女神が生まれた日
「ドラゴン様が、こんなに大勢来てくれるとは……。神のお導きでしょうか」
俺達は案内された小屋に通された後、長老だという手足の生えた茸が俺達の元にやって来た。
「私達、美味しそうな木の実を探してたのよ。ギャオー」
「ミーシャ、ドラゴンはそんな間抜けな鳴き方はしないぞ。もがっ!」
「しーっ! 今は話を合わせなさいよ!!」
ミーシャは呆れたような顔をしたアウラの口を慌てて塞ぐ。
俺達がドラゴンではないとばれれば、魔物の住人達に何をされるか分からない。ミーシャが慌てるのも無理はなかった。
「仲が良いですな。ご夫婦ですか?」
「ち、違うわよ! 変な勘違いしないで!」
「それより、俺達に頼みが有るんだろ?」
このままだと話が進まないと、俺が話題を変えると長老は俯いて「……はい」と答えた。
「最近、人間達がこの辺りの森を切り拓いて町を作ろうとしているのです。そうなれば、遅からず人間と対立する事になるでしょう。どうにか、ドラゴン様のお力で人間達を退けていただけないでしょうか?」
「見た目の恐ろしい魔物達を向かわせて、驚かせたら近寄らなくなるんじゃないか?」
俺が提案すると長老は首を横に振る。
「ゾンビ達にやってもらいましたが、効果が有ったのは最初だけ、次来た時には騎士や兵士を連れて視察に来ました。力では我らが勝つでしょう。しかし、子供達の前で人間と争う姿を見せたくはないのです」
子供の魔物達の為に平和的な解決をしたいと言うのか、その考え方は嫌いじゃない。
何とかしてやろうじゃないか。
「こうなったら森の女神様にお越し願おうか?」
俺が不敵に笑うと皆は困惑したような顔をしていた。
「ラルクさん、女神様なんて簡単には呼べませんよ」
「いるじゃないかここに」
俺がイリアの肩を叩くと、イリアは驚きの声をあげた。
「本当に上手く行きますかな?」
「良いから見てろ」
長老に何時も人が視察に来る場所に案内させ、人が来るのを俺達は待ち構えていた。
その内人の話し声が聞こえる。
「この辺りは危険な場所は無いようですね」
「騎士団長に報告して、開拓の準備を始めさせたほうがいいだろうな」
甲冑を着た数人の男達が話し合いながら、こちらに近づいて来る。
「お待ちなさい……」
イリアの厳かな声が辺りに響く。
男達が足を止める。
次の瞬間、彼らの頭上に一人の少女が姿を現した。
キトンを身にまとったイリアが、俺の風の魔術によって宙に浮かんでいる。
「誰だ! この前の化け物の仲間か!」
「私は森の女神です。ここは森の生き物達の憩いの場。人間達の好きにしてはいけまん」
嫌がっていた割に様になっているイリアの姿を見て俺が感心していると、男達が騒ぐ。
「女神だと? なら証拠を見せてみろ。出来ないなら、この剣の錆にしてやる」
凄む男達に顔色一つ変えずにイリアは木に手をかざす。
俺は誰にも気付かれないよう、木に魔力を流した。
すると、枝の先に小さな花が咲く。
花は瞬く間に膨らみ、真っ赤な林檎へと変わった。
イリアは、男の一人に林檎を渡すとにこりと微笑む。
男達はうっとりとイリアを見つめている。
「本当に女神様がいたとは! すみませんが最後に一つ奇跡を見せてもらえませんか?」
男の頼みに応えるようにイリアは空を仰いだ。
すると、それまで晴れていた空から静かに雨が降り始める。
雨はすぐに止み、雲の切れ間から陽の光が差し込んだ。
その瞬間、森のあちこちで、一斉に花が咲き始めた。
青いバラだった。
地面を埋め尽くすように咲いた青い花々が、陽光を受けてきらきらと輝いている。
さらに森の奥から鹿や猪が姿を現した。
獣達は人間を恐れる様子もなく、花の間を楽しそうに駆け回っていく。
この時には男達は、誰一人リリスが女神だと疑っていないようだった。
「ここは人の立ち入って良い場所ではないのですね。上の者には、ここに手を出さない様に伝えておきます」
イリアは、遠ざかっていく男達に笑顔で手を振っていた。
しばらく待ち、もう誰も来ないことを確認すると、俺達はイリアの元へ駆け寄った
「よくやったな、イリア」
俺が声をかけると、イリアはこちらを振り返った。
そして、俺の顔を見るなり、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「怖かったです。切られるかと思いました」
堂々と女神を演じ切っているので男達の脅しに動じていないと思ったら、本当は怯えていたのか。
「怖い思いさせて悪かった。この償いは必ずするから許してくれ」
「絶対ですよ」
そう言ってイリアは涙を拭う。
「お見事でしたよドラゴン様。これで人間達と争いは避けられます。このお礼はどの様にすれば……」
「礼は良い。やりたいからやっただけだ。どうしてもというなら、困った奴が村にやって来たら種族問わずに助けてやれ」
「ドラゴン様は実に慈悲深いですな。ささやかですが宴を執り行うのでぜひ参加して下さい」
宴と聞いてアウラは目を輝かせる。
「村の食料食い尽くすなよ」
「わ、分かってるぞ!」
慌てるアウラを見て、釘を刺しておいて正解だったなと俺は呆れるのだった。




