新たな一歩と脅威
「で、こいつらは何なんだ?」
俺に怯えてジェンドの足にしがみついている、アライグマみたいな魔物を指差し尋ねた。
「自分の魔力を隠せるだけの魔物ですよ。元の魔力が弱いから脅威にはなりませんがね。餌をやる代わりに手伝ってもらっていたのです」
力を持たない魔物だから扱いやすいと思ったのだろう。
「そろそろ戻ろう。ラズベリル達に変に思われるからな」
「ええ。そうしましょう。お前ら、仕事は終わりだ。後で餌をやるから隠れていろ」
魔物はジェンドに言われた通りに姿を消した。
建物まで俺達が戻るとラズベリルが出迎える。
「ジェンド! 私を一人にするんじゃないわよ。寂しいじゃない」
「すみません。これで許してもらえますか?」
そう言ってジェンドはラズベリルを抱き上げ、高い高いをする。
はしゃぐラズベリルを見て、妖精王というよりただガキだなと呆れていた。
集めた薪を建物の暖炉の近くに置いて、俺はベッドに横になった。
明け方、キュルルと音が聞こえ外に出るとアライグマの魔物がドアの前にいた。
「何やってんだ?」
「リリスをいじめないでやってくれるか? あんまり話したことはないけど、あいつ果物を分けてくれたんだ」
魔物の割には、澄んだ目をしている。
たった一度、食べ物を分けてもらっただけだ。
それだけで、こいつはリリスを信頼しているらしい。
俺には理解できなかった。
「今のところ、俺もあいつに何かするつもりはない。だが、あいつが誰かを危険にさらせば容赦はしない」
「うん、それで良い」
満足したように答えると魔物は帰って行く。
「それだけ言いに来たのか。好かれてるんだなお前」
部屋の隅で縛られたまま眠るリリスに呟き、俺は彼女の処遇について考えていた。
「ここで働けば良いのね?」
ラズベリルとリリスを連れて俺は空飛ぶ島に来ていた。
「ああ、お前は魔法で植物を育ててくれれば良い。野菜の苗も有るから適当な場所に植えてくれ、収穫はあいつらに任せてくれ」
離れた場所で、ゴブリンが筋肉を見せ付けアピールしている。
「任せて下さい兄さん!」
「何で離れてるんだ? お前達」
「え? それは……」
リリスを警戒しているようだった。こいつらリリスとは初対面だが、雰囲気で危険だと分かるのだろう。
「魔力は封じてある。少なくとも、今すぐ何かすることはできない」
「本当ですかい? あ、駄目だったら」
小さなゴーレムが一匹、リリスに近づく。
リリスは、しゃがむとゴーレムを撫でている。
以前のリリスからは想像もつかないほど、優しい手つきだった。
「無理に仲良くやれとは言わない。争うな。それだけを守れ」
「分かりやした」
「ジェンドがいないけど、楽しくやれそうだわ。妖精王として、この島の緑は私が守らせてもらうわ」
ラズベリルは目を輝かせ杖を振る。
俺は、リリスに近寄る。
「俺は過去のお前を許さない。だが、今のお前は別だ。正しく生きるならお前を評価してやる」
それだけ告げると、俺は空飛ぶ島を後にした。
去り際、俺は一度だけリリスを振り返った。
戸惑っているようにも見えた。
だが、その瞳には確かな希望が宿っていた。
これから何をするのかは、あいつ自身が決めればいい。
俺はそう思いながら、空飛ぶ島を後にした。
ラズベリルの住処に戻ると、ジェンドが待っていた。
「ラズベリル様は、やっていけそうですか?」
「ああ、やる気もあるし社交性も有るからやってけるだろ。連れて行ってから聞くのも何だが、ラズベリルを連れて行って良かったのか?」
「大抵の事なら私だけでも出来ますから。何よりまだまだ、ラズベリル様は半人前ですからね。ここにいるより、成長されると思いますよ」
ジェンドなりにラズベリルの事を考えて空飛ぶ島へ連れて行く事を許してくれたのだろう。
「ある程度手伝ってもらったら、またここに送り届けるよ。その頃には見違えてるかもな」
「そうだと良いのですが」
無表情のままだったが、その声には僅かな喜びが滲んでいた。ラズベリルの成長を彼なりに楽しみにしているかもしれない。
「きゃー!」
建物の方からミーシャの叫び声が聞こえる。
すかさず向かうと、建物の中に、昨日戦った人形が五体入り込んでいた。
「泥を纏う前に叩き壊せ。イリアは盾を離すなよ!」
俺は入り口付近の人形を風の刃で切り刻む。
「来ないでよ〜!」
二体がミーシャを追い回している。
アウラはドラゴンの姿になり尻尾でミーシャを助ける。
「後で肉を奢って欲しいぞ!」
「言ってる場合!? まだ人形いるんだからさっさとやっつけなさい!」
残りの人形は、震えるイリアに攻撃しようとしていたが、盾の加護の光で弾かれていた。
「待ってろ、今助ける!」
俺は人形に雷を当て打ち砕いてやった。
イリアは人形が倒されるのを確認すると俺の元に駆け寄る。
「……怖かった」
「まだ、あいつらがいるかもしれない。皆で固まって動こう」
建物から出るとお互いの背を守るような格好で俺達は周囲を警戒する。
すると、驚くべき光景が広がっていた。
ジェンドの周りを数十体の泥を纏った人形が囲んでいた。
人形達が一斉にジェンドに襲いかかる
「ジェンド!」
「ラズベリル様の不在なら、妖精の里を攻め滅ぼせるとでも? お前らの好き勝手にはさせませんよ」
ジェンドは鹿の姿へと変わると、大きく嘶いた。
その咆哮が響いた瞬間、人形達の纏っていた泥が一斉に剥がれ落ちる。
「ラズベリル様の不在なら、妖精の里を攻め滅ぼせるとでも? お前らの好き勝手にはさせませんよ」
次の瞬間、ジェンドが地面を蹴った。
巨体が一気に人形の群れへと突っ込み、鋭い角が一体の人形を貫く。
人形はあっと言う間に砕け散った。
妖精王の側に立つだけあって実力も兼ね備えているのだろう。
「やるね。それでこそ壊しがいがある」
ジェンドに話しかけたのは、一人の黒髪の男だった。
その額からは、魔族特有の角が伸びていた。




