祝祭と見守る者
「バノンの町に到着します。お降りの方は足元に注意してお降りください」
飛行船が目的地へ到着した。
「アウラ! 何時まで食べてるのよ。ここで降りるって言ったじゃない」
「まだ果物が残ってるぞ」
アウラの前に置かれた皿には、梨やぶどうが大量に残っている。
どうやら、食べ終わるまでここを離れるつもりはないらしい。
「ドラゴンの姿で食べれば、すぐに食べ終わるだろ」
「ラルクは頭良いぞ」
アウラは少年の姿からドラゴンへと変身すると、皿に残っていた果物をあっという間に平らげた。
「さあ、降りるぞ」
「ま、待て! 人の姿に戻れ!」
俺が止めるより先に、アウラはドラゴンの姿のまま飛行船を降りていってしまった。
ところが、意外なことに悲鳴も驚きの声も上がらない。
「……どういう訳だ?」
不思議に思いながら俺も飛行船を降りる。
そして、その理由がすぐに分かった。
町の住人達が、ドラゴンを模した仮面やマスクを身につけて仮装していたのだ。
「何かのお祭りでしょうか?」
イリアが興味深そうに、仮面を被った住人達を眺めている。
「あんたら、この町は初めてかい?」
すると、一人の中年男性が俺達に声をかけてきた。
「今、この町じゃあ、ドラゴンがもう一度この世界に来てくれるよう祈る祭り――開門祭が行われてるんだよ」
どうやら町の人達は、アウラのことも変身魔法でドラゴンの姿になっているのだと思っているらしい。
「具体的には、どんなことをするんだ?」
「歌や踊りを捧げる……って言っても、好きに歌って踊るだけなんだけどな。一般人も参加できるから、あんたらも興味があったら参加してみな」
そう言うと、男は祭りの人混みの中へと去っていった。
「面白そうね。私達も参加しましょう」
「旅の思い出を作るのも良いかもな」
「やった! 早速、仮面を買いましょう!」
ミーシャはやけにはしゃいでいる。
どうやら祭りや騒ぐことが好きらしい。
「俺はアウラを探してくるから、二人は仮面を買ったら宿を取っておいてくれ」
「分かったわ。また後で合流しましょう」
ミーシャ達と別れ、俺は町の中を歩き回る。
アウラの魔力を探りながら進み、いくつかの狭い路地を抜けた先で――大きな門を見つけた。
その前に、アウラが佇んでいる。
「何やってるんだ?」
「何だかここにいると、懐かしい気分になるぞ」
アウラは門をじっと見つめていた。
もしかしたら、この門の先には竜の庭園があるのかもしれない。
俺はそう思った。
だが、仮にこの門を開けたとしても、竜の庭園へ辿り着くことはできないだろう。
門の向こう側から、かすかに侵入を拒むような魔力を感じる。
「ドラゴンが人を許すまで、門は開かないんだろうな」
それがいつの日になるのか、俺には分からない。
もしかすると――永遠に閉ざされたままなのかもしれない。
「そこで何をやっているんですか?」
背後から声がした。
振り返ると、神官らしい服装をした少年が立っている。
「悪い。ここに来ちゃいけなかったか?」
「ここは神聖な場所です。祭りの夜以外は、お近づきにならないよう気をつけてください」
少年は警戒しているようだった。
不審者だと思われたのかもしれない。
「行くぞ、アウラ」
俺がその場を離れようとすると、アウラは動こうとせず、神官の少年をじっと見つめている。
「どうかしましたか?」
少年が尋ねる。
すると、アウラは不思議そうに首を傾げた。
「ドラゴンなのに、なんで人の真似してるんだ?」
「……は?」
「アウラみたいに、人間のご飯が食べたいのか?」
「……馬鹿なことを」
少年はそう呟くと、逃げるようにその場から立ち去ってしまった。
少年の後ろ姿を、アウラはじっと目で追っていた。
「あいつ、本物のドラゴンだったのか?」
俺が尋ねると、アウラは頷く。
「間違いないぞ! あの独特な魔力は、ドラゴンそのものだぞ」
ほとんどのドラゴンは、完全に人間の世界から姿を消したはずじゃなかったのか?
あいつは、何のために人の世界にいるんだろうか。
「そっとしておいてやるか。俺たちが関わっていいのかも分からないしな」
「アウラは、美味い料理を独り占めされなければ、それでいいぞ」
「そこなのかよ……」
俺とアウラはそんなことを話しながら、ミーシャたちの元へ向かった。
その時、門が一瞬だけ光ったような気がした。
だが、気のせいだったのかもしれない。
宿に着くなり、ミーシャは俺たちにドラゴンの仮面を差し出した。
「こっちは凛々しい水竜で、こっちは爽やかな風竜ね。どっちがいい?」
「俺はともかく、アウラはこのままでいいだろ」
「駄目よ。本物のドラゴンだってバレたら大変でしょ。アウラ、今のうちに人の姿になっておきなさい」
「分かったぞ」
ミーシャに言われるまま、アウラは少年の姿へと変わる。
「これで良いか?」
「ばっちりよ」
ミーシャはアウラに仮面を被せる。
「イリアの着替えが終わったら行くわよ。皆、一旦部屋から出て」
俺たちは部屋の外へ出て、イリアが着替え終わるのを待った。
「お待たせしました」
しばらくして部屋から姿を見せたイリアを見て、俺は言葉を失った。
フード付きの緑色のローブ。
そのフードにはドラゴンの顔が描かれており、頭には申し訳程度の角まで付いている。
「可愛くて、思わず買っちゃいました。似合いますか?」
「……似合ってるぞ」
似合っていないわけではない。
ただ、独特なセンスをしているなと、俺は思っていた。
こうして俺たちは、開門祭へと繰り出すのだった。




