進む者、立ち止まる者
包み込まれような柔らかなソファに座る俺の前に、テーブルを挟んで男が座っている。
カップのコーヒーを飲むように促し、俺は甘ったるいコーヒーを飲み干した。
「ドラゴンテイマーの君にしか出来ない事だ受けてくれないか? 受けてくれるなら惜しみなく君の旅の支援をさせて貰うつもりだが……」
「そんなに言うなら受けてやるよ。やり方は俺に任せてくれ」
やれやれ、どうしてこんな面倒な事になったのか。
俺は順を追って思い出していた。
何処までも続いていそうな緑の草原を俺達は歩いていた。
飛んで行った方が早いのだろうが冒険の初心者であるティアに雰囲気を感じさせる為に歩く事にした。
「ラルクさん、綺麗な花が咲いてますよ! うわあ、凄くいい匂い」
何もかも初めてのティアにとっては何を見ても新鮮に見えるのだろう。無邪気にはしゃいで年相応の子供みたいだと俺は思わず笑う。
「ああいうのが好みなのラルク?」
嫉妬と軽蔑の混じった目つきを向けるミーシャに俺は困惑していた。なぜ、そんな考えに至るのかと。
「ティアは子供だぞ? 変態じゃないんだからそんな目で見るわけ無いだろ!」
「本当? なら良いの。えへへ」
上機嫌になりティアと花を摘むミーシャ見て彼女の中で何が有ったかのか理解出来かった。俺には女心は理解出来ないのだろうな。
草原を抜けると遠くに町が見えた。
「今夜の宿はあそこだな」
「ラルク、久しぶりに肉が食べたいぞ」
俺の隣に来た少年姿のアウラがお腹を鳴らせ、腕に抱きついて来る。エンペラードラゴンの威厳とやらは何処にいったんだか。俺は密かに苦笑いしていた。
「満足するまで腹いっぱい食わせてやるよ。だから、野生の獣を捕まえて食おうとするなよ」
「了解したぞ〜。にーく、にーく、にーく」
リズミカルに肉を連呼するアウラを先頭に俺らは町の門へとたどり着いた。ティアも花の冠を被りながらこっそりアウラの真似をしていたが俺にばれると恥ずかしそうに赤面していた。
何処が美味い店か分からないのである程度混んでいて、無駄に騒ぎ立てるような下品な客のいない飲食店に入る。
煉瓦造りの店内はカンテラが吊るしてあり、優しい灯りが年季が入っているフローリングの赤みがかった飴色の床を照らしている。
「私、シチューにしようっと。 ティアは何にする?」
「えっと、色々有って分からないや。この親子丼って言うのにしてみようかな?」
「待て待て、何だその料理は聞いたこともないぞ」
メニュー表を眺めると奇妙なメニューが幾つか載っていた。
「オムライス? チャーハン? すし? 本当に食えるものなのか? ちょっと来てくれ!」
目に止まった小柄の員を呼ぶと愛想よくこちらにやって来る。
「注文はお決まりでしょうか?」
「この聞き慣れない料理は本当に食べれるのか? ゲテモノなんじゃないだろうな」
「どれも当店の人気メニューですよ。この町に訪れた勇者様が伝えたと言われるメニューで、変わった調味料で作らた料理で癖が有りながらどれも絶品ですよ」
値段も他のメニューの倍はしている。それだけ味に自信があるのだろう。
結局、変わった物を食べる気にならなかった俺と、牛肉を豪快に食べているアウラ以外は奇妙なメニューを選んだのだった。
「ラウルもオムライス食べない? この甘酸っぱくてスプーンが止まらなくなるよ」
「親子丼も美味しいですよ。鶏肉と卵が柔らかくて甘じょっぱい味わいが癖になります」
「パンとスープ食べたから俺は遠慮するよ。それにしても米を主食にするなんて珍しいな」
レガリア王国では米は栽培に適さず、主食にならなかったが適した土地がこの町にあるのだろう。
米を主食とした奇妙なメニューを考案すり、勇者はどのような人物だったのか気になっていた。
