五話 守人
今回から台詞の前後に一行開けてみます。
読み難ければ戻します。
少女はベリンダと名乗った。
頻繁に魔物に襲われるこの街を一人で守っているそうだ。
「本当に守りたいのはさっき言った通りこの広場なんだ」
そう言って見渡すベリンダに釣られて私も広場を眺める。
街の中央に位置するこの広場は噴水などの飾りもなく円形に切り取られた殺風景な空間で三本の通りが繋がっている。
ここだけ人や魔物の死体がないのはベリンダが片付けているからとのこと。
開けているので見晴らしも良く守りやすいとは思う。
けれど、一人でも守りたいと思うほどの魅力を感じない。私が部外者だからか、それとも感受性の問題か。どうにも嫌な予感がする。
「どうかした?」
不思議そうにベリンダが私の顔をのぞき込む。少し広いその額を押し返して私は広場を守る理由を素直に訊いた。
「守る理由か。なんか恥ずかしいな」
ベリンダが困ったように首を傾げて考え込む。
この街は魔物の群れに襲撃されたのを期に人々が逃げ出して廃墟となり、今はベリンダしか住んでいないと彼女自身から聞いている。他人が捨てたくらいだ、大した価値があるとも考えられない。
ベリンダは腕を組んで言葉を選んでいた。
焚き火の薪がはぜる音が沈黙に滑り込む。
「ちょっと退屈な話になる」
そう前置きしてからベリンダは語り出した。
「あたしが魔法を使えるのは知ってるね?」
サイの丸焼きを作ったあの火球はやはりこの子の魔法なのか。
分かってはいたけど物騒な世界だ、本当に。この子に比べたらイスやハサミで暴れてたあの日の私が可愛く見えるね。
「あの魔法が関係してるの?」
「そう。あたしは生まれつき魔法が使えたんだ。八歳くらいまではまともに制御できなかったけどね」
魔物を姿焼きにする威力の魔法を制御できなかった?
暴走戦車か、あんたは……。
「暴発に巻き込まれたくないから誰もあたしに近づかない。民家に被害を出さないようにあたしは広場の中央に住むことを強要された」
街としては当然の処置だろう。今と違って彼女一人が住んでいる訳じゃないし、追い出そうとした住人も居たのは想像に難くない。もしかすると広場に住めただけマシとも言える。
ただそれはあくまで街の言い分であって、広場に押し込まれた彼女は遠巻きに見つめる住人たちに何を思ったか。それを想像しかけて、気付く。
あの腐れ神め。私をこの街に誘導したな。
「制御できるようになっても何かの拍子で暴発するんじゃないかって疑われてね。広場暮らしは変わらなかった。必死に制御出来てるとアピールしたもんだよ」
ベリンダが両手の平を上に向ける。その手に赤い粒子が集まったと思うと拳大の火の玉が現れた。彼女はその火の玉でお手玉を始める。
いくら何でも器用すぎだ。
「こんなことやって居るうちに旅の芸人や吟遊詩人と仲良くなってね。彼らも昼間の仕事場はここだから芸を見せ合ったり教え合ったりしたもんさ」
五つの火の玉でお手玉を続けながらベリンダは笑う。見ているこっちは気が気じゃないけれど彼女の手つきは乱れない。
「この広場はさ。あたしの家で遊び場なんだ。壊されたくない」
ベリンダが手を下に向けると火の玉が一斉に消えた。それを見届けて私は口を開く。
「思い出があるから離れたくないって事?」
「分かんないかもな」
肩を竦めたベリンダは苦笑した。
馬鹿にされたように感じるのは被害妄想だろう。どの道、心温まる思い出の持ち合わせがない私には分からない感情だ。
「ベリンダが自分を広場に縛り付けてるのは分かった」
苦し紛れに混ぜっ返した私に対して、彼女は物騒な笑みを浮かべて見せた。
「言ってくれるね」
喧嘩腰の口調とは裏腹に彼女は楽しげだった。
少なくとも、彼女は見境無く人を嫌うようにはならなかったらしい。境遇を考えれば奇跡的だと思うのは彼女に失礼だろうか……。
私は嫉妬すべきか尊敬すべきかを思案しつつ、焚き火で炙っていた肉の焼き具合を検分する。
「ところで、このお肉は何?」
「魔物の肉だよ。知らないで食べてたのかい?」
「いいえ、認めたくなかっただけ」
だって美味しいんだもの。我ながら飢えてるなぁ。




