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最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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一世一代の賭け

「黒よ! 黒!」


ミーシャがルーレットの上を転がる玉を、一心に見つめていた。


決して、ミーシャがギャンブル狂いになったわけではない。


これには、訳がある。


数時間前。


俺達は、大陸一のカジノの町――オーロ・ノワールに着いていた。


「私はやりませんが、ほどほどになら遊んできてもいいですよ」


ギラギラと輝く看板が飾られたカジノのタワーを、イリアが指差す。


自分のせいで俺達の行動を制限させたくないという気遣いなのかもしれない。


「俺はやったことがないからな」


「私もパス。前にやったけど勝てなかったし」


俺とミーシャがカジノに行かないと知ると、イリアはほっとしたような顔をした。


聖女としては、俺達にギャンブルをしてほしくなかったのかもしれない。


「カジノなんかやらなくても、ラルクがやる気を出せば世界一の金持ちにもなれるぞ」


確かに、エンペラードラゴンの力を使えば、欲しいものは何でも手に入る。


だが、そのためには誰かの上に立つことになる。


それが非常に面倒くさい。


「今の生活で満足してるからいいんだよ。そろそろ宿に行こうぜ」


宿に向かう途中、みすぼらしい格好をした子供達が目に付いた。


カジノの町だからといって、すべての住人が金持ちとは限らないのだろう。


「これで、何か食べてください」


イリアは子供達に数枚の銅貨を手渡した。


「ありがとう、お姉ちゃん!」


子供は何度も頭を下げると、走り去っていった。


「偉いな、イリアは」


「いえ、大したことはしていませんよ。こんなことをしても、一時しのぎにしかなりませんし」


イリアは少し寂しそうだった。


その時――


「このガキ! 何しやがる!」


先程の子供が、きらびやかな服を着た男にぶつかった。


「ご、ごめんよ」


「口の利き方を知らないみたいだな。このストゥール様にぶつかって、ごめんですむか!」


謝る子供を、ストゥールは乱暴に突き飛ばした。


「何するのよ! 可哀想じゃない!」


ミーシャがストゥールに詰め寄る。


「貧乏そうな獣人が俺に何の用だ? 金が欲しいのか? ほらよ!」


ストゥールがミーシャに金貨を投げつけようとしたので、俺はその腕を掴んだ。


「いい加減にしろよ。仲間を傷つけるなら、容赦しないぞ?」


「お、俺に手を出せば、町の住人が黙っちゃいないぞ。本当だぞ!?」


周囲を見渡すと、こちらに殺気を向けている男が三人いた。


一瞬で片をつけることはできる。


だが、ここで揉めれば変な噂を流される可能性もある。


得策ではない。


「じゃあ、あなたの得意なことで勝負しましょう。私達が勝ったら、この子に謝って!」


「なら、俺が勝ったら、お前達を鞭で打ってやる」


「え? それは……」


動揺するミーシャに、ストゥールは畳み掛けるように続けた。


「嫌ならいいんだぞ。ほら、どうする? やるか、やらないか!?」


ミーシャが答えられずにいると、俺が代わりに答えた。


「やるさ。ただし、鞭で打つのは俺だけにしろ」


「ラルク! そんな……」


「勝てばいいだけさ。出来るだろ?」


ミーシャは責任を感じているのか、泣きそうな顔をして頷いた。


「よし、ならこっちに来い。俺の店で決着をつけてやる!」


ストゥールに案内されたのは、カジノだった。


そこで初めて、ストゥールがこのカジノのオーナーだと知った。


「勝負はルーレットだ。互いに赤か黒かを選び、チップがなくなったら負けだ」


ルーレット台を挟み、ミーシャとストゥールが向かい合う。


俺達は少し離れた場所で観戦することになった。


ディーラーが二人の前に、それぞれ百枚ずつチップを置く。


「さあ、何枚賭ける?」


「黒に十枚よ」


「なら、俺は赤だ」


そして――


