六話 魔法
「とんでもない上達だな」
呆れたようにベリンダが言う。
「必死だからね」
私の前にはバレーボールくらいの火球が三つ浮かんでいる。
ベリンダと出会って早一週間、彼女が魔法を使うのを見ている内に何となく魔法の原理が理解出来ていた。
空気中に漂う赤い粒子は火属性の魔力でこれを選択的に集めて軽い衝撃を与えると燃え上がる。 維持するためには燃えている状態を常に頭に想像し続ければいい。
他属性の魔法は魔力の色が違うだけで全部これの応用だ。
ただし、これは初歩の初歩。
例えば今私の前にある火球はその場で燃えるだけで動くことはない。動かすには火属性の魔力でレールを敷いてやり、その上を火球が進むイメージをしなくてはならない。
この世界の住人は魔力が必ず見えるのでこの単純な魔法を戦闘に使う人はまず居ないそうだ。
レールの先にいなければ当たらないのだから避けるのは簡単、したがって戦闘時にはレールを隠蔽する技術が必要になる。その技術を持っている人が魔法使いと呼ばれる。
「独学でここまで扱えるようになるとは……。どんな観察眼だ。この化け物」
失敬な。私は魔王だ。内緒だけど。
寝食を共にする内ベリンダはよく憎まれ口を叩くようになった。これが素なんだと思う。
ちなみに、本当に化け物なのはベリンダの方。
魔力の隠蔽技術を持たない彼女は厳密には魔法使いじゃない。
彼女が魔物を葬り去る方法は完璧な力技だ。
道を走ってくる魔物に対して道幅ギリギリの大きさで火球を作れば隠蔽の必要は無い。
避けられなければどうという事はない、とは彼女の言葉。ドヤ顔がまぶしかったよ。
今の私は半径四メートル程の範囲でしか魔力を集められない。レールを作れるのもやはり四メートルが限度。けれどベリンダは百メートルを軽く越える。
ベリンダ曰わく、一般的な魔法使いは五メートルがせいぜいで、それ以上の範囲を掌握するために呪文や魔法陣、魔法具を使う。
ベリンダは何も使わずに百メートルを掌握するんだから完璧に化け物だ。
そんな思いを視線に込めるとベリンダは気まずそうに目を逸らした。
「睨むなよ。あたしも確かに化け物だけどあんたも一週間でこの範囲を掌握するのは化け物染みてんだ。普通は十年かかるといわれてる」
化け物としての自覚はあるらしい。
「空間把握に自信があるだけよ」
前世では死ぬ直前まで悪意や害意に囲まれていた。油断してるとシャーペンとか飛んでくるし、階段から突き落とされた事もある。
周囲の状況を常に把握することは一番の自衛手段、当然の如く磨かれる。
そんなことは露とも知らないベリンダは私が火球をラグビーボールのように歪めたりするのを見て真似している。
頭で思い浮かべればどんな図形でも再現できるので私なりの練習のつもりだったんだけど……。
「平気な顔で正二十面体とか作らないでよ」
よくそんなの想像できるな。この子の頭はどうなってんの。
私は隣で笑いながら炎を変形させているベリンダにため息を吐いた。
けれど、こんなやり取りが出来るのは少し嬉しい。
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夕食を食べているとベリンダが突然立ち上がった。
「また南からだ」
眉を顰めたベリンダに続いて私も腰を上げる。
街の南から魔物が入って来たのだろう。
「最近多いな」
走り出しながらベリンダが呟いた。
私が街に来てからのこの一週間で魔物の襲撃は九回、その内の六回が南から侵入されている。
ベリンダが走りながら私に向けた視線が少し気になった。
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魔物は街の入り口に近い場所にたむろしていた。
数は十匹でサイの魔物と八本の足の内四本が鎌になっている赤い蜘蛛が五匹づつ。
民家を壊したり、糸で巣を作っていたり、彼らなりに生を謳歌していた。
彼らの生態に興味が出るのはきっと私だけ?
「団体さんか」
ベリンダは角から盗み見て露骨に嫌そうな顔をする。
「どうするの?」
私が訊くとしばらく考えた後、彼女は口を開いた。
「あたしが正面から潰す。何匹か仕留め損なうだろうから処理を頼む」
「分かった。裏通りに隠れるから、開始前に合図をちょうだい」
裏通りへと駆ける私は背中にベリンダの視線を感じていた。




