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最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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怒りの矛先

「やあ、待っていたよ」


平原の木の影から金髪の見慣れない中年男が俺に声をかける。


その背丈は優に三メートルを超えており、額に魔族の角が生えていた。


「オリマの敵を討ちに来たのか!」


俺が身構えると男は豪快に笑った。


「勘違いしないでくれるかな? 私は魔王ギルバート。娘がドラゴンテイマーに助けられたって話してたから顔を見に来たんだ。これお土産!」


魔王らしくない穏やかな笑みをギルバートは浮かべ、甘い菓子の匂いの包み袋を手渡してきた。


だが俺は、警戒を解かなかった。目の前の相手がギルバートだという保証がないからだ。


「どうしてここが分かった?」


「ああ。君、以前ザイードに指輪もらったでしょ? その指輪の魔力を辿ったんだ」


懐から指輪を取り出すと指輪は淡く光を放っていた。


「……アシュリーは元気か?」


「元気、元気。バロックに襲われた直後は、ふらついてたけど、ティアちゃんと仲良くやっているよ」


話に不自然な点はない。


俺は目の前の男が本物のギルバートだと判断した。


「困った事ない? 何か有ったら手伝うよ」


「バロックのところにいるリリスはどんな力を秘めているか知っているか?」


「幻惑のリリスだね。特定の対象を魅了するだけの力しか無い魔族だよ。どうしてそんな事を?」


「リリスを取り戻そうとした魔族に襲われたんだ」


ギルバートは首を傾けて暫く考えていた。


「何かの魂を入れる器として利用する気かもね。リリスの場所を教えてくれたら護衛を送るよ」


「じゃあ頼むか。ただし、今から教える場所は護衛以外に教えるなよ」


「了解」


空飛ぶ島の場所を、俺はギルバートに教える事にした。


「うちの強い子送ったからね。それじゃあね」


それだけ言うとギルバートは闇に溶けるように消えた。


ギルバートが去ってからミーシャとイリアは、へなへなと座り込む。


「よく魔王と話せるわね。……あの威圧感。息をするのも忘れてたわ」


「力が強いだけのおっさんだろ? 怖がる必要なんかないだろ?」


「見て、アウラだって珍しく震えてるじゃない」


確かに震えていた。だが、その手にはギルバートの土産の菓子がしっかりと握られている。


「美味いぞ! こんな美味しいお菓子食べたことないぞ!」


アウラは魔王の威圧感に震えているのではなく、菓子の美味さに感動していたらしい。俺は思わず笑った。


「魔王は全てを奪う者だと聞かされて来ましたが、ギルバートさんは違うみたいですね」


イリアは感動していたようだった。


「教えられた事が全てじゃない。こうやって実際に経験するのも大事な事かもな」


「良いこと言うわねラルク」


「アウラには難しくて分からないぞ」


アウラは、首を傾げながらも、菓子を食べる手を止めなかった。


「噂だけじゃなく、実際食べてみなきゃ食べ物の美味さは分からないってことさ」


「なるほど、ラルクは頭が良いぞ!」


無邪気なアウラの顔を見るとエンペラードラゴンだと言うことを忘れそうになる。


アウラは、このままで良いのかもしれない。


暫く歩いていると足元に黒猫が擦り寄って来た。


「可愛いですね。この辺に住んでるんでしょうか?」


イリアは、猫を抱きかかえ遊んであげている。猫が好きなのだろう。


「飼い主がいるとしたら、村か町が有るはずよね。猫ちゃん、お家連れてってくれるかな? なーんて伝わらないか」


黒猫は、じっとミーシャを眺めると、てちてち歩き出した。


「伝わったみたいだな。流石、獣人ってとこだな」


「ラルク! 獣人は動物と会話出来ないの。獣人は動物と違うんだから!」


ミーシャの逆鱗に触れてしまったのだろう。ミーシャの尻尾は小刻みに震えている。


「わ、悪い。そんなつもりは無かったんだ」


「……なら良いけど」


ふん、とミーシャは鼻を鳴らす。後でアクセサリーでも買ってやるか。


黒猫について行くと村に辿り着いた。


しかし、夕方だと言うのに人の声どころか生活音が聞こえて来ない。


「廃墟なのか?」


「でも、パンの匂いがするぞ」


アウラはドラゴンの鼻をひくつかせる。


民家や店等の建物は比較的新しく。店には果物やパンが置かれている。


人だけが消えてしまったようだ。


黒猫が村の中央まで来ると、高い声で鳴いた。

すると、建物の陰や路地裏から次々と猫が姿を現した。


「な、何なのこの子たち! 魔物じゃなくて、ただの猫よね!!」


数十匹の猫に囲まれ、ミーシャは怯えていた。


「ん? 待ってください。あそこに誰かいませんか?」


猫に気を取られて気づかなかったが、遠くに褐色肌の少年がいた。こちらをじっと見ている。


「おい、お前何が有ったか知っているのか?」


俺の声に反応して少年は、猫を避けながら恐る恐るこちらに近づく。


「呪いだよ」


「呪い」


「猫神様に呪われたんだよ。この村の人は猫神に無礼を働いた報いを受けたんだ!」


少年は走り去る。


後を追った方が良いだろう。


いったい、この村の住人は何をやらかしたというのか?


じゃれ着く猫を避け、俺は少年を追う。


少年は村の外れの小さな泉で歩みを止めた。


「聞かせてくれ。この村の住人は何をやったんだ」


少年は俯いていたが、ゆっくりと話し始めた。


「この村は猫神様を代々祀ってた。誰もが猫神様を崇めて、供え物をしていた。だから飢えもせず、村は栄えた。でも、ここ数年は違う……。誰も供え物をしないどころか、猫神様に手を合わせなくなった。自業自得だよ」


「つまり猫神様の恩恵を受けていた村人が、恩を仇で返したんだな。だから、猫に変えられたのか?」


少年は頷く。


村人の思い上がりが生んだ悲劇だと言えるだろう。


同情は出来なかった。しかし、一度だけ村人が謝る機会を与えられないかと俺は考えた。


猫神様の怒りが収まれば、村人も元の姿に戻るかもしれない。


「どうすれば猫神様の怒りが静まるか分かるか?」


「祠の掃除と供え物をすれば少しは怒りが収まるんじゃない?」


「祠の場所を教えてくれ」


面倒だが、村人の代わりに祠を掃除してやる事にした。


それだけやった後で、村人が猫神様に謝るのか同じ事かは俺の知った事ではない。

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