十二話 攻防
適当に見繕った魔物十五匹を森から街のあちこちに風魔法で吹き飛ばし、私は広場に降り立った。
「酔った……。」
もう風魔法で空を飛びたくない。後一度はやらないといけないのが非常に嫌だ。
飛ぶだけで魔力の制御にかなり神経を使うし、頻繁に体制を崩す。紙飛行機を団扇の風で飛ばしている気分だった。
よく落ちないで済んだよ。
深呼吸しながら広場を見回す。
予想した通りベリンダの姿はない。
彼女の性格なら街に現れた騎士団の様子を見に行くだろうし、私が放り込んだ魔物も無視できまい。
「さて、壊しましょうか」
精々、魔王らしく。
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ベリンダと幾人かの騎士が現れたのは広場の破壊が終わる頃だった。
「流石は人間。ノロマだね」
手を叩いて歓迎する私に騎士は早くも武器を構えている。
その横でベリンダは呆然と立ち尽くしていた。
無理もない。広場は原形を留めていないから。
さっきから頭痛がするのは神の望む形がこれではないからだろう。
私の知ったことか。
「ーー何で」
ベリンダの顔が怒りで赤くなる。その体が集まった魔力で輝いて見えた。
「何でこんな事をした!?」
ベリンダの叫びが木霊する。
彼女が放った火球を私は水の壁で防ぐも、威力を殺しきれずに体を捻ることで辛うじて避けた。
ベリンダは明らかに全力じゃないのに火を水で相殺できないって……。
本当にとんでもない魔力量。分かってたけどさ。
ベリンダの隣にいた杖を持った騎士も驚きに目を見張っている。
「理由を言えっ!!」
この広場が殻であなたが無様に膝抱えて閉じ篭もっているからだよ。
私は彼女を鼻で笑う。
「魔王が人の気持ちを踏みにじるのは当然でしょう?」
さぁ、怒れ。殺すつもりで戦え。
広場という殻を壊した。私という敵を殺す理由と目的、目的を共有する騎士団という仲間まで用意した。
これだけお膳立てを整えたんだ。魔王を追い払うくらいの実力を見せてさっさと騎士団に入れてもらえ。
そうしたら、淋しくないよ?
「絶対に許さない。殺してやる」
最初から許して貰うつもりはない。
人を一人敵に回すんだ、こちらは文字通り人生を捨てる覚悟でやってる。
「殺してみなよ」
私は舌を出して挑発すると同時に瓦礫ガトリングを打ち込む。
見た目も威力もすごいけどベリンダ達は魔力の掌握範囲からだいぶ離れているので瓦礫を突風で吹き飛ばしているだけだ。当たることは期待していない。
「邪魔だ!」
ベリンダがそう言った瞬間、細かな水球が瓦礫ガトリングを全て撃ち落とした。
……煉瓦が砂になるってどんな威力ですか?
しかも魔力のタメもせず一瞬で放ったし。
「騎士さんは退いて!」
ベリンダの一喝に騎士が驚いて下がる。
「女の子一人に魔王を任せちゃうのかな? 騎士様はフヌケだね」
高笑いしながら周囲の魔力に気を配る。
ベリンダが本気になった以上、気を抜いたら魔力を乗っ取られる。
近づいても影響力が増すから基本的に魔法の撃ち合いが良い。
私にとってはだけどね。
「やっぱりそう来たか」
ベリンダが土魔法で岩の壁を作って私の攻撃を防ぎつつ、一気に距離を詰めてきた。
一定以上に近づけば私の魔力を乗っ取り、無力化できると践んでのことだろう。
頭の良いこと。でも予想の範疇だよ。
彼女はもう目の前まで来ている。岩壁の向こうに魔力が集まっているから火球か何かでぶち抜いて攻撃するつもりだ。
「本当に力技が好きだね」
距離は十メートル前後。魔力は一切乗っ取られていない。
「焼け死ね」
怒りに赤黒く染まった声が私に死刑を宣告する。
直後、視界を焼き尽くす火球が岩壁を溶かして迫ってきた。
まともには避けられないか。私は覚悟を決めると風魔法で思い切り自分を横に吹き飛ばす。
猛烈な突風が体を打ち息が詰まる、足が浮くも民家にぶつかる前に何とか着地。
完全に避けきったと安堵したのも束の間、私を魔力のレールが囲んでいた。
息を飲む暇もない。
血走った目のベリンダが凄絶な笑みを浮かべるのが見えた。
「死ねって言っただろ」
絶対やだね!
私は再び風魔法を発動し移動する。
軌道を先読みしたベリンダが幾つものレールを走らせ私の行く手を阻もうとする。
そのレールの色は赤、火の魔力だ。
私は風に飛ばされながら水の魔力を片っ端から集める。
移動先の魔力も掌握できるので一時的に密度は増すものの、魔力個々への制御力が極端に落ちるからやりたくなかった方法だ。乗っ取られたら終わりだし。
しかし、ベリンダはケリがつくと思ったのか、私の魔力を乗っ取ろうとはせずに全力の火球を放った。
それを見届けた私はレールの軌道から火球の進路を予測し、懐から出した皮袋を一つ投げ込む。
足で地面を削って速度を殺し、集めた魔力で分厚い水の壁を形成、ベリンダの攻撃をギリギリで耐えきった。
水が蒸発して発生した霧が辺りを覆いかけるがベリンダの生み出した突風で消え去った。半分炭になった皮袋も一緒になって飛ばされる。
「何をした?」
無事な私の姿を見て嫌悪感も露わに彼女が問いかける。
「水の壁に当たる寸前、火球の威力が激減した。さっきの皮袋にどんな小細工をしたか、答えろ!」
言うわけ無いじゃん。
「あなたとは根本的に違うのよ」
私は五日前の台詞を繰り返し、自分の頭を人差し指で示す。
歯を食いしばるベリンダを無視して広場の周りを盗み見ると、すでに大量の騎士がこの広場に到着し、包囲網を形成していた。
ベリンダを感心したように見ている者もいる。
魔力の感知と掌握に関しては化け物だもんね、ベリンダは。さぞかし面白い見せ物だろう。
もう十分にアピール出来たでしょ。ベリンダの入団は決まりということで、無理なら無理でご愁傷様だ。
これ以上は私の身が保たない。
私が逃げの一手を打つ瞬間、広場の向こうから突然の歓声が上がったかと思うと、少し高めのテノールが広場に響いた。
「そこの娘、邪魔だ!」
え、私?
そんなわけないか。
ベリンダは背中から掛けられた声に反応して私から距離を取る。
おかげで彼女の後ろにいた声の主を見ることが出来た。
黒毛の馬に乗り黒いランスを構える金髪の青年だ。
私に向けられたランスの先に言いしれぬ恐怖を感じる。
「神の力の体現リンド・クライツェン、参る!」
頬がひきつるのを感じる。
……言ってて恥ずかしくないですか?




