遠回りの拾い物
目を覚ますと、俺は硬い岩肌が剥き出しになった洞窟の床に寝かされていた。
体には毛布代わりなのか、乾いた枯葉が掛けられている。
岩の冷たさが背中に伝わり、体のあちこちが痛む。
長時間寝ていたのかぼんやりして頭も回らない。
「確か街に向かってた筈じゃなかったか? アウラ、何処に居る?」
穏やかな日が差し込む入り口から外に出ると、アウラは毛むくじゃらを咥えてこっちに向かって来ていた。
「ラルク! 中々起きなかったから心配したぞ。これ、朝飯だ!」
そう言ってるアウラが目の前に差し出したモノを見て、俺は変な声が出そうだった。それは目を回して気を失っている虎の獣人の少女だった。
ボロ切れ同然の服。手足には枷の跡が残っている。
背丈は俺の身長170センチより僅かに高い。虎の獣人らしく、細身ながらも鍛えられた身体つきをしている。
「アウラ、人は獣人を食べないし、今後お前も食うな。それと、こいつ何処から持ってきた!?」
「貴重なたんぱく質なのに……。ラルクが嫌ならもう食べない。こいつはあっちに落ちてた」
残念そうに呟くアウラに呆れながら、ラルクはアウラが尾で示した先に視線をやる。
ブナやナラの木々の先に僅かに煙の様な物が見える。
「あそこに村か街が有るのか?」
「人がカイムの街って呼ぶ街が有る」
この獣人は、その街にいたのかもしれない。先ずは話を聞いてみるかと肩を揺らす。
「ここは? ひぃ~! た、食べないで〜!」
「食べないように言っといたから安心しな。先ずは話を聞かせてくれ。お前は奴隷なのか?」
これ以上獣人を怯えさせないようにアウラに背を向ける様に指示し、なるべく穏やかな表情で尋ねる。
「……無理矢理、奴隷にさせられたの。力には自信が有ったのに薬を盛られて、気づいたら奴隷商人の店で売られそうになったから隙を見て逃げ出したの。お願い、私を助けて。何もお礼は出来ないけど……」
正直、この獣人を助けたところで、俺に得があるわけじゃない。
それでも、弱い立場の人間を食い物にする連中は気に入らなかった。
力のない者から奪い、抵抗できない者を傷つける。
そういう奴らだけは、どうしても許せない。
「解放してやる。後は好きにしろ。俺は俺のやりたいようにやる」
枷を引き千切る様に外してやると獣人は目を白黒させて驚いているようだった。
「私でも壊せなかったのに、貴方何者なの?」
「嫌われ者のドラゴンテイマー、ラルクさ」
「ドラゴンテイマーって事は……! そ、それ本物のドラゴンなの!! でかい人食いトカゲかと思ったわ」
人食いトカゲ呼ばわりされて不機嫌なアウラが、獣人を食べようとする前に街に向かう事にした方が良さそうだ。
街に向かうとすると獣人は俺の前に立ち塞がる。
「私も行く。貴方達だけを危険な目に合わせられないもの」
下手に説明しても面倒だと、連れて街へと向かう事にした。
その前に目立たぬように自分の予備の服に着替えさせる。
街の外に不満そうなアウラを残し、街の門を潜る。
獣人に奴隷商人の店を案内させながら周りを見渡す。
石畳はところどころ崩れ、建物の壁も古びている。
人通りも少なく、目につくのは宿屋と薬草を扱う店くらいだ。
こういう寂れた街だからこそ、役人の目を誤魔化して奴隷商人みたいな奴らが暗躍しているんだろう。
「ここだよ。ここの地下に奴隷商人が居るんだ」
建物の外で獣人は声を潜めている。
「ここまで案内してくれてありがとう。お前は顔がばれてるから後は俺だけでいく」
建物の中に入ると薬や、初心者でも扱える木の盾や革の防具等のが置かれていた。一見では冒険者用の雑貨屋にしか見えない。
「いらっしゃい、何かお探しで」
えらく愛想の良い店主だが、右手には隠す様に短剣が握られている。こちらの言動次第でこちらの胸に突き立てようとしているのだろう。
「大人しく奴隷商人を出せ。さもなきゃ後悔する事になるぞ」
店主は奇声を上げナイフを振りかざそうとしたが、その間に腹を軽く殴ってやったら壁にめり込んで大人しくなった。
店の奥には安物のカーペットで隠した階段が有り、下りて行くと薄暗いエリアが有り、エルフや人間の子供、犬や猫の獣人が狭い檻に入れられていた。
「お前さんは奴隷を買いに来たのか? その割には貧乏臭いな」
右側が欠けたシルクハットを被った趣味の悪い紫のスーツを着たひげ面の中年男が俺を頭から足先まで、値踏みするように眺める。
「お前が奴隷商人だな? お前に後悔を教えに来た!」
「やれる者ならやってみろ。こいつらに勝てたならな」
奴隷商人が手を叩くと何処に隠れていたのか豚面の巨体のオークが三体が金棒を振り上げ、こちらに襲いかかる。
倒すだけなら容易だが、ただでさえ狭い部屋なので奴隷が巻き添えになる可能性もある。
金棒を避けるだけで精一杯だった。
まともに反撃すれば、背後の檻まで吹き飛ばしかねない。
その時、一体のオークが倒れた。
見れば、ミーシャがオークの懐に潜り込み、渾身の手刀を首元に叩き込んでいる。
「私も役に立てたでしょ!」
「でかした!!」
呆気に取られたオークの眉間に握り拳をお見舞いし、意識奪うと、俺は逃げた奴隷商人を追う。
奴隷商人は、無駄に逃げ足が早く、門の外にまで出ていた。
「捕まるもんかよ。俺はもっと金が欲しい!!」
呆れる程の屑に俺は憐れみをかける事にした。
「金じゃないが良いものをくれてやるよ。相棒の足裏だ!」
「……えっ?」
次の瞬間、アウラの巨大な前脚が奴隷商人を踏みつけた。
「ひぎゃあ!!」
「ラルク何してた! 退屈だったぞ!!」
「悪かったって。お陰で片付いたよ」
不機嫌なアウラを撫でてやるとうるるる! と嬉しそうに鳴く。あまり一人にしないほうが良いのかもしれない。
結局、気を失った奴隷商人達を捕らえて憲兵に差し出す事にした。
命で償わせても良かったがそれがまた争いの火種になると面倒だから命だけは奪わなかった。
俺達は、長居は無用と街を出て森を歩いていた。
「結局身元の分かる子だけ帰って、分からない子はここに残って暮らすみたい」
「まあ、大丈夫だろ。奴隷商人の溜め込んだ金のほとんど、をこっそり持たせたんだから大抵の事は大丈夫だろ。それより、一つ聞いて良いか?」
俺は先程から気になっていた事を獣人に尋ねる事にした。
「どうして、俺らの旅にお前が同行してんだよ!」
獣人は答えずに俺の頬に唇をそっと押し付ける。
「私はミーシャ。貴方が気に入っちゃった。恋人になってあげる」
「まだ必要ない。それに俺は控え目な女が好きなんだ」
「そんな事言わないで、……あ」
アウラがミーシャの前に立ち塞がり大きく口を開く。
「ラルクはアウラのだ」
頭を噛じられたミーシャの叫びが森に響くのだった。




