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【累計5000pv突破!】最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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番外編【孤独の先に】

アウラがラルクに出会うまでのお話です。※アウラ目線

どうやって自分が生まれたのか、分からない。


物心がついたとき、荒野の真ん中にいた。


足元には、砕け散った卵の殻。


その欠片の上で、自分は親を求めるように鳴いていた。


どうして鳴いていたのかは分からない。


ただ、そうしなければいけない気がした。


きっと、親を呼んでいたのだろう。


誰かに見つけてほしかったのかもしれない。


けれど、どれだけ鳴いても、返事はなかった。


やがて声は枯れ、疲れ果て、ゆっくりと瞼を閉じた。


そのとき、不思議なことが起きた。


誰かに抱きしめられているような気がしたのだ。


柔らかくて、温かい。


まるで、僕がここにいてもいいのだと教えてくれるような温もりだった。


僕は安心して、その温もりに身を委ねた。ずっと、こうしていたいと思った。


けれど、暗闇の中で目を覚ましたとき、そこには誰もいなかった。


荒野を吹き抜ける風が、僕の身体を撫でていくだけだった。


あの温もりは、幻だったのだろうか。


誰かに愛されたいと願うあまり、自分で作り出してしまった幻だったのだろうか。


そう考えると、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


悲しかった。寂しかった。


誰かに愛されたい。


誰かにそばにいてほしい。


たったそれだけの願いなのに、どうして叶わないのだろう。


溢れる涙を止めることはできなかった。


そのまま、三日間泣き続けた。


けれど、生きていくためには泣いてばかりもいられなかった。


空腹に耐えられなくなった、重たい身体を起こし、荒野を歩き始めた。


すると、不思議なことに気がついた。


木の実のなる木を見つければ、どの実が食べられるのか分かった。


獲物を見つければ、どうすれば捕らえられるのかも分かった。


誰かに教わった覚えなどない。


それなのに、まるで最初から知っていたかのように、身体が動いた。


それだけではなかった。


人間の暮らしも、動物たちの生態も。


果ては、魔法を行使するための術式まで。


自分の中には、数え切れないほどの知識が眠っていた。


呼吸をする度、地面を踏みしめる度に知識の扉が開くように色んな事を理解出来るようになった


それでも、たったひとつだけ分からないことがあった。


自分は、いったい何者なのだろう。


自分の身体を見下ろしてみる。


全身を覆う、艶のない黒い鱗。


鋭く尖った爪。


人間とも、荒野で見かける獣とも違う姿。


いくら考えても、答えは出なかった。


それから数日、木の実をかじりながら過ごした。


美味しくもなければ、不味くもない。


ただ、お腹を満たすためだけに食べる日々。


話し相手もいない。触れ合う相手もいない。


朝が来て、夜が来る。


そんな日々が続いた。


そして、ある日のことだった。


荒野の向こうから、数人の人影が近づいてきた。


金属の鎧を身につけ、武器を携えた人間たちだった。


その姿を目にした瞬間、胸が弾んだ。


初めて、自分以外の誰かに出会えたのだ。


嬉しかった。


どんな声で話すのだろう。どんな顔で笑うのだろう。


僕と仲良くしてくれるだろうか。


そんな期待に胸を膨らませ、僕は彼らのもとへ駆け寄った。


その瞬間ズブリ、と身体に鋭い痛みが走った。


「……え?」


何が起きたのか分からなかった。


見下ろすと、僕の身体には一本の槍が突き刺さっていた。


赤い血が、黒い鱗を伝って流れ落ちる。


どうして? ただ仲良くなりたかっただけなのに。


「滅んだと思っていたドラゴンが、まだ存在していたとはな!」


鎧をまとった男が、興奮した様子で叫んだ。


「弱らせるだけ弱らせて、城へ連れて帰るぞ! 強制的に契約を結ばせれば、その力を我らのものにできる!」


男が槍を握り直す。


別の男たちも剣を抜き、僕を取り囲むように散開した。


その顔に、優しさはなかった。


あるのは、獲物として見る目だけだった。


痛い。どうして、こんなことをするの?


