旅は続く
町に戻ると、サキが俺とアウラを待っていた。
そして、開口一番に「また旅をしようと思う」と俺に告げた。
「元の世界に帰れないからか?」
「そうじゃないの。帰ろうと思えば帰れる。……でも、このままじゃ帰れないよ。本当の平和を見届けるまでは帰れない」
サキは俯いていた。
ギルバートの脅威は去ったが、その爪痕はまだ残っているのかもしれない。
責任感の強い彼女だからこそ、その後始末をしなければ気が済まないのだろう。
「だったら、セルジュと旅をするといい。あいつに勇者とは何かを教えてやってくれ」
「うん。十年も魂だけで彷徨っていたから、私の方が学ぶことが多いかもしれないけど」
サキは少し自嘲するように笑った。
その笑顔は、以前よりも自然なものになっていた。
「困ったことがあったら、いつでも頼りに来てくれ」
「今度会ったときは、アウラの秘蔵の干し肉も分けてやるぞ!」
アウラはどこからか干し肉を取り出し、サキの前に差し出した。
「あはは、ありがとう。それじゃ、行くね」
サキは俺たちに手を振って別れを告げると、口笛でライカを呼び、その背に乗って旅立っていった。
旅の先に何が待っているのか、俺には分からない。それでも、いつか彼女が心から笑える日が来ることを願っていた。
俺たちは旅を続けることにした。
元々、魔王を倒すことが目的ではないし、空飛ぶ島を楽園にするという目的もまだ果たせていない。
「ラルク、見て! 魚が空を泳いでるわよ!」
鰯のような魚の群れが空中を泳ぐ姿を見て、ミーシャは子供のようにはしゃいでいる。
「こんな所にも空魚がいるんだな」
「あれだけいるなら、少しくらい食べても……」
「止めとけ! 少しじゃ済まないだろうが!」
俺にたしなめられたアウラは、吹き慣れない口笛を吹いて誤魔化していた。
それを聞いて、イリアが楽しそうに笑う。
「イリアは俺たちと別れなくて良かったのか?」
「はい。こうして旅をしていれば聖女としての役目を果たせますし、何より皆さんと一緒にいられるだけで楽しいですから……。それに……」
そう言って、イリアは顔を赤らめ、もじもじし始めた。
「それになんだ?」
「ああ、いえ! ミーシャさん、ちょっとお話が!」
そう言うと、イリアはミーシャの元へ駆けていった。
……俺、何か余計なことを言ってしまっただろうか?
そんな俺の隣を歩いていたアウラが、竜の姿のまま頭をこすりつけてきた。
「どうした、アウラ?」
「ラルクと契約してよかったぞ。生まれてすぐに人間に殺されそうになって、すごく怖かったけど、ラルクはアウラを怖がらずに傷の手当てをしてくれた。その時から、アウラはラルクを家族みたいに思ってるぞ」
俺は、初めて廃墟で血まみれのアウラと出会った時のことを思い出していた。
役立たずのドラゴンテイマーだと馬鹿にされ、傷つけられ、心が折れかけていたあの頃。
そんな時に、俺はアウラと出会ったのだ。
俺はそっとアウラの頬を撫でた。
「お前と会えて、本当によかったよ。こうして大事な仲間たちと出会えたのも、お前のお陰だからな」
「違うぞ」
「何が違うんだ?」
俺が尋ねると、アウラは真面目な顔で答えた。
「ラルクがちゃんと行動したからだぞ。ちゃんと言葉にして、自分の気持ちを相手に伝えたから、今があるんだぞ。アウラは少し手伝っただけだ」
「そうかな?」
「そうだぞ。でも、好きって気持ちはちゃんと伝えないといけないぞ」
悪戯っぽく笑ったアウラは、なぜかミーシャとイリアの方を眺めた。
「大丈夫だ。ミーシャもイリアも大切な仲間だからな」
「はあ……。ラルクが誰かと夫婦になるのは、まだまだ先みたいだぞ」
「どういう意味だよ!」
いくら聞いても、アウラは誤魔化すばかりだった。
アシュリーが魔王としてやっていけるのか、バロックがこれからどう立ち回るのか。気になることはまだまだある。
それでも、俺たちは気ままに旅を続ける。
世界の命運なんて気にせず、笑いの絶えない旅を……。
これにて、第一部完結です。
ここまでラルク達の旅を見届けてくれてありがとうございました。
書いてて挫けそうになりましたが、読んでくれてる方がいてくれたことが何よりの励みになりました。
残っている謎などは二部で粗方書く予定です。
第二部を書く前に充電期間として、二週間〜三週間お休みをいただきます。
その間に番外編等を公開するかもしれませんのでお楽しみに




