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最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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表と裏

「お前は何者だ?」


 俺は身構えたまま、男に尋ねる。


 確かに黒い魔力は、ここへ向かっていた。


 こいつがただの人間だとは思えない。


「僕はクネス。君達は僕を殺しに来たんだろ?」


 クネスはそう言うと、自分の首を切るような仕草をした。


「やるなら、一瞬でやってくれ」


「俺は、この地を荒らしている魔族を倒しに来たんだ。お前が、その魔族だと言うのか?」


 困惑しながら尋ねると、クネスは静かに頷いた。


「僕は、魔族が人間に気まぐれに産ませた子なんだよ」


 クネスは自嘲するように笑う。


「暗闇の中なら人の姿でいられる。でも、日の光を浴びると僕の中にいる魔族が現れる」


 クネスは自分の胸に手を当てた。


「そいつは僕の意思に反して、破壊の限りを尽くすんだ……」


 その声は震えていた。


「もう、誰も傷つけたくない」


 クネスは疲れ切った顔をしている。


 その瞳には、深い絶望が宿っていた。


 えげつない真似をする魔族もいたものだ。


 憤りを覚える。


 だが、それと同時に俺は考えていた。


 こいつを救う方法はないのか、と。


「イリア。どうにかクネスと、クネスの中にいる魔族を分離させることはできないか?」


 イリアはクネスの手に触れる。


 しばらく目を閉じていたが、すぐに首を横に振った。


「魂も肉体も、人と魔族の部分が深く結び付いています。下手に分離させれば二人とも死んでしまいます……」


 イリアは悔しそうに俯いた。


 今にも泣き出しそうなイリアの肩を、俺はそっと支える。


「アウラなら、何か分かるか?」


 俺が尋ねるより先に、アウラが口を開いた。


「クネスが自分の中の魔族に、力を見せつけて主導権を握ればいいんだぞ」


 あまりにも突拍子のない言葉に、俺はアウラを見る。


「そんなこと、できるのか?」


 イリアも驚いたようにアウラを見る。


「できるはずだぞ」


 アウラは自信満々に答える。


 そして、少しだけ表情を曇らせた。


「危険だけどな」


「どうしたらいいんだ?」


「クネスを深く眠らせて、精神世界でクネスが魔族を倒せばいいんだぞ」


 それを聞いたクネスは、戸惑ったような表情を浮かべた。


「僕に、できるだろうか?」


「力も魔力も必要ないぞ。心の強さだけが、勝敗を決めるんだぞ!」


 アウラをしばらく見つめていたクネスは、やがて覚悟を決めたように頷いた。


「……やります。もし、駄目だったら、後のことを頼みます」


「ああ。だけど、そうはならないだろ?」


 俺が笑ってみせると、クネスも力なく笑った。


 自分の内にいる魔族と対峙するのが、怖いのかもしれない。


 俺はクネスをテーブルに寝かせ、魔法をかけて眠らせる。


 すると、すぐにクネスの身体が激しく震え始めた。


 彼は今まさに戦っているんだ。


「クネス、頑張って!」


 ミーシャがクネスに声をかける。


 イリアは目を閉じ、神に祈りを捧げていた。


 そして数分後――


 クネスがゆっくりと目を開いた。


「皆さん、もう大丈夫です。魔族はもう出てきません」


 俺は目を覚ましたクネスを見て、違和感を覚えた。


 何かがおかしい。


 その瞳の色が、赤く変わっている。


「……なら、久々に日差しを浴びたらどうだ?」


「そうですね。いやー、嬉しいな。これで普通の人と同じように日常を送れる」


 ミーシャもイリアも、何かを察したのか黙っている。


 クネスが外へ出た、その瞬間――


 俺は雷の魔法を放ち、彼の身体を痺れさせた。


「ぐあっ! バレていたか!」


 クネスの身体が黒衣を纏った白髪の青年へと変わっていく。


 額からは、二本の角が生えていた。


「クネスの身体を乗っ取って、喜んでたんだろ?」


 俺は赤く染まった瞳を睨みつける。


「瞳の色まで変わってるぞ」


「ちいっ! つまらぬところでしくじったか」


 魔族は忌々しそうに舌打ちする。


「だが、お前は俺には勝てない。次に魔力を使えば、お前の魔力を吸い尽くしてやるぞ」


「そうか」


 俺は魔族に近づく。


 そして――


 その腹部に拳を叩き込んだ。


 一発なんかで済ます気はなかったが、気付くと五発も殴り付けていた。


「ぐっ……!」


