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【累計5000pv突破!】最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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番外編4【来訪者】

「……何なんだよ、こいつは?」


朝、宿の部屋で目を覚ますと、俺の腹の上で黒猫が眠っていた。


図々しいことに、俺が目を覚ましたのに気づいているはずなのに、知らん顔で再び眠ろうとしている。


「おい、起きろ」


俺は黒猫を抱き上げると、身支度をしていたミーシャたちのところへ連れていった。


「誰か、部屋に入れたのか?」


「あら、可愛い猫ちゃんね! いつの間に部屋に入ってきたのかしら?」


ミーシャが黒猫の頭を撫でると、猫は気持ちよさそうに喉を鳴らした。


「触っても怖がらないところを見ると、飼い猫かもしれませんね。飼い主を探してあげましょう」


イリアは平静を装っているが、どうやら彼女も猫に触りたいらしい。そわそわと動く指先が、その気持ちを隠しきれていなかった。


俺はさりげなく黒猫をイリアのほうへ近づけながら、今日の予定を思い返した。


そういえば、町長から森の廃墟に潜む魔物を退治するよう頼まれていたはずだ。


「俺は用事があるから、ミーシャとイリアでこいつの飼い主を探してやってくれ。……って、おい!」


いつの間に移動したのか、黒猫が俺の頭の上に乗っていた。


しかも、そこから下りようとする気配がまるでない。


「俺の頭はお前の寝床じゃないぞ!」


「あはは、いいじゃない、ラルク。魔物退治をしてから、この子の飼い主を探してあげれば。猫ちゃんを守りながら戦うのだって、苦じゃないでしょ?」


「……はあ、分かったよ。さっさと用事を済ませるか。アウラはどこだ?」


「アウラさんなら、下の階にご飯を食べに行きましたよ」


「……朝から食い意地が張ってるな。まあいい、俺も朝飯を食べてくるか」


情けなく鳴る腹を押さえ、俺は一階へと下りた。


宿の食堂に向かうと、案の定、アウラがいた。


テーブルの上には大量のパンが積まれており、アウラはそれを凄まじい勢いで頬張っていた。


「今日は朝からパンか? お前が肉を食わないなんて珍しいな」


「宿のおかみさんが、パンを焦がしちゃったから、よかったら食べてくれませんかって、こんなにくれたんだぞ。焦げてても美味いぞ!」


アウラは口いっぱいにパンを頬張りながら、嬉しそうに答えた。


よく見ると、どのパンにも焦げ目がついている。とはいえ、少し焦げている程度で、食べるのに問題はなさそうだった。


「一個もらっていいか?」


「たくさんあるからいいぞ!」


そう言って、アウラはパンを食べる手を止めなかった。


「ん? ラルク、頭に何を乗せてるんだ?」


今になって、ようやく俺の頭の上にいる黒猫に気づいたらしい。


「朝起きたら、俺の腹の上にいたんだ。アウラは気づかなかったのか?」


「知らないぞ。朝までラルクと一緒に寝てたけど、起きたときにはいなかったぞ」


「そうか……」


いったい、こいつはいつから俺の部屋にいたんだろうか。


そんなことを考えながら頭の上の黒猫を撫でると、柔らかな毛並みと温かな体温が指先に伝わってきた。


妙な魔力の流れも感じない。どうやら、間違いなく普通の猫らしい。


「こいつ、俺から離れないみたいなんだ。魔物退治を先に済ませてから、飼い主を探してやりたい。お前も食い終わったら、廃墟まで一緒に来てくれないか?」


「分かったぞ!」


アウラは食堂の客たちがこちらを見ていないことを確認すると、顔だけをドラゴンの姿に戻した。


そして、テーブルの上に残っていたパンを一瞬で平らげた。


「これでいいぞ!」


「……お前、無茶するなあ」


あまりにも豪快な食べっぷりに、俺は呆れてため息をついた。


しかし、アウラは何がおかしいのか分からないらしく、きょとんとした顔で首を傾げている。


俺はもう一度ため息をつくと、頭の上に黒猫を乗せたまま食堂を後にした。

「……ここか」


町を出てすぐの森をしばらく歩くと、朽ち果てた屋敷が姿を現した。


おそらく、町長が言っていた廃墟で間違いないだろう。


窓ガラスはことごとく割れ、壁には亀裂が走っている。今にも崩れ落ちそうな有様で、とても人が住めるような場所ではなかった。


「慎重に行こう」


屋敷の中へ入ろうとした俺は、アウラに声をかけた。


ところが、振り返った先で目にしたのは、口の中に炎を溜め、今にも吐き出そうとしているアウラの姿だった。


「ば、馬鹿! 何やってんだ!」


「魔物ごと焼いた方がいいかと思ったんだけど、駄目か?」


「話し合いで解決できるなら、それに越したことはないんだよ!」


アウラは不満そうに頬を膨らませると、口の中の炎を飲み込んだ。


まったく、普段は無邪気なくせに、時折とんでもなく物騒なことをする。


……やっぱり、こいつからは目を離さない方がよさそうだ。


そんなことを考えていると、黒猫が俺たちの脇をすり抜け、屋敷の中へと入っていった。


「あっ、こら! 待て!」


呼び止めても、黒猫は振り返りもしない。


「……しょうがないな」


俺とアウラは、慌ててその後を追った。


屋敷の中に足を踏み入れた途端、鼻を突くカビ臭さが襲ってきた。


床には苔が広がり、あちこちから色の悪いキノコが生えている。壁の染みや剥がれ落ちた壁紙も相まって、長い間、人の手が入っていないことが嫌でも伝わってきた。


奥へ進むにつれて、辺りは次第に暗くなっていく。


俺は手のひらに光球を生み出し、周囲を照らした。


「おーい! どこまで行くんだよ!」


呼びかけながら進んでいくと、廊下の突き当たりに赤い扉が見えた。


扉は半開きになっており、その隙間の向こうへ黒猫が消えていく。


「まったく、手のかかる猫だな……」


俺はため息をつきながら扉を押し開け、アウラとともに部屋へ足を踏み入れた。


――バタンッ!