僕は何もしていない。


ただ、あなたたちと仲良くなりたかっただけなのに。


胸の奥が、また痛くなった。


けれど、今度の痛みは、さっき槍で刺された傷とは違っていた。


怖かった。悲しかった。そして、どうしようもなく悔しかった。


男のひとりが剣を振り上げ、刃が迫ってくる。


逃げなければ。


そう思った瞬間、僕の喉の奥から熱い何かが込み上げた。


考えるより先に、口が開く。


次の瞬間、轟音とともに、紅蓮の炎が荒野を呑み込んだ。


男たちの悲鳴が響き渡る。


熱風が吹き荒れ、地面が赤く染まった。


僕は翼を広げ、空へと逃れた。


何が起きたのか、自分でも分からなかった。


ただ、怖くて、悲しくて、涙が止まらなかった。


そのときだった。頭の奥に、知らないはずの知識が流れ込んできた。


自分の身体のこと。秘められた力のことを。


数多の竜を凌駕し、世界を統べるほどの力を秘めた存在。


エンペラードラゴン。


それが、自分の正体だった。


世界を統べる力を持ちながら誰にも愛されないのか……。


孤独だけが自分を包み込んだ。


痛い。


身体だけじゃない。


心まで悲鳴を上げるほど、痛かった。


翼を動かすたびに、槍で傷つけられた身体が軋む。それでも飛び続けた。


あの人間たちから、少しでも遠くへ。


どれくらい飛んだだろう。


やがて力尽きかけ、ふらつきながら地上へ降りた。


目の前にあったのは、崩れかけた廃墟だった。


かつては誰かが暮らしていたのだろう。壁はひび割れ、屋根の一部は崩れ落ちている。けれど、雨風をしのぐくらいならできそうだった。


その片隅に身体を横たえた。


傷が痛い。


治癒魔法を使えば、きっとすぐに治せる。


そのための知識なら、自分の中にあるのだから。


でも、そんな気にはなれなかった。


身体の傷が治ったところで、心の痛みまで消えるわけじゃない。


誰かと仲良くなりたかった。


ただ、それだけだった。


なのに、どうして傷つけられなければならなかったのだろう。


誰にも愛されないのなら。


誰にも必要とされないのなら。


いっそ、このまま消えてしまいたい。


そんなことを考えながら、冷たい床に身体を丸めた。


そのときだった。遠くから、足音が聞こえてきた。


誰かが近づいてくる。


まさか、さっきの人間たちが追ってきたのだろうか。


身体を起こし、入口に向かって唸り声を上げた。


来ないで。もう、傷つけないで。


やがて、薄暗い入口にひとりの男が姿を現した。


男は僕を見ると、驚いたように足を止めた。


けれど、武器を構えることも、こちらへ駆け寄ってくることもしなかった。


ただ、ひどく疲れたような、それでいて悲しそうな顔をしていた。


「お前を傷つけたりしない」


静かな声だった。男は少しだけ間を置いてから、ぽつりと続けた。


「俺も同じだからな」


同じ? 何が同じなのだろう。


分からなかった。


男はゆっくりと上着を脱いだ。その腕には、いくつもの痣が浮かんでいた。


服の隙間から見える身体にも、痛々しい痕がある。


思わず息を呑んだ。この人も、誰かに傷つけられたのだろうか。


自分と同じように。


痛かっただろうな。


苦しかっただろうな。


そう思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


治してあげたい。でも、怖い。


この人も、自分を傷つけるかもしれない。


どうしたらいいのか分からず、唸り声を上げたまま、少しずつ男に近づいた。


逃げられる距離は残しておく。


何かされたら、すぐに離れられるように。


そして、恐る恐る顔を寄せた。



男の腕を舐める。


ドラゴンの唾液には、傷を癒やす力がある。それは、自分自身が知っていたことだった。


男は一瞬、目を丸くした。


「……え?」


腕にあった痣が、少しずつ薄れていく。