今の状況になったわけだ。


結果は黒の十八番。


まずはミーシャの勝ちだ。


「これは幸先がいいな」


負けたというのに、ストゥールは余裕の表情を崩さない。


ミーシャにはチップが戻され、ストゥールのチップは回収されていく。


「じゃあ、今度は俺からだ。赤に二十枚」


ストゥールは自信満々にチップを置いた。


「勝負にはならないが、俺と同じ色に賭けてもいいんだぞ?」


「お生憎様。あんたと一緒は嫌なの。黒よ、黒」


ミーシャが黒にチップを置く。


ストゥールはにやりと笑うと、バニーガールにルーレットを回させた。


「インチキだぞ! あの玉から魔力を感じるぞ!」


アウラの声に驚いたのか、バニーガールがびくっと身体を震わせる。


「お、おい。玉が変な場所に……ああ!」


玉は赤に入りそうになった。


しかし、不自然に跳ねると黒の二十四番へと転がり込んだ。


「イカサマしようとしたのね!」


ミーシャがストゥールの胸ぐらを掴む。


「わ、分かった! イカサマはもうしない! 次を最後の勝負にしようじゃないか!」


「いいわよ。最後も私は黒に賭けるわ。きっと黒は私に幸運を呼び込む色よ」


「なら、俺は赤だ。全額ベットだ!」


バニーガールが再びルーレットを回す。


俺は気づいていた。


ストゥールがルーレット台の下へ手を伸ばしたことに。


大方、ボールには魔力に反応する金属が仕込まれている。


台の下にある魔道具を操作すれば、狙った場所へボールを引き寄せられる仕組みなのだろう。


俺はストゥールが魔道具を作動させるより早く、その尻にこっそり冷気の魔術を浴びせた。


「ひゃあ! な、何が!?」


突然の冷気にストゥールが飛び上がる。


その拍子に、台の下へ伸ばしていた手が外れた。


ボールは赤へ入りかけたが、ストゥールが暴れたことで僅かに軌道が変わる。


そして――


黒の十一番に入った。


「やった! 私の勝ちね!」


「ま、待て! これは何かの間違いだ!」


慌てるストゥールの前に、俺は立ちはだかった。


「何が間違いだって? イカサマカジノのオーナー、ストゥールさん」


「い、イカサマなど……」


「バラしたら、このカジノに客は来なくなるだろうなあ」


「言わないでくれ! 頼む!」


先ほどまで威張り散らしていた姿が嘘のように、ストゥールは床に頭を擦りつけている。


「なら、こうしましょう」


ミーシャが悪そうな顔で笑った。


その後、ストゥールは大勢の人が見ている前で、あの子供に頭を下げて謝った。


プライドの塊であるストゥールにとっては、さぞかし屈辱だっただろう。


だが、約束は約束だ。


さらにミーシャの提案で、ストゥールは町の貧しい人々をカジノや系列のホテルで雇うことになった。


「雇うには雇うが、俺様の店で手抜きは許さんぞ! 全員、一ヶ月でプロに育て上げてやる!」


意気込むストゥールを見て、俺は呆れた。


イカサマをして客から金を巻き上げるより、人を育てるほうが向いているんじゃないか?


飯屋で食事をしていると、ミーシャが唐突に俺へ話しかけてきた。


「ラルク、ありがとう。ラルクが信じてくれたから勝てたよ」


「やるって言ったらやるのがミーシャだからな。信じない理由がなかったんだよ」


俺がそう答えると、ミーシャは嬉しそうに笑った。


そして、不意に俺の額へ軽く口づけをする。


「えへへ。ラルクのそういうところ、大好き!」


それを見ていたイリアは、顔を赤くしていた。


刺激が強すぎたのかもしれない。


「アウラもラルク大好きだぞ!」


ミーシャに張り合うように、アウラも俺に近づいてくる。


「待て! 止めろ!」


「アウラもラルクに何時ものお礼をするぞ!」


そう言うと俺の顔にアウラは口を近づけようとする。


「待て待て待て! そもそも、俺はお前をそういう目で見てないんだ!」


「アウラに性別はないから問題ないぞ!」


「そういう問題じゃない!」


どうにかアウラを言い聞かせ、俺は難を逃れるのだった。

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