背後で、扉が勢いよく閉まった。


「……っ!」


反射的に振り返った俺の耳に、アウラの低い唸り声が届いた。


「ラルク! 何かいるぞ!」


アウラは身構え、部屋の奥を睨みつけていた。


その視線の先には、白い球体がいくつも並んでいた。


最初は何かの置物かと思った。


だが、光球を近づけた瞬間、俺は息を呑んだ。


それは、真新しい頭蓋骨だった。


一つや二つではない。


十を超える頭蓋骨が、まるで何かの儀式に使うかのように並べられていた。


「……ふざけやがって」


喉の奥がひりつく。


いったい、どれだけの命が犠牲になったというのか。


込み上げる焦りを押し殺し、俺は部屋の奥へ向かって声を張り上げた。


「姿を見せろ!」


その瞬間だった。


ミシリ、と頭上で不気味な音がした。


裂けた天井の隙間から、黒い塊が次々と姿を現す。


それらは一斉に俺たちめがけて飛びかかってきた。


「アウラ! 行くぞ!!」


アウラが口から炎を吐き出す。


俺はその炎に雷の魔力を纏わせ、襲いかかってくるネズミだけを追尾するように魔力を操った。


炎と雷を帯びた攻撃が、黒い塊を次々と呑み込んでいく。


だが、焼かれたネズミたちは、悲鳴を上げる間もなく青白い光を放ち、跡形もなく消滅した。


「何だ、こいつら……!」


消えていく光を見つめた、その直後。


散り散りになった青い光が、空中でうごめき始めた。


まるで何かに引き寄せられるように、一つ、また一つと集まっていく。


やがて、青い光の塊は巨大な影を形作った。


ギチギチと、何かを噛み砕くような音が響く。


光が弾け、姿を現したのは、巨大なネズミの化け物だった。


濁った目が、俺たちを見下ろしている。


「ここからは逃げられんぞ。お前らは、わしの餌だ」


化け物は、口元を歪めて不気味に笑った。


「町長の言っていた魔物は、こいつだったのか……!」


「魔物だと? そんなちんけな存在と一緒にするな。私はネズミの王、クライシェッド! 低俗な魔物どもなら、そこに転がっておるわ!」


クライシェッドは、足元に転がる頭蓋骨を指さし、高らかに笑った。


「……お前が食ったのか?」


「味は最悪だったが、腹を満たすにはちょうどよかった。さて、次はお前たちを齧らせてもらおうか」


魔物を食らう化け物か……。


話し合いで解決できる相手ではなさそうだ。倒すしかない。


俺が身構えた、そのときだった。


不意に、黒猫が姿を現した。


「おい、今出てくるな! 食われるぞ!!」


だが、黒猫は俺の忠告など気にも留めていない様子だった。


のんびりと毛づくろいを済ませると、ひと声鳴いて、クライシェッドへと歩み寄っていく。


「猫か? これはいい!」


クライシェッドは猫を見下ろし、醜悪な笑みを浮かべた。


「散々、我らネズミの仲間を食らってきたお前たち猫には、恨みがある。ここでたっぷり晴らさせてもらおうか!!」


クライシェッドが大きく口を開き、黒猫に食らいつこうとした。


その瞬間、黒猫の影が膨れ上がった。


一瞬にして巨大な影となり、クライシェッドの体をすっぽりと覆い尽くす。


「な、なんだ……? うわああああっ!!」


悲鳴が響き渡った。


続いて、バリバリと何かを噛み砕く音が聞こえてくる。


そして、静寂が訪れた。


やがて、何事もなかったかのように黒猫が姿を現した。


その口元は、もぐもぐと動いていた。


俺は、しばらく言葉を失っていた。


あれだけ大口を叩いていたネズミの王が、あっという間に食われてしまったのだ。


「……お前、何者なんだ?」


