確かな繋がり
「ラルク!」
誰かが俺に抱きつく。
安心するような温もりを感じた。
少しずつ身体の感覚が戻ってくる。
温もりの正体はミーシャだった。道理で安心するはずだ。
「無事だったのか?」
「魔物は私達を避けて、ラルクだけを襲ったの。助けようとしたんだけど、びくともしなくて……本当に良かった」
「悪い。心配かけたな」
俺は抱きついているミーシャの頭を撫でる。
ミーシャは泣くのを堪えるように目を閉じ、それから嬉しそうに目を細めた。
「あ、仲良くするならアウラも混ぜてほしいぞ」
アウラはドラゴンの姿で、俺に頭を擦り付けてくる。
「あはは、分かったよ」
俺はミーシャとアウラを撫でながら、生きていることを実感していた。
「一体、古の魔物って何だったのかしら?」
「こいつらは死、そのものだ死を受け入れた瞬間に命を奪う。ある意味、魔王より恐ろしい存在かもな」
もしサキがいなかったら、俺もあのまま死んでいたのかもしれない。
そう思うと、背筋に冷たいものが走った。
「変な臭いや気配はないぞ。きっと、もう魔物はいないぞ」
アウラが周囲を見回す。
「なら帰るか。約束は果たしたからな」
これで竜の庭園と人間の世界を繋ぐ道を開いてもらえるはずだ。
「ラルク、ちょっと待ってほしいぞ」
アウラはそう言うと、何もない空間に向かって炎を吐き出した。
炎が消えた瞬間、辺りの空気が澄んだような気がした。
「何をしたんだ?」
「ラルクが倒した魔物が消えた辺りに、淀んだ空気が溜まってたんだぞ。だから浄化の炎で焼いたんだ。これでもう、おかしなことは起きないぞ」
アウラの背に乗り、俺達は悪食の魔窟を後にした。
外へ出ると、マスタードラゴンが俺達を待っていた。
「魔物を打ち倒したようだな」
「ああ。これで竜の庭園への道を開いてくれるんだな」
マスタードラゴンはゆっくりと頷くと、杖を頭上へ掲げた。
すると、空中に無数の扉が現れる。
そのうちの一つが、ゆっくりと開いた。
「ただし、段階的にじゃ」
マスタードラゴンは俺を見る。
「お主が我らを呼んだ時のみ、我らは人間の世界へ降り立つ。その時、お主がどのような行動を取るかで、我らの今後が決まる」
そう言って、マスタードラゴンは俺に光沢のある青い笛を渡した。
これを吹いて、ドラゴンを呼べということなのだろう。
「分かった。ドラゴンを失望させないようにするよ」
「それでよい」
マスタードラゴンは頷くと、アウラへ視線を向けた。
「そこのエンペラードラゴンの子よ。お主の父と母に会わせてやることも出来るが、どうする?」
アウラは少し考えると、首を横に振った。
「家族に会うのは今度でいいぞ。それに、ラルクとミーシャとイリアがアウラの家族みたいなものだから、寂しくないぞ」
アウラは俺達を家族だと思っていたのか。
何だか照れくさいような、嬉しいような。
胸の辺りが、ほんのり温かくなる。
マスタードラゴンは、そんなアウラを優しげな笑みで見つめていた。
「お主は、正しいドラゴンとの付き合い方をしておるな」
「いや、普通に接していただけだ」
マスタードラゴンは穏やかに笑う。
「例えお主がドラゴンテイマーでなくとも、お主なら正しく絆を結べたじゃろうな」
「そうだな。普通の兵士やってたとして、アウラとは仲良くなってたかもな。こいつといると楽しいしな」
俺がアウラに目を向けると、アウラは何かを期待するような眼差しを俺に向けていた。
俺が頭を撫でてやると、うるる! と嬉しそうに鳴いた。
アウラに出会ってから、騒がしいけど楽しい毎日を送っている。
面倒事に巻き込まれることも多いが、それでもアウラがいて良かったと、俺はいつも思っていた。
「お前達を見ていると、竜の庭園への道を閉じたのが正しかったのか、分からなくなるのぅ」
「その時は、それが正しいと思ったんだろ? あんたは正しいと思ったことをしただけさ」
「お主は面白い奴じゃな。人でありながら、ドラゴンの立場を理解しようとするとは」
「俺は種族に関係なく、正しいと思った奴に寄り添うだけだ」
マスタードラゴンは俺に背を向ける。
「人間がお主のような奴らばかりだと良いのじゃが……」
そう呟いたが、俺は聞こえないふりをした。
「ラルクさん! 無事だったんですね!」
イリアの声が聞こえ、振り返る。
そこには、何匹もの子供のドラゴンにじゃれつかれているイリアの姿があった。
「随分と懐かれたもんだな」
俺が感心していると、イリアは少し困ったように笑う。
「ドラゴンさん達のお手伝いをしたり、怪我や病気を治したりしていたら、自然と懐かれてしまいました。みんな元気すぎて、少し疲れてしまいました」
「まだまだ足りないよ! 遊べ遊べー!」
イリアの足元では、ドラゴン達が遊んでほしそうに騒いでいる。
「俺が遊んでやるよ。ほら、鬼ごっこだ! 捕まえてみろ!」
「俺達全員が鬼だからな! 行くぞー!」
風の魔力で空を飛ぶ俺を、ドラゴン達が一斉に追いかけてくる。
今まで戦ってきた魔物や魔族達の攻撃とは違い、動きは単調でかわしやすい。
この様子なら、しばらく適当に逃げ回った後、捕まってやるか。
そう思った、その時だった。
目の前に黒い影が迫る。
「楽しそうなことをやるなら、アウラも混ぜるんだぞ!」
「ば、馬鹿! お前が本気を出したら、すぐに……」
アウラは全力で俺に飛びついてきた。
「うわっ!」
俺はアウラと抱き合うように地面へ転がり落ちる。
「全く、無茶苦茶な奴だよ、お前は」
「ん? 何か違ったか?」
無邪気なアウラの顔を見ていると、怒る気などすぐに失せてしまった。
次第に可笑しさが込み上げてきて、俺は声を上げて笑った。
アウラもつられるように笑う。
遠くで控えめに俺達を見ていたドラゴン達も、いつの間にか自由に空を飛んだり、木に実った果物を齧ったりしていた。
もう、俺達への警戒はない。
ドラゴン達は思い思いに、この場所で過ごしている。
そんな光景を眺めながら、俺は思った。
ドラゴン達は、俺達を見て何を感じたのだろうか。
人間とドラゴンが、また一緒に生きていける。
そんな明日を、少しでも思い描いてくれていたらいいな。




