救い
俺たちは、それの方へ向き直る。
そこには、セルジュの聖剣がそれの胸にある石へ、深々と突き刺さっていた。
石からはドス黒い魔力が溢れ出し、それの体はどろどろに溶け出して崩壊していく。
セルジュは風の魔術を使ったのか、ふわりと地面に降り立つと、それから離れて身構えていた。
「これで終わったのか?」
まだ終わったとは思えなかった。
何とも言えない嫌な感じが、俺の不安を掻き立てている。
それの体が崩壊すると、中から青黒く光る巨大な球体が現れた。
球体が禍々しい光を放つ。
すると、それの体は瞬時に再生した。
「あれを破壊しないと駄目みたいだな」
「駄目だぞ、ラルク」
「何が駄目なんだ?」
「あの球体は、苦しい、助けてって言ってるぞ」
アウラは辛そうな顔をしている。
アウラにだけ、あの球体から発せられる悲痛な声が聞こえているのだろう。
「あの球体は傷つけちゃ駄目よ。あれは人や魔物の魂よ」
エレノールが、いつの間にか俺の隣を飛んでいた。
イリアがエレノールに祈りを捧げたから、来てくれたのだろうか。
「お前も来てくれたのか?」
「女神の私が来てあげたのよ! もっと感謝しなさいよ。イリアちゃんが貴方を助けてって私に祈るから、来てあげたのよ!」
「相変わらずうるさいな。あの球体が魂だというのは本当か?」
「う、うるさい……。まあいいわ。あれは無理やり集められた魂が凝縮されているみたい。酷いやつもいるものね」
バロックの配下を名乗っていた魔族が、邪神を復活させるために魂を集めると言っていた。
邪神の体に入れる動力源を作るためだったのか。
実際は、バロックの配下を名乗るギルバートの配下が集めていたのだろう。
こんな吐き気を催すような行為を、平気でやるものなのか。
俺は内心、怒りを覚えていた。
「どうすれば、あの魂たちを解放できる?」
「あの体が崩壊した瞬間に、魂たちの呪縛を解けばいいの。私が魂の呪縛を解くから、あなたたちはもう一度、あれの体を破壊して」
簡単に言ってくれる。
奴も馬鹿じゃない。
同じ手が通用するだろうか?
「……できないって駄々をこねても始まらないよな。もう一度だけやってやる」
「それまで私は安全な場所に隠れてるわ。あ、その前にこれをあげる」
エレノールはそう言って、緑色の液体が入った瓶を俺に手渡した。
「何だ、これは?」
「世界樹の朝露よ。これを飲めば魔力が回復するわ。希少なものだから、それだけしかあげられないけど」
俺は迷わず瓶の蓋を開け、液体を飲み干した。
消耗していた魔力が、内側から湧き上がってくるようだった。
これなら戦える。
「ふぅ、助かったよ。やっぱり女神様ってのは役に立つな。行くぞ、アウラ」
「感謝して敬ってよ! もう、これだから信心深くない人は……」
後ろでエレノールがぶつぶつ言っていたが、俺はアウラの背に乗り、それに向かって飛んでいく。
それは俺たちに気づくと、雷を落とした。
光線以外にも、魔法を使うことができるようだ。
だが、こいつもセルジュに石を破壊され、黒い魔力を放出している。
無限に魔力が湧かない限り、それにも限界があると俺はにらんだ。
思った通り、それの攻撃は徐々に威力が衰えているようだった。
これなら、わざわざ防御をしなくてもいいだろう。
それは俺たちに向かって、再び光線を放とうとした。
「そう何度も……」
俺が言いかけた瞬間、それは顔を伸ばし、俺たちを飲み込んだ。
光線はフェイクだったのだ。
「ラルク、無事か?」
「ああ、大丈夫だ」
腐敗臭のような臭いが、目や鼻を刺激する。
光の球で辺りを照らすと、俺たちは脈打つ黒い肉でできた空間に閉じ込められていた。
ここは胃の中だろうか?
そんなことを考えていると、辺りを泥状の化け物たちが取り囲む。
「俺たちを弱らせて、ゆっくり消化しようってか? 残念だな。ランチはお預けだ!」
アウラの吐く炎に雷の魔力を混ぜ合わせ、周囲一帯に炎と雷を降り注がせた。
化け物たちは奇声を上げながら消滅していく。
「しばらくしたら、また新しい奴が来るぞ」
「その前に脱出するか? いや、待てよ」
試しに俺は、黒い肉の壁に冷気の魔法を当ててみる。
すると、瞬時に肉の壁は凍りついた。
こいつの腹の中には、魔法への耐性がないらしい。
こいつの魔力は、おそらく闇。
体内から光の魔力を流し込めば、体を破壊できるかもしれない。
「アウラも手伝え。光の魔力を全力で流すぞ」
「こいつの魔力の流れに沿って流せば効率的だぞ。右に三歩、前に五歩辺りでやるぞ」
アウラに言われた辺りに俺が手を置く。
アウラはその手に自分の大きな手を重ね、魔力を流し込み始めた。
その瞬間、周囲が激しく揺れ始めた。
断末魔のような声が上がると、周囲の肉も溶け始めた。
そして、剥き出しになった魂たちが俺たちの前に現れた。
「辛かったな。でも大丈夫だ。女神様がお前たちをきっと救ってくれる」
俺の声が届いたかは分からない。
それでも、魂たちが少し震えた気がした。
そしてエレノールが現れ、魂たちに手をかざす。
魂たちは淡い光に包まれ、一つ、また一つと解放されていく。
二度とこんな目に遭わせないからな。
俺は魂たちに、心の中でそう誓った。