俺が問いかけると、黒猫は答える代わりに、俺の膝へ頭をこすりつけてきた。


そして、ひと声鳴くと、その姿をふっと消してしまった。


二度と現れることはなかった。


「……ただの猫じゃなかったのか」


呆然と立ち尽くす俺の隣で、アウラも黒猫が消えた辺りをじっと見つめていた。


「あれは、ただの猫じゃないぞ。ほんの一瞬だったけど、凄まじい魔力を感じた」


「お前にも分かったのか?」


「うん。でも、悪い奴じゃないから、放っておいて大丈夫だぞ」


アウラは、あっけらかんと答えた。


確かに、悪意があったのなら、俺たちにもいつでも危害を加えられたはずだ。


それなのに、黒猫は俺たちには何もせず、気まぐれに現れて、気まぐれに去っていった。


どうやら、敵意があって近づいてきたわけではなさそうだ。


「……結局、あいつは何がしたかったんだ?」


「気まぐれに遊びに来たんじゃないか? 猫っていうのは気まぐれなんだぞ」


「まあ、そうかもしれないな」


アウラとそんな他愛もない話をしながら、俺たちは宿へと戻った。


部屋に近づくと、ミーシャとイリアの慌てた声が聞こえてきた。


「ラルク! ちょっと、これ見て!」


部屋に入るなり、ミーシャが駆け寄ってきた。


その手には、鈍い輝きを放つ金塊が握られていた。


「どうしたんだ、それ?」


「買い物から戻ったら、部屋に置いてあったの! ラルクたちが持ってきたんじゃないの?」


「いやいや、知らないぞ。町長に魔物退治の報告をして、銅貨三十枚はもらったけどな」


俺が首を振ると、ミーシャは困惑した表情でベッドを指さした。


そこには金塊だけでなく、薄汚れた金貨や小さなダイヤモンドまで置かれていた。


いったい、誰がこんなものを?


騒ぎを聞きつけたのか、宿の主人まで部屋にやってきた。


「どうかされましたか?」


俺たちは、部屋に戻ったら財宝が置かれていたことを説明した。


すると、宿の主人は財宝を眺めながら、何かを思い出すように考え込んだ。


「……なるほど。気まぐれのアリアは、本当に実在したようですね」


「なんだ、それ?」


俺が尋ねると、宿の主人は少し羨ましそうな顔で答えた。


「神様とも妖精とも呼ばれる、不思議な存在ですよ。ふらりと人前に現れて、富を授けたり、災厄から守ってくれたりするそうです。もっとも、いつ、どこに現れるのかは誰にも分かりませんけどね。お客様は、本当に運がよかったようですね」


宿の主人は、どこか羨ましそうに財宝を見つめていた。


「アリアっていうのは、猫の姿をしているのか?」


「いえ、決まった姿はないそうです。人間だったり、馬だったり、出会う人によって姿を変えると言われています」


あいつ、猫じゃなかったのか。


そういえば、あれほどの魔力を持っていながら、俺たちには何も要求してこなかった。


ただ気まぐれに現れて、俺たちを助け、何事もなかったように去っていったのだ。


「今度会ったら、何か礼をしないとな」


俺は、ベッドに置かれた財宝を見下ろした。


金塊の大半は町長に預けて、町の人々のために使ってもらおう。


俺たちだけで使うには、いささか多すぎる。


そんなことを考えていると、ふと、どこからか猫の鳴き声が聞こえた気がした。


俺は思わず、声のした方へ顔を向けた。


もちろん、そこには誰もいない。


「いつでも遊びに来いよ」


誰に聞かせるでもなく、俺はぽつりと呟いた。


それから財宝を袋に詰めると、俺たちは宿を後にした。


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