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嘘つき魔王  作者: 氷純
カーリンとクルトの生死
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四十話 猿芝居

 夜が明けきらない内にカーリンが訪ねてきた。

 とはいえ、私が居ることを確認しただけらしい。

 私の狸寝入りを見破れずに彼女は帰って行った。

 ちゃっかり、後を付けさせていただきました。


「ふふふ……。」


 人の秘密を暴いて忍び笑い、我ながら良い趣味している。

 牛頭は留守番しているので私の笑い声は誰にも聞こえない。

 カーリン達の住処は浅い洞穴だった。

 昨日より明らかに大きくなったクルトが居るのも判明したので撤収。


「見た感じは二歳くらいね」


 クルトは危なげなく歩いていた。

 音を立てないように素早く帰って川辺に佇む牛頭に声をかける。


「ごめん、待ったぁ?」

「かなり、待った」


 そこは「今来たところ」って言うべきシチュエーションなのよ。

 肩を竦めて見せて、朝食の準備をする。

 少し大きめの焚き火で煙を昇らせる。

 ちょっとしたアリバイ工作だ。


「私は今起きたところですよ」


 しばらくしたらカーリンが様子を見に来て、すぐに帰るだろう。

 お互いに怪しまれないように顔を出したり隠れたり。


「面倒よね」


 土魔法で石製フライパンを作って、細く切ったウサギの肉に火を通す。

 野草と一緒に炒めて木の器に盛る。

 器は私のお手製。素朴さが売りの逸品だ。

 良さが判るのはきっと私だけ。

 肉と野菜だけだと色合いが悪い。白い器に盛ればマシになるのに。

 贅沢な悩みを頭の隅に蹴りとばして私は手を合わせる。


「頂きます」


 食事を開始して間もなくカーリンの姿が木々の間に垣間見えた。

 何食わぬ顔でウサギを食べる。矛盾してそうでしてない絶妙さ。


「おはよう」


 カーリンに手を振って挨拶に代えた。

 口の中に物が入ってる時に話すのは失礼だものね。

 カーリンの様子を見る限り、私が尾行したのは知らないみたいだ。


「クルトはどうしたの?」

「昨日の今日だから留守番させてる。マオウがいるのを確認したからもう帰るわ」


 嘘ばっかり。

 成長したクルトを見せたくないから置いてきた。顔を見せないと心配した私が森を探し回るから仕方なく来た。

 そんなところでしょ。お見通しよ。


「気を付けてね」


 私の笑顔は彼女にどう見えているだろうか。


「マオウこそ。早めにここを去らないと仲間を村人に殺されるわよ?」


 その通り。むしろそうじゃないと困るよ。


「もし私の仲間を殺す輩がいるのなら、四肢の先から寸刻みにしてやるね」


 笑顔のまま言い切る。

 カーリンの口元が引きつった。


「村人に同情するわ」


 彼女の細い咽から出た声はかすれていた。その声に自分で顔をしかめてカーリンはきびすを返した。

 彼女が森に消えたのを見届けた私は食事を終えて立ち上がる。


「牛頭、演技は得意?」


 食器を水魔法で洗いつつ訊ねる。

 心許ない反応が返ってきたのでそれを踏まえて作戦を組み直す。


「牛頭、これから私が言う事を守ってほしいの」


 注意事項を言い含めて更に復唱させた後、私は魔力を掌握して周囲を探る。


「さて、行こうか」


 村に。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 森を進むと目当ての一行を見つけた。

 昨日の狩人二人と武装した男達、合わせて五人。殺気を隠さない態度は明らかに狩りが目的ではないと語っていた。

 森に魔物が出た以上、討伐する必要がある。

 彼らはそのための武装集団だだろう。

 予定通り。順調過ぎて心の中の私が小粋なステップを刻んでいる。


「村まで行く手間が省けたね」


 牛頭に合図を送る。

 作戦の開始を告げるのは私の悲鳴だ。


「誰か! 助けて下さい!!」


 丁寧語は舌噛みそう。

 か弱い少女つまり私の悲鳴に男達が一瞬硬直し、走ってきた。

 私は牛頭に捕まった旅人の振りをして助けを呼ぶ。

 武装集団は私と牛頭の姿を見つけて武器を構えた。


「矢は放つな。あの子に当たる」

「気色悪い魔物め、その子を放せ!」


 単純だなぁ。まぁ、普通は助けてと叫ぶ少女が魔物の仲間だなんて思わない。

 それを見越してこんな猿芝居をやってるのだけど。

 牛頭の幹をつま先で軽く蹴る。逃げろの合図だ。


「待ちやがれ!」

「おい、逃げたぞ! 追え!!」


 血走った目が追って来る。

 どちらが魔物だか分からないよ。

 追いつかれないように、かと言って引き離してしまわないように、私はこっそり牛頭に指示を出す。

 嘘の涙も流してみる。ささやかな特技だけどこんな場面は滅多にないので使い納めだろう。

 次第にぐったりして見せる私に男達が焦る。

 少し楽しくなってきた頃、ようやくカーリンとクルトの隠れ家に着いた。

 森から突然飛び出した私と牛頭にカーリンが驚く。


「牛頭、投げて。後は手筈通りにしなさい」


 私が言い終わった直後、牛頭が私をカーリンに向けて投げ飛ばした。

 地面を転がってカーリンの足下で止まる。


「痛っ……!」


 手加減しなさいよ。脱臼したかも。


「マ、マオウ? これは何の騒ぎ?」

「村人に見つかった。穏便に済ませたいから口裏合わせて」


 演技ではなくよろよろと私が立ち上がるとカーリンが肩を支えてくれた。

 しかし、慌ただしい足音と共に現れた武装集団を見てカーリンの顔は青ざめる。

 私は彼女にだけ聞こえるように囁く。


「私を人質にして、逃げる瞬間に引き渡して」


 カーリンは小さく頷いた。

 牛頭に視線で逃げろと指示すると、見た目からは想像できない身のこなしで素早く森の奥に走って行った。


「待て、追うな。少女の安全確保が先だ」


 牛頭を追いかけようとした狩人の二人を大柄な男が止めた。

 あいつがリーダーかな。

 妥当な指示ね。狩人が二人掛かりでも牛頭なら返り討ちにする。

 リーダーらしき大柄さんはカーリンを一瞥すると身の丈の両刃剣を構えて低い声を出した。


「その少女を放せ、鮮血の子」


 ……鮮血の子?


次の更新は10月23日になります。

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