秘められた思い
道中、俺は大人しいとはいえ、リリスが怪しい動きをしないよう、両手を縄で縛ることにした。
縄には雷の魔力を仕込んである。無理に引き千切ろうとすれば、雷が流れて感電する仕掛けだ。
「結局、あの人形がラズベリルを負かした魔物だったのかしら」
「いえ、違うでしょうね。ラズベリル様を打ち負かしたのは毛の生えた魔物ですから」
「いい加減にしなさいよ! 何で直ぐに言わないのよあんたは!」
「落ち着けミーシャ」
ジェンドに手を出しそうになるミーシャを俺は押さえる。
「お帰りなさい! 魔物やっつけてくれた?」
ラズベリルの住処に着くと彼女はフルーツたっぷりのパイを焼いてくれていた。
「いや、まだだ。お前がやられた魔物は、透明なのか、茶色なのか、それとも毛が生えていたのか確認したくてな」
あまりにもジェンドが後出しでバラバラな事を言うのでラズベリルに尋ねる事にしたのだ。
「もう、言わせないでよ。茶色いアライグマみたいな魔物で、透明になるのよ。透明の間は魔力が探知出来ないの」
ジェンドの言っていたことは、すべて正しかった。
ただし、最初から全部言ってくれていれば、こんなに話をややこしくする必要はなかった。
「ジェンド、伝える時はちゃんと説明してくれ。後出しは無しだ」
「かしこまりました」
無表情のままジェンドは答える。本当に分かったのだろうか?
「まあ、良いわ。私を負かせた相手だもの。手こずるのも無理は無いわ。パイでも食べなさい……。って、ああ!」
既にアウラが二切れもパイを食べていた。
「甘くてさくっとして美味いぞ!」
「アウラ様、一人二切れまでなのでそれ以上は控えて下さると嬉しいです」
ラズベリル申し訳無さそうにアウラに頼むが三切れ目に手が伸びていた。
「皆様も自分の分を取らないと無くなりますよ」
ジェンドもパイに手を伸ばした。
「あら? ジェンドもフルーツのパイは食べれたの? もっと焼けば良かった」
「俺は腹空いてないから皆で食ってくれ。俺はやる事がある」
そう言うと俺はリリスを木陰に連れて行く。
「あの、何を?」
ひどくリリスは怯えていた。
「何処まで覚えている? 自分が魔族だと言う事は分かるか? 俺と戦った事は?」
「さっきも言ったけど何も分からないの。人の魔力を吸えるから人では無いと分かっていたけど、何も分からないの。でも、……」
不意にリリスは言葉を詰まらせた。
「何か有ったのか?」
リリスはしばらく黙っていた。
「……光に包まれたの」
「光?」
「ええ。優しくて、穏やかな光に。あれは何だったのかしら」
その光がリリスを助けたのだろうか? 結局今は何も分からなかった。
「お前は危険だ。魔力を封じさせてもらう。それから、暫くは空飛ぶ島で過ごしてもらうぞ」
「それでいい。一人は、もう嫌なの」
泣き出したリリスを見ても、俺は同情する気にはなれなかった。
こいつがバロックの右腕を名乗り、町でゴーレムを操って暴れたことを俺は忘れていない。
その所為で沢山の人が傷付いたのだから。
「魔物退治が終わったら、連れて行くからラズベリルとここで待て」
俺はリリスの額に触れ簡易的な魔封じの印を書いてやった。
今はこれで十分だろうと俺は、リリスを連れてラズベリル達の元に戻る。
「何をしてたんですか?」
不安そうにイリアは尋ねる。
「物騒な事はしてないから大丈夫だ」
微笑むとイリアは安心したようだった。リリスに俺が何かするかと不安だったのかもしれない。
「また、あそこに行かないと行けないのぬ。私、疲れちゃった」
ミーシャは服が汚れるのも気にせず、その場に座り込んだ。
「もう、夕方ですもんね。今日は、ここで休んで明日魔物退治に行けば良いわ」
ラズベリルは木の枝の杖を振ると、小さな家を出した。
中を覗くと五つのベッドと家具が揃っていた。
「簡易の宿みたいなものか」
「凄いでしょ? 私にかかれば何でも出せるのよ」
俺が感心しているとラズベリルは自慢げに答える。
「ですが、翌日の昼には消えてしまいますよね?」
「それは言わない約束でしょ!」
ジェンドの空気を読まない一言にラズベリルはむきになっていた。
「凄いのは凄いが締まらないな」
俺は建て物から出ると、ミーシャがアウラと何か話していた。
「ミーシャお腹空いたなら素直に言えば良いのに」
「違うったら! 私のお腹の音じゃ無いっての」
「どうしたんだ?」
俺が話しかけるとミーシャが当たり前のように手を握って来た。
「アウラが変な音を私のお腹音だって決めつけるの。酷いわよね」
「どんな音を聞いたんだ?」
「キュ、キュルルって音だぞ。そう言えばミーシャの普段のお腹の音より可愛かったかも知れないぞ」
「な、何ですって!」
「だから止めとけ」
アウラに向かって行きそうなミーシャを制す。
奇妙な音か、気に留めておこう。
俺は皆の元から離れ、薪になりそうな枝を探していた。
そこへジェンドが現れた。
「私もお手伝いしましょう」
「ああ、頼む」
俺は背後のジェンドに冷気の弾を放つ。
「な、何をなさるのですか」
「怪しいんだよお前は。魔物は透明何かじゃない。化けていたんだよ。ジェンドにな。魔物何だろ?」
「私が魔物なら、ラズベリル様が見たアライグマのような魔物は何だったというのですか?」
「魔物は一匹じゃなかったんだよ。一匹が囮になり姿を隠す、その隙にジェンドに化けたお前がラズベリルを襲ったんだ」
偽のジェンドは何も言わなくなる。
「ラルク、何やってるの?」
いつの間にか俺の背後にミーシャがいた。
「……イリアはどうした? 大事な俺の婚約者なんだからしっかり守ってくれよ」
「あ、そうだったね。今から戻るよ」
カマをかけて正解だった。
普段のミーシャなら、「何時からイリアがラルクの婚約者なったのよ浮気者」等と言い嫉妬に燃えるはずなのだ。
俺は目の前の偽ミーシャに雷を落とし、逃げようとする偽ジェンドは、足元を凍らせてやった。
「命ばかりはお助け下さい!」
偽ジェンドはアライグマの姿に戻り、倒れている偽ミーシャの前に立ちはだかった。
「何でラズベリルに手を出したんだ」
「それは私からお話します」
その時、背後からジェンドが現れた。
また偽物かと思い、俺は警戒を解かなかった。
だが、今度のジェンドには妙な違和感がない。
「……本物か?」
「その通りです。ドラゴンテイマー殿」
ジェンドはアライグマ達の傷を魔法で癒しながら話を続ける。
「ラズベリル様を一人前の妖精王にさせる為の試練として二匹をけしかけたのです」
「悪い、余計な事をしたか?」
俺が頭を下げるがジェンドは気にしてないように「いいえ」と答えた。
「プライドだけは高いラズベリル様が、目標を達する為ならプライドを捨てる選択をなされました。これは立派な成長です。むしろ感謝しています」
「俺は何もしてない。ラズベリルには、最初から妖精王の器があったってだけさ」
「……痛み入ります。このことは、どうかラズベリル様には内密に」
「知られたら癇癪を起こしそうだからな。黙っといてやるよ」
俺はジェンドと握手を交わした。
言葉にする必要はない。俺達だけの秘密だ。




