痛みの残る結末と新たな日常
リンドバーグの死は、瞬く間に町の人々へと伝わった。
皆は口を揃えて、彼の死を悼んだ。
彼自身は領民のことなどどうでもいいと思っていたようだが、領民たちの目には立派な領主として映っていたのだろう。
彼の葬儀には、町の住人の大半が参列していた。
俺は、リンドバーグが暴走していたことを誰にも話さなかった。
真実を明かすよりも、愛される領主のままでいた方が、町の人々にとっては幸せなのだろうと思ったからだ。
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町から離れた丘で、サキは守護獣の頭を撫でていた。
「ここにいたのか?」
「長い間、この子を待たせちゃったからね。ごめんね、ライカ」
そう言って、サキはライカの頬を優しく撫でた。
ライカは気持ちよさそうに目を細め、安心したような表情を浮かべていた。
「リンドバーグは、最後に救われたんだ。あんたに会えて、自分の罪と向き合えたんだ。だから、そんなに落ち込むな」
リンドバーグが最期に浮かべていた顔は、実に穏やかだった。
俺とあのまま戦い続けていたら、あんな顔で最期を迎えることはできなかっただろう。
「でも、私のせいで彼はおかしくなった。そして、世界中の人々を悲しませたんだよ……。全部、私のせいだ……」
サキの声は震えていた。
リンドバーグの愛情を歪ませ、彼を利用しようとしたギルバート。そして、そのギルバートに利用される形で、リンドバーグの暴走を招いてしまったこと。
サキは、そのすべてを自分の責任だと感じているのだろう。
「……全部背負い込もうとするな。勇者だからって、人の心までどうにかできるわけじゃない」
「でも、でも、私がいなければ、リンドバーグさんは死ななかったかもしれない……。私さえいなければ……」
「サキ、それは違う」
「私が勇者になんてならなければ……」
「サキ!」
サキは自分を責め続け、俺の声が耳に入っていないようだった。
このままでは、いつまでも自分を責め続けてしまうかもしれない。
俺は、サキの頬を叩いた。
悲しみに囚われてしまった彼女に、目を覚ましてもらうために。
「世界を旅して、その先々で人々を救ったんだろ? 笑顔を守ってきたんだろ。それは、あんたじゃなきゃできなかったと思う。自分自身を否定するってことは、あんたが守ってきたものまで否定するってことだ」
サキは静かに泣き出した。
旅をしていた頃のことを思い出したのかもしれない。
「立ち上がれないようなら、いつでも力を貸してやるよ」
ライカがサキに頭をこすりつけている。
サキの相棒であるこいつがそばにいれば、俺が手を貸さなくても、自分の力で立ち上がれるかもしれない。
そんなことを考えていた。
「ラルク、ありがとう」
涙目のまま、サキは笑ってみせた。
けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。
俺は「またな」と手を振り、サキと別れてミーシャたちのもとへ向かった。
「ラルク! また危ないところに行ってたんじゃないでしょうね?」
どうやらミーシャは、俺が一人でリンドバーグと戦ったことを、まだ根に持っているらしい。
「違うって。サキと話してたんだよ」
「ふーん、浮気じゃないでしょうね?」
ミーシャは疑いの眼差しを俺に向けてきた。
「大丈夫だぞ! ラルクはミーシャ一筋だから、もがっ!」
俺は慌ててアウラの口を塞いだ。
「肉を奢ってやるから黙ってろ」
「分かったぞ。豚肉……いや、牛肉も捨てがたいぞ……」
どうにか誤魔化せたかと安心していると、ミーシャが悪戯っぽい顔をした。
「本当は知ってるのよ。……ラルクも私のことが好きだってこと」
「えっ!」
「私が邪神の魂に襲われたとき、何て言ったか覚えてる?」
何を言ったのか思い出し、俺は赤面してしまった。
ミーシャを俺の女だと言ったことを。
「あ、あれはだな……」
「ふふっ、私、凄く嬉しかったんだから」
そう言ってミーシャは俺の額に唇を押し当てると、宿の部屋から出て行ってしまった。
ミーシャには敵わないな。
俺は照れ笑いを浮かべていた。
「ラルクさん、お客さんが来てますよ」
ミーシャと入れ違いに、イリアが部屋に入ってきた。
「俺に客?」
「はい。身なりの良い女の子が、ラルクさんに会いたいと宿の待合室で待っています」
女の子の知り合いといえば、ティアだろうか?
俺は待合室に向かったが、そこにいたのは見覚えのない幼い少女だった。
ただの少女ではない。凄まじい魔力を秘めている。
「久しぶりだな、ラルク」
「何者だ!」
俺は雷の槍を少女に突き付けた。
「わ、わしだ! マスタードラゴンだ!」
少女は怯えた顔で両手を上げ、敵意がないことを示そうとした。
「マスタードラゴンは爺さんだぞ! お前みたいな子供じゃない!」
「ギルバートの魂を浄化の炎で焼くときに魔力を使いすぎて、人間にうまく変身できんのじゃ! エンペラードラゴンの子を連れてこい!」
俺は大声でアウラを呼んだ。
やって来たアウラは、少女の匂いを確かめるように鼻をひくつかせた。
「間違いないぞ! このチビはマスタードラゴンだぞ!」
「すまん」
「もっとしっかり謝らんか! わしに槍を向けおって……」
マスタードラゴンは不満そうに俺を睨んだが、すぐに何かを思い出したように表情を改めた。
「ああ、そうじゃった。お主の活躍を見て、人間の世界に行きたいというドラゴンの一部を、人間界に住まわせることにしたのじゃ」
「ドラゴンの一部? 全員じゃないのか?」
「そうじゃ。前に段階的にと言ったじゃろ? そやつらが人間とどう付き合うか、そして人間がそやつらをどう受け入れるか。それを見て、今後のドラゴン族と人間の付き合い方を決めようと思う。異論はないか?」
ドラゴンたちが大昔のようにこの世界へ戻ってくれば、俺に血印の儀式を教えてくれた爺さんや、バノンの町にいるクロスは喜ぶだろう。
だが、一部の人間はドラゴンを恐れ、倒そうとする輩まで現れるに違いない。
「俺も、ドラゴンは恐ろしい存在じゃないって伝えて回るよ。だから、あんたもドラゴンたちに人間のルールを守るよう伝えてくれ」
「もちろんじゃ。規則を破るようなドラゴンは、すぐに連れ戻して再教育してやるから安心せい!」
そう言って、マスタードラゴンは高笑いした。
すると、アウラが俺の服の裾を引っ張った。
「……アウラより強いドラゴンがいたとしても、アウラと契約してていてほしいぞ」
どうやら、アウラは嫉妬しているらしい。
まったく、可愛い奴だ。
俺はアウラの頭を優しく撫でた。
「当たり前だろ。俺はお前がそばにいてくれれば、それでいいんだ。どんなドラゴンと出会っても、お前とは離れないさ。家族だろ? 俺たちは」
「ラルク!」
アウラは嬉しそうに叫ぶと、俺を力いっぱい抱きしめた。
俺もアウラを抱きしめ返す。
その小さな体から伝わる温もりに、俺たちの心が確かにつながっていることを感じるのだった。




