闇に招かれて
「空飛ぶ島を動かす為に三人から愛される? 駄目よ
、浮気は!」
アウラに頭を噛じられても懲りないとは、虎の獣人というのは独占欲が強いのかもしれない。
「あくまで島を動かす手段の為だ。恋人を探すのとは訳が違うんだぞ」
「……なら良いけどさ。恋人にするなら絶対私を選んでよ」
ミーシャは俺の袖を、きゅっと握った。
こういう時、どうすれば相手を傷つけずに済むのか、俺には分からなかった。
もっと同僚の兵士たちと色々な話をしていれば、こういう時の対処法くらい教えてもらえたかもしれない。
今さらながら、少し後悔した。
とうとう我慢出来なくなったのかアウラは尻尾で俺を掴むと背に乗せ、飛び立とうとした。
「置いてかないでよ〜!」
咄嗟にアウラの尻尾にミーシャは飛びつく。
何度もアウラは振り落とそうとしていたがミーシャが落ちないのを見て諦めたようだった。
「ミーシャを虐めるのも程々にしとけよ。今、何処に向かっているんだ?」
「東の港町だ。あそこの魚は美味いからラルクに食べさせてやる」
アウラは気分良さそうに少しずつ速度を上げる。
ドラゴンも嫉妬させると恐ろしいなと俺は乾いた笑い声を上げる。
それから間もなくだった。
空間に黒い魔法陣が浮かび上がり、俺たちを飲み込んだ。
水の渦に吸い込まれた様な感覚を覚えた後、俺達は薄暗い広間の様な部屋の中にいた。
灯りは無く外からの月明かりの様な僅かな頼りない灯りがステンドグラスを通して室内を照らしている。
部屋の中央には玉座が有ることだけは辛うじて分かる。
玉座に座っていた少女が立ち上がった。
年端もいかない少女だ。だが、その身に纏う魔力は尋常ではない。
「お呼び立てして申し訳ありません。エンペラードラゴン様。お願いしたいことがございます。」
「嫌だ! お前ら魔族は、つまらない事ばかり押し付ける」
魔族と聞いて俺は思わず身構える。玉座に座る程の魔族など魔王以外にいないと思ったからだ。
ミーシャもそれが分かったからか、アウラの尻尾にしっかりしがみつき存在がばれないようにカモフラージュしているようだった。
戦うとなれば面倒な事になるだろうなと、玉座の少女に目をやると男の方がこちらに向かってくる。
魔族特有の角を額に生やしたタレ目がちの男は笑みを作り俺に軽く頭を下げる。
「私は魔王アシュリー様に仕えるザイードと申します。貴方は人間ながらエンペラードラゴン様と契約を結ばれた契約者様ですね? 貴方からも頼んでいただけませんか? アシュリーの成人の儀の手助けを」
魔族の手伝いなんかしたら世界が滅ぼされるんじゃないかとも思ったが面白そうだと思ったから仕方ない。
「手伝うように言っても良いが、三つだけ約束して欲しい。一つはその儀式だとかが失敗したとしても俺らを恨まない事、二つ目は手伝いが終わった後俺らに危害を加えない事、三つ目は俺の頼みを聞く事。三つ目は今じゃなくて先の話だけどな」
魔族は恐ろしい相手だが、力を借りられれば頼もしい事この上ないだろう。後は、この条件をザイードが飲むかが問題だ。
「良いでしょう。では、お手をこちらに」
右手をザイードに差し出すと、俺の手の平に目玉模様が浮かび上がる。
「この模様に魔力を集中させれば、魔王城に瞬間移動出来ます。その時に申して下されば何なりと協力しましょう」
「交渉成立だな。アウラ、悪いがこいつらの手伝いしてやってくれないか?」
「ラルクが言うならやってやる。何をすれば良い?」
「先ずは忍耐の試練を執り行います。加減して火、水、風、光、闇、土、六属性の魔術をアシュリー様に放って下さい」
「分かった! 行くぞ」
尻尾を杖のように動かしアウラは同時に六つの魔術を放つと、アシュリーは全身に障壁を張り巡らせた。
「これがエンペラードラゴン様の魔力。加減してると言えこれ程とは……」
障壁の一つが砕け、アシュリーは苦痛の表情を浮かべている。
「大丈夫なのか?」
「あの程度は問題有りません。忍耐の試練は痛みを知る事が大事なのです。 痛みを知り初めて誰かの上に立つ事を許されるのです」
その台詞はレガリア王国の王族に聞かせてやりたかったと俺は考えていた。あいつらはふんぞり返る事しか知らないのだから。
「エンペラードラゴン様! そこまでです!」
アウラの魔術が止むとアシュリーはふらついて倒れてしまう。
「忍耐の儀は終わりました。続いて……」
ザイードが次の試練の準備をしようとした時だった。
アシュリーは俺の後ろに隠れてしまった。
「もう痛いの嫌だあ〜」
「アシュリー様! 成人の儀は、本来魔王になる前に終わらせる事になっているのですよ! なのに魔王になってから五十年も経つのに三つの試練しか終わってないんですよ? 後二つ終わらせて大人になりましょうよ! わざわざエンペラードラゴン様呼んだのもエンペラードラゴン様と一緒なら頑張れると言うから……」
「こんな痛いなら魔王止める!!」
「アシュリー様が覚悟を決めないから父上のギルバート様も魔王を引退出来ないんですよ!」
それから二時間も言い争い結局成人の儀は中途半端な形で終わったのだった。
魔王城を後にしたのはそれから一時間後だった。
「何の為に呼ばれたんだか……」
魔族の力を借りれるようになったのは大きな利益だったが、娘があの調子なら先代の魔王も苦労するなとアウラの背に揺られながら俺は呆れていた。
「私はアウラの尻尾に必死に抱きついてから体が強張っちゃたよ。もう、アウラといたら怖い目ばっかり!」
「嫌なら帰れ! 毛むくじゃら!」
「誰が毛むくじゃらよ!」
伝説のドラゴンと口喧嘩する獣人なんかミーシャくらいだろう。
色々ありすぎて疲れた次の街では、ゆっくり休むことにしようか……。