会計を済ませた後に店員に勇者を知る者はいないか尋ねる。
「勇者と親交のあったリンドバーグ様くらいですかね。この町の領主様です。お忙しいので会えるかは分かりませんよ」
地図を書いてもらい俺はアウラ達を宿に待たせてから、一人領主の屋敷に向かう。
領主の屋敷は屋敷と言えるほど立派ではなく、ほとんど民家と遜色はない石造りの2階建ての建物だった。
門を潜ると庭で薔薇に水をやる中年の男がこちらに気付く。
「リンドバーグ様に会いに話を聞きに来たんだがいるか?」
「リンドバーグは私だ。君はドラゴンテイマーだね」
「ドラゴンテイマーだったらどうする?」
警戒しているとリンドバーグは、頭を下げる。
「気に障ったなら申し訳ない。出切れば話しを聞いて欲しい」
領主というからふんぞり返ってるかと思ったが腰が低くて驚いた。敵では無さそうだし話くらい聞いてやるか。
応接間に通されソファーに座るとリンドバーグは話を切り出した。
「君が来ることは勇者サキから聞いていたよ。彼女は未来が見えるみたいだったからね」
「その勇者サキはどこに?」
「帰ったというべきか……。ある日、この世界から消えてしまったよ。それを受け入れない彼女の守護獣が暴れているんだ十年もの間ね。君に、その守護獣を止めて欲しい」
「消えた? 魔王だって倒されて居ないのに役割を放り出したのか?」
「違う!! 彼女はそんな情けない者ではない!!」
初めてリンドバーグは声を荒らげた。勇者の事を知ってるからこその怒りがそこに見えた気がした。
「すまない。取り乱して」
「いや、こちらこそ軽率な事を言って悪かった」
そして冒頭に至る事になる。
一旦宿に戻り経緯を話すと安請け合いだとミーシャは呆れていた。
「ラルク強いけど、勇者の守護獣なんて勝てる訳ないわ。断りに行きましょう」
「いや、やってやるよ。リンドバーグの痛みに触れちまったみたいだし、その詫びも兼ねてな。俺一人で行くから皆はここで待ってろ」
アウラはじっと俺の目を見ていたが「勝ってこい!」と俺の背を叩いて送り出す。
「忘れ物!」
そう言ってミーシャは盾を手渡して俺の頬にキスをする。
「無事に戻って来れるおまじない」
赤面しながら部屋にミーシャは戻る。これで死ねなくなったと俺は、夕陽が沈む中リンドバーグに渡された地図の記された場所、北東の丘に向かう。
向かった先には真っ黒な一角の馬がいた。いななく度に辺りに雷を落とし周囲のものを近づけさせないようにしてるようだった。
「来い! 相手してやる。」
馬はこちらに気付くと雷を俺に向けて何度も落とす。
右へ左へと、どうにか交わすと眼前に馬の角が迫る。
角を掴んで投げ飛ばしてやったが、その直後俺の真上に先程とは比べ物にならない雷が迫っていた。
直撃したはずだったが盾が雷を弾いた。
この機会を逃さず俺は馬に駆け寄り、その頬を叩いた。
「めそめそ、めそめそして当たり散らしてサキが喜ぶかよ。サキが戻って来たいと思えるような事でもしたらどうだ!!」
やり返して来る様子は無かった。馬は涙を流して佇んでいた。こうやって誰かに叱られたかったのかもしれないと俺は馬に同情していた。
夜は明けた様だと白なんだ空を見て俺は思っていた。
リンドバーグに報告すると生きて帰ったかと案じてくれた様子だった。
「サキはどんな勇者だったんだ?」
「楽しい事や人を楽しませるのが好きで料理や歌を教えてくれたよ。なのに突然消えてしまった。何が有ったか私が知りたいくらいだ」
酷く疲れた顔をしていた彼は改めて俺に礼を言うと屋敷の中に戻る。一人になりたいのだろうと俺も何も言わず宿に帰る事にした。
宿に戻るとアウラが真っ先出迎えて来て、俺の腹に顔を埋める。
俺はアウラを撫で回しながら、心配かけた事を詫びるのだった。