 魔族は白目を剥き、声にならない声を上げる。


「良いか? 一度しか言わないぞ」


 俺は魔族を睨みつける。


「クネスに身体の主導権を明け渡せ」


 魔族が苦しそうに顔を歪める。


「やらないなら……お前をこのまま細切れにすることもできるんだぞ?」


 俺の脅しが効いたのか、次の瞬間――


 魔族の身体は、再びクネスへと戻った。


「すみません」


 クネスは俯いていた。


「何もできませんでした。精神世界で、焼かれて、切られて、打ちのめされて……僕は負けを認めてしまいました」


「立ち向かおうとしただけでも十分勇敢だ」


 俺はクネスの肩を叩く。


「きっと、あいつはまだ諦めていない。今度は身体を奪われないように、強くなれ」


 クネスは黙って俺の言葉を聞いていた。


 やがて、その瞳に僅かな光が戻る。


「……はい」


 これで一件落着かと安心していた、その時だった。


 足元から、また「きぃ、きぃ」とモグラの鳴き声が聞こえてきた。


 俺と魔族の戦いが終わるまで、安全な場所に隠れていたのだろう。


 ずるい奴め。


 俺は呆れた表情でモグラを見下ろす。


「これで、お前の親分のドラゴンも満足したか?」


 モグラに話しかけると、モグラは悩むような仕草を見せた。


 そして――


 また地面を掘り始めた。


「またかよ!」


 次の瞬間、俺達の足元に穴が開く。


「うわっ!」


 またしても落下感を味わいながら、俺達は地下へと落ちていった。


「痛たた……! ここはどこよ?」


 今回は俺だけではなく、ミーシャ達も一緒に連れてこられたようだ。


「上手く片を付けてくださいましたな。流石、ドラゴンテイマー殿」


 地底のドラゴンが大きな顔を俺達に近づける。


 その口元には、笑みが浮かんでいるように見えた。


「倒してはいないが、良いのか?」


「ええ。あの状態なら、しばらくは暴れられないでしょう。それに、不穏な動きがないか眷属に見張らせます」



 どうにか依頼を達成できたようだ。


 俺は胸を撫で下ろした。


 そんな中、アウラは地底のドラゴンを興味深そうに眺めている。


「エンペラードラゴン殿。どうしました?」


 地底のドラゴンがアウラに尋ねる。


「ん~やっぱり、同じドラゴンを見ても懐かしさや親しみを感じないぞ。やっぱりラルク達の方が好きだぞ」


「こら、アウラ! 目の前で失礼なこと言わないの!」


 ミーシャが慌ててアウラを叱る。


 そのやり取りを見て、地底のドラゴンは笑い声を上げた。


「無理もない。エンペラードラゴン殿は、恐らく竜の庭園で過ごす間もなく人間界へ来てしまったのでしょう。同族といても、何も感じないのでしょうな」


「アウラは分からないぞ。竜の世界の知識や、この世界の常識は生まれた時からあったんだぞ。記憶が混じっていて、自分でもどうなのか、はっきりしないんだぞ」


 アウラは寂しそうに答える。


 自分の出自がはっきりしないことを、実は悩んでいたのかもしれない。


「貴方が旅を続ければ、いずれ分かる時が来るでしょう」


 地底のドラゴンはそう言うと、俺達に背を向けた。


「それでは……」


 次の瞬間、俺達は地上へ戻されていた。


 そして――


「何だ、これ?」


 俺達の前には、木箱に詰められた大量の魔石が置かれていた。


「何なの、この量の魔石は!!」


 ミーシャが驚きの声を上げる。


「こんなにもらって良かったの、ラルク?」


「売り捌くにしても多すぎるな」


 俺は木箱を眺める。


「クネス、悪いがお前の洞窟で少し預かってくれるか? 一箱分やるからさ」


「良いですよ。こんなことしかできませんから」


「ありがとう、助かるよ」


 俺達はクネスに別れを告げ、次の町へ向かった。


 魔石の箱は、俺とアウラで三つずつ担ぐことになった。


 アウラは、まだ元気がない。


 自分のことを、あれこれ考えているのかもしれない。


 そんなことを考えていると――


「ラルク」


「ん?」


「昼ごはんは豚肉が良いぞ。丸焼きなら、もっと良いかもしれないぞ」


 アウラはよだれを垂らしながら、昼食のことを考えている。


 思わず俺は笑ってしまった。


「好きなだけ食え。デザートも良いぞ」


「やったぞ!」


「ずるーい。私も良いでしょ?」


「えっ、あの私も良いでしょうか?」


「皆、好きなだけ食わせてやる」


 アウラも、ミーシャも、イリアもはしゃいでいる。


 そうだこれで良い。


 俺達の旅は、皆が笑顔でいてくれれば、それで良いんだ。

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