三十九話 隠滅
眠りに落ちたクルトを抱えてカーリンは帰って行った。
彼女は私を監視しているのだから、明日の朝も訪ねてくるのは容易に想像できる。
村を訪れるタイミングが掴めない。
「どうしようかな」
ほのかに青い月を見上げる。
村を訪れた後でもカーリンと接触する機会を作れないと動きにくくなる。
だから、今までみたいに敵対関係になるのは好ましくない。
上手く立ち回るには相手の性格を測り行動を予測するのが一番。
私はウサギの毛皮を敷いて寝転がる。まだ少し血生臭い。
「まずカーリンは私にそっくりの性格」
敵に回したくないね。怖すぎるよ。
彼女と私の違いは優先順位だ。
彼女は自身よりクルトを上位においている節がある。
クルトを味方にすれば多少の無理でも従うはず。最悪、人質にしてしまえばいい。
そのクルトはかなり不思議だ。
カーリンの事を他人として捉えているように見えた。
カーリンとクルトの関係が不透明で作戦が立て難いったらない。
どの方法でも最後にはクルトの動きが予想できずに見通しのない計画が出来上がる。
明日にでも回すとしよう。
「魔王、寝る、しない?」
「寝ないよ。徹夜する」
夢の世界で嫌いな奴らが手招いているからね。
私は魔法陣を書いた羊皮紙を取り出す。
ついでに魔法の鏡の破片に光の魔力を込めて明かりを作る。蛍光灯替わりに丁度良いのよね。
騎士団の動向も探れるし、一石二鳥だ。
騎士団のメンバーに新しい仲間は加わっていない。数日前に加わったハンネスが騎士の一人と訓練しているのが写っているけど無視。
どうせ負ける。
私は羊皮紙とにらめっこを開始する。
カーリンには一目で効果が分かったから、規則性があるのは間違いない。
新しい魔法陣は数年掛かりで作るとして、今は魔法陣を一目で看破する知識がほしい。
この世界に来た初日、魔法使いが仲間を呼んだ時に魔法陣や詠唱を使っていた。
魔法陣の効果を発動前に判断できれば戦いやすくなる。
「カーリンが教えてくれれば早かったのになぁ」
何度も彼女に聞いたけど教えてくれなかった。
敵か味方か分からない私を強くしたくないらしい。
「素晴らしい先見の明」
彼女の未来が暗いからサングラスも要らないね。
なんて言葉遊びをする暇があったら魔法陣の勉強。
「参考書が足りないね」
もう一度、蘇りの現場に行ってみよう。
結界で言うところの血や骨があったら採取しておきたい。
そう思って上半身を起こそうとしたら髪が引っ張られた。
「……大分、伸びたみたいね」
牛頭が無感動に見下ろしてくるので冷静を装って独り言を転がした。
実際にはかなり恥ずかしい。
髪が伸びたせいで背中の下に挟んでおり体を起こした時、縄に繋がれた犬みたいにつんのめったのだ。
無理矢理に髪を切られて以来、伸ばしたことがなかったから油断していた。
気を取り直して起き上がる。
風の魔力を使って文字通り川を飛び越えて河原に着地。
対岸から川を横断する牛頭に声援を送った後、共に森へと入る。
少し行くと広場があった。ここが現場、のはず。
「魔法陣、無い」
見れば分かるよ。
私が魔法陣を見せた事でカーリンが警戒して消したのだろう。
とはいえ問題はない。書き写してあるもんね。
クスクスと忍び笑いをしていたら、牛頭に不気味と言われた。
失礼な木ね。お互い様でしょ。
しゃがみ込んだ私は鏡の破片で土を照らす。
何の変哲もない土に見える。
周辺にも変わった物は見つからない。
どうやら場所は何処でも良いらしい。
「でも消した……。」
証拠隠滅したのだから、蘇りは知られたくないという事になる。
「明日はカーリン達が来ないかも」
「静か、いい」
牛頭はそうだろうけど私は会えないと困るよ。
明日、クルトが二歳になっていたら、タイムリミットが明確になる。
「牛頭、昨日の晩に死んだ男の死因は判る?」
一番近くにあった実に横目を向ける。昨日は無かった実だ。
「死因、判らない」
私が見ていた実の上になっていた実が答えて、反動で落ちた。
間抜けな構図ね。
思わず笑ってしまうけど私は昨晩の記憶を掘り返す。
外傷はないように見えた。そして、現場には血が落ちてなかった。
病死だとしよう。
蘇った肉体が一日ごとに一年老いるとして、病気にかからないだろうか?
感染症ではなく先天的な物なら尚更、決められた死に向こう。
死んだ男はカーリンと同い年くらい。十六かそこらだ。
男とクルトを同一人物とすると後十五日で追いつく。
その日、クルトは生きているだろうか?




