭を下げて移動していたからだ。
「学習してるのか」
魔物も生きているのだからある程度の学習能力があってもおかしくない。しかし、ベリンダの合図を見て即座に逃げた事といい、学習能力以上のものを感じた。
私は民家の窓越しに魔物を追い越した事を確認して路地裏で待ち伏せる。
私の射程は四メートル、正直な所かなりギリギリだ。通りの端を歩いていたら距離を詰める必要がある。
火属性の魔力を集めて準備する。他に比べて殺傷力があるため集められる魔力の量が少ない私には火魔法しか攻撃手段がない。
レールを敷くと奇襲を気付かれるので頭に描くだけに留める。その体勢でしばらく待っていたけれど。
来ない……?
「ーー妙なのがいやがるな」
頭上から降ってきたしわがれ声の正体を確認する前に火球を放つ。
しかし、当たる前にそいつが吐き出した糸により私の火球は相殺された。
「おぃおぃ、可愛い顔して物騒だなぁ」
屋根の上から私を見下ろすのは蜘蛛型の魔物だった。
喋る魔物なんているのか。それだけの知性があるなら今までの行動にも頷ける。
「女を見た目で選ぶと痛い目見るよ」
魔物が立つ家の中に魔力を集める。私に注意が向いている間に屋根もろとも吹き飛ばしてやる。
「ハッハ。違いねえなぁ。だが勝ち気な女は好きだぜ」
うわぁ、気持ち悪っ!
余りにおぞましくて身震いする私を魔物は観察するようにして無遠慮な視線を投げてくる。
「場慣れしてねぇなぁ。足下から攻撃するなら素早くやんねぇと意味ねぇだろ」
足下に魔力を集めている事に気が付いてる?
試しに屋根を突き破って火球をぶつけようとすると難なく避けられた。
「どうして?」
私が思わず首を傾げると魔物は馬鹿にしたように笑った。
「隠蔽もしてない初歩の魔法なんざ魔力の流れに注意すりゃ良いだけだ」
もしかして、魔力を掌握した範囲内なら不自然な魔力の動きを感じ取って攻撃を予測できるという事か。
「それって、私より広い範囲の魔力を掌握してないと無理だよね?」
「俺の範囲はお前の三倍くらいだな」
十二メートルですか。単純計算で戦闘力は三倍。これだけの知性があるなら呪文や魔法陣も使えるかもしれない。もしそうなら攻撃を予測するのは絶望的。
ピンチだったりする?
私の焦りを気にした風もなく魔物が嫌な質問をしてくる。
「お前、俺達と同類だよなぁ?」
そうですとも、何を隠そう魔王です。秘密だけど。
「これでも人間だよ。失礼な仲間意識を持たないでくれるかな」
「そうかい。だが、どうもお前は殺したくねぇ、見逃してやるから失せな」
それが魔物の共通認識なのか。理由はこいつ自身にも分からないみたい。
複雑な気分だけどメリットではあるかな。
「あなたが町から出て行くのなら構わないよ」
「自分の立場が分かってないなら殺すぜ?」
魔物の視線に殺気が混じる。肌が泡立つような恐ろしい感覚。
「私は友人と認めた者は死んでも裏切らないよ」
私なんかを信じた人へのそれが最低限の誠意だから。
「やっぱ気が強い女だ。好きだぜ、そういうの」
さて、啖呵切ったのは良いけど勝てる気がしないなぁ。
どうしよ?