やがて、そこには傷ひとつ残らなかった。


男は自分の腕を何度も確かめ、それから僕を見つめた。


「お前、治してくれたのか?」


小さく頷く。


痛そうだったから。治してあげたくなったんだけ。


それだけだった。


男はしばらく黙っていたが、やがて僕の傷に目を向けた。


「今度は、俺の番だな」


そう言って、男は廃墟から出て暫くすると木桶に汲んだぬるま湯、布を持って来た。


「傷の手当てをしてもいいか?」


すぐには答えなかった。怖かったから。


けれど、男は急かさなかった。


迷った末に、ゆっくりと背中を向けた。


男はぬるま湯で傷口を丁寧に洗い、汚れを落としていく。


しみるたびに身体がびくりと跳ねたけれど、男の手つきは優しかった。


乱暴に触れることも、無理に押さえつけることもない。


傷を清め終えると、持っていた布を裂き、身体に巻いてくれた。


その手が離れたとき、僕は思わず声を漏らした。


「うるる!」


自分でも驚くほど、嬉しそうな声だった。


男は一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。


「なんだ。お礼でも言ってるのか?」


その笑顔を見て、僕の胸が温かくなった。



この人なら、信じてもいいのかもしれない。そう思えた。


手当てが終わると、男は荷物から小さな包みを取り出した。


「腹、減ってるだろ。これでも食うか?」


中に入っていたのは、焼き色のついたビスケットだった。


僕は差し出されたそれを、恐る恐る口に入れた。



噛んだ瞬間、ほのかな甘みが広がる。


おいしい。木の実とは全然違う。


夢中になって、もうひと口かじった。


そして、男を見上げて「うるる!」と鳴く。


「……まだ食べたいのか?」


何度も頷いた。


手元にビスケットは無かったらしいが、またくれると約束してくれた


そのとき、思ったんだ。この人と一緒にいたいんだって。


もっと、この人のそばにいたい。でも、ただ一緒にいるだけじゃない。


世界を統べる力を持つ、エンペラードラゴンとして力を分け与えてあげたいって。


だから契約しようと決めたんだ。


ビスケットがおいしかったから、というだけじゃない。


……たぶんね。


それが、アウラとラルクの出会いだった。


あのときの選択は、間違っていなかった。


ラルクは、アウラを大切にしてくれる。


エンペラードラゴンの力を手に入れたからでも、アウラを従わせたいからでもない。


アウラをひとりの仲間として。家族として大切にしてくれるのだ。


だから、アウラは幸せだった。


「……何にやけてんだ、アウラ?」


不意に声をかけられ、僕は我に返った。


目の前には、いつものラルクがいる。


「別に何でもないぞ、ラルク。ただ、ラルクと一緒にいられて幸せだと思っただけだぞ!」


そう答えると、アウラは少年の姿のまま、ラルクのベッドへと潜り込んだ。


「おい。お前、ひとりで寝られるだろ?」


「今日は一緒に寝たいぞ。駄目か、ラルク?」


ラルクは呆れたようにため息をついた。


けれど、追い出そうとはしなかった。


アウラはそれだけで嬉しくなって、布団の中でもぞもぞと身体を丸めた。


ラルクのそばは、温かい。ひとりで眠る夜は、いつだって少し寂しかった。


けれど、ラルクと一緒なら、誰かの温もりを感じながら、安心して目を閉じられる。


ずっと、欲しかった。生まれたときから、ずっとこうやって誰かに温もりを分け与えてもらいたかったんだ。


これから沢山わがままを言うけど許して欲しいぞ。いっぱい、いっぱい甘えさせて欲しいぞ。


アウラがアウラのままでいられる、その日まで、ラルクがアウラから別れるその日まで……。


おやすみ、ラルク。


明日も、隣にいてほしいぞ。

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