竜達の楽園
アウラたちを呼んで一旦宿に戻ると、俺は竜の庭園へ行くことを伝えた。
「ラルク、行き方は分かってるのか? アウラも竜の庭園への行き方は知らないぞ」
「一つだけ、心当たりがあるんだ」
俺は立ち上がると、辺りを見回した。
「ジオ、見てるんだろ! 話がある。来てくれ!」
俺が叫ぶと、目の前に少年の姿をしたジオが現れた。
「うわ! 誰、この子!?」
ミーシャが驚くが、ジオはそれを気にする様子もなく、迷惑そうな顔で俺を見る。
「聞いていましたよ。しかし、あなたを特別扱いして竜の庭園へ連れて行くことはできません。竜神王の方々に叱られてしまいますから」
「俺じゃなくて、ドラゴンのアウラが竜の庭園に行きたいと言ったら? 俺はその付き添いだ」
ジオはしばらく考え込んでいたが、やがて渋々といった様子で頷いた。
「それならいいですけど、あなたの命の保証はありませんよ」
「問題ない。自分の身くらい、自分で守るさ」
ジオが何やら呪文を唱える。
すると、目の前に青紫色の靄が現れた。
「ラルク、アウラは別に行きたくないぞ」
「しっ。黙ってろ。後で肉をたらふく食わせてやるから」
「なら行くぞ! 肉だ肉~!」
「現金な奴だ」
呆れている俺をよそに、青紫色の靄は次第に形を変えていく。
やがて、それは小さな扉になった。
「人間の世界から帰れなくなったドラゴンを送り返すためのゲートです。一方通行なので、竜の庭園が開かれなければ、あなたは帰って来られません。それでも行きますか?」
「行く!」
俺は迷わず答えていた。
もしかすると、俺の中にいる勇者サキの魂も、竜の庭園へ向かいたがっているのかもしれない。
「私も行くからね!」
ミーシャが俺の隣に立つ。
「危ない場所に、ラルクとアウラだけで行かせられないわ」
「私も行きます」
イリアも続く。
「竜の庭園にも、救いを求めている方がいるかもしれませんから」
二人の意思は固いらしい。
「分かった。だけど、二度と戻って来られないかもしれないぞ」
「それくらいの覚悟はしてるわ」
ミーシャは俺を真っ直ぐ見つめる。
「ラルクと離れ離れになるくらいなら、この世界に帰れない方がましよ」
「わ、私もです」
イリアも頬を赤くしながら答えた。
「分かった。皆で行こう」
「それでは、準備ができたら扉を開いてください」
俺は大きく深呼吸する。
そして、目の前にある扉へ手を掛けた。
ゆっくりと、ドアを開く。
竜の庭園では、一体何が俺たちを待ち構えているのだろうか?
俺達がドアを潜ると同時に、ドアは跡形もなく消えた。
「これが竜の庭園?」
赤、黄色、青など、様々な色の花が咲き乱れている。
木々には林檎や葡萄などの見慣れた果物が実っている一方で、甘い香りを放つ桃色の、見たこともない果実まで実っていた。
「甘くてほっぺが落ちそうだぞ!」
アウラは早速、近くの木の実にかじりついている。
「ラルク、見て!」
ミーシャが足元に咲くバラを指差した。
するとバラは金色へと変化し、その質感までもが金属そのものへと変わっていく。
「人の世界にはない、珍しい花が咲いてるんだな」
俺がバラに近付くと、今度は透明がかった青い金属へと変化した。
「鉱石草がオリハルコンに変わるとは、見事じゃのう」
突然、見知らぬ老人が俺達の背後から声をかけてきた。
「あんたは誰だ?」
人の姿をしているが、感じ取れる魔力は人間のものとは桁違いだ。
ただ者ではない。
「竜の庭園の主、マスタードラゴンとだけ言っておこうか」
老人――マスタードラゴンは、穏やかな笑みを浮かべる。
「鉱石草は、欲望や悪意を持つ者が近づけば枯れ、善意や優しさを持つ者が近づけば、希少な金属へと変わるのだ」
マスタードラゴンは俺達を見回した。
「合格じゃ、ラルク。そなた達を竜の庭園の正式な客人と認めよう」
マスタードラゴンが杖で地面を突く。
すると、大地が大きく揺れ、山のような巨大な城が地面から姿を現した。
なるほど。
どうやら俺達が客人に相応しいか、密かに試験をされていたらしい。
「ドラゴン達は城の中にいるのか?」
「いや、ドラゴンというのは気ままな生きものじゃからな。役目のあるドラゴン以外は、森や火山などに住んでおるよ。次元の裂け目に住み着いておる物好きもおるがな」
マスタードラゴンがそう言うので、辺りを見渡してみる。
すると、遠くの巣穴からドラゴン達が顔を覗かせ、こちらを見ていた。
その視線には、警戒と好奇心が入り混じっているように思える。
「あんたに頼みがある」
俺はマスタードラゴンへ向き直った。
「人間界と竜の庭園を繋ぐ道を開いてくれ」
「……それは聞けぬ頼みだ」
マスタードラゴンの表情から笑みが消える。
「人間は我らを裏切った。友だの相棒だのと言っておきながら、我らを捕らえ、その力だけを利用しようとした。また、人間が同じ過ちを起こさないと約束出来るか?」
マスタードラゴンは俺の瞳をじっと見つめている。
俺の言葉の真意を見逃さないように。
俺の返答次第では、二度と竜の庭園への道は開かれないだろう。
「約束は出来ない」
俺は正直に答えた。
「人間にも色々いるからな。だが、そんな人間からお前達を守ってやる。血反吐を吐くことになってもな」
俺が答えると、マスタードラゴンはしばらく黙っていた。
やがて背を向ける。
「言葉だけでは信用出来ん。竜の庭園の地下に巣食う、古の魔物を退治してきたら考えてやらんこともない」
簡単に言ってくれる。
だが、マスタードラゴンでさえ手を出せなかった相手なのだろう。
「……倒してきてやる」
俺はマスタードラゴンを見据えた。
「そしたら、竜の庭園への道を開くと約束してもらおう」
「分かった。約束しよう」
竜の庭園の主なのだから、約束を違えることはないだろう。
古の魔物がどんな相手なのかは分からない。
だが、もうやるしかない。




