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最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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選ばれし者

巨像は斧を高く振り上げる。


セルジュはその隙を突き、巨像の足元へ潜り込んだ。


そして、巨像の踵辺りを剣で斬りつける。


しかし、巨像にはほとんど効いていないようだった。


「これじゃ駄目か。なら……」


セルジュは目を閉じ、魔力を剣へと集中させる。


剣身に魔力が集まり、淡い光を帯びていく。


だが、巨像は待ってくれる様子などない。


巨像が足を高く持ち上げ、セルジュを踏み潰そうとする。


「セルジュ!」


俺が叫ぶ。


セルジュは目を開くと、迫り来る巨像の足裏へ剣を振り抜いた。


すると、巨像は大きく体勢を崩し、そのまま地面へ倒れ込んだ。


子供だと思っていたが、流石は勇者だ。


それなりの実力があるようだ。


「やった!」


セルジュは倒れた巨像の首元めがけて、剣を振り下ろす。


しかし、その前に影が躍り出た。


「なに!」


セルジュは咄嗟に剣の軌道を変えた。


だが、間に合わない。


剣先が影の右手をかすめた。


「……う!」


同時に、セルジュの左手に傷が走る。


どうやら影を傷つけると、傷つけた本人も同じように傷を負うらしい。


「ラルク! 手を貸してあげましょうよ!」


「駄目だ。セルジュ本人が助けを求めていない。それに、甘やかしたらあいつのためにならないからな」


今ここで手を貸したら、あいつは勇者にはなれないだろう。


セルジュの実力を信じて、見守るしかない。


セルジュは何度か深呼吸をすると、剣を構え直した。


その瞳に、もう迷いはない。


勝つつもりでいるらしい。


「セルジュ、やってやれ!」


体勢を立て直した巨像が、セルジュを薙ぎ払うように斧を振る。


だが、セルジュは焦る様子もなく、蠢く影へと近づいていく。


すると――


巨像が影の手前で、斧を止めた。


巨像も影には攻撃できないらしい。


影はセルジュを突き飛ばすと、巨像の背中に張り付いた。


これでは、影を盾にして身をかわすこともできない。


巨像の斧が、再びセルジュの頭上へ迫る。


「悪い。手が滑った」


俺はそう言って、光の魔術で巨像の背中に張り付いた影を照らした。


影は慌てて巨像の背中から離れる。


セルジュは、それを見逃さなかった。


地面を蹴り、影へと向かっていく。


また影を盾にするのかと思った。


だが、違った。


セルジュは影の前でしゃがみ込んだ。


「……何をするつもりだ?」


巨像が振り回した斧が、そのまま影へと迫る。


セルジュは身を低くした。


次の瞬間――


斧が影の頭部を吹き飛ばした。


「お見事です」


声が響く。


巨像はそれだけ言うと、身体がひび割れ、ばらばらに砕け散った。


「よくやったな。セルジュ」


「ラルクさんがいたから勝てたんです。僕は、まだまだです……」


落ち込むセルジュの肩を、俺は軽く叩いた。


「最初から一人で何でも出来る奴なんかいないさ。自分の未熟さを受け入れられるお前みたいな奴が、誰よりも強くなるんだ」


「……はい!」


セルジュは力強く頷いた。


俺の言葉をどう受け取ったのかは分からない。


だが、一つだけ確信していた。


こいつは強くなる。


「頑張ったセルジュには、ご褒美やるぞ!」


アウラはセルジュの口に、また干し肉を放り込んでいた。


「止めろ! 無理に食わせるんじゃない!」


「肉を食べたら元気が出るもんだぞ!」


「皆があんたと一緒なわけじゃないのよ、まったく。ほら、セルジュ。食べられないなら無理して食べなくてもいいのよ」


セルジュは干し肉を飲み込むと、


「元気になりましたよ」


と答えた。


空気を読めるいい奴だ。


「あ、あそこに何かありませんか?」


イリアが指差した岩壁に、妙な突起があった。


押してみると、岩壁の一部が崩れ、その下へ続く階段が現れた。


「この先に聖剣があるのか? セルジュ。念のため用心しろよ」


「はい」


セルジュは恐る恐る階段を降りていく。


俺たちも、その後に続いた。


その先にあったのは、宝石で作られた花々が咲き誇る花畑だった。


「わあ、綺麗」


「ミーシャ、イリアも触るなよ。何があるか分からないからな」


迷宮の奥には、欲につけ込む罠が仕掛けられていると、昔、本で読んだ気がする。


花に触れた途端、マグマでも流れ込む……なんてことにならないとも言い切れない。


念には念を入れた方がいいだろう。


「聖剣はどこにあるんでしょうか?」


セルジュが不安そうに辺りを見渡す。


すると、宝石の花々に囲まれた台座に、一振りの剣が突き立てられていた。


セルジュが剣の柄に触れる。


その瞬間、嗄れた老人の声が響いた。


「勇ある者よ。よくぞ、ここまで来た。この聖剣を抜けるのは、正義の心を宿す者のみ。僅かでも邪心がある者が引き抜けば、その身は炎に焼き尽くされるだろう」


セルジュの顔に動揺が浮かぶ。


自分に本当に邪心がないのか、悩んでいるのかもしれない。


「お前は選ばれた勇者だろ。お前なら抜ける。俺を信じろ」


俺はじっとセルジュの目を見つめた。


セルジュは両手で剣の柄を掴む。


そして――


あっさりと、剣は抜けた。


その刃は、白く輝いていた。


「やっぱりお前は勇者だったな」


俺が微笑むと、セルジュは剣を地面に突き立て、俺に抱きついた。


「ラルクさん。あなたと出会えて良かった。本当に良かった」


セルジュは泣き出した。


ずっと不安だったのだろう。


自分に勇者の資格があるのか、分からなかったのだ。


こうして誰かに認めてもらいたかったのかもしれない。


俺はセルジュが泣き止むまで、黙って頭を撫でてやった。


「こんなお礼で良いんですか? 安物なんですけど」


町に着くと、セルジュの持っていた金の指輪を報酬として受け取った。


「これが安物!? お前、これだけでも余裕を持って旅を続けられるくらいの資金になるんだぞ?」


「あはは、セルジュはお金の価値を学ばないといけないわね」


恥ずかしそうにセルジュは笑っている。


「僕、立派な勇者になります。そして、世界中の皆が安心して笑える世の中にしてみせます」


「無理はしないでくださいね。旅の加護を祈っています」


イリアは手を組み、祈るような仕草をする。


「お別れする前に、皆でご飯を食べるぞ!」


「そうだな。その前に財布をミーシャに渡しとけよ。また変なものを買われたら、たまったもんじゃないからな」


「干し肉は変なものじゃないぞ!」


アウラはまったく懲りていないようだ。


しばらく財布はミーシャに預かってもらおう。


その後、セルジュを含めた五人で、適当な飯屋に入り食事をした。


この何気ない思い出が、いつかセルジュの力になってくれればいい。


そんなことを思いながら、俺は笑うセルジュの姿を眺めていた。

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