森の住むもの
「もう、行くのか?」
城門の前でアレクは名残惜しそうに俺達を呼び止めた。
「ああ、長居をしてたら、復興の邪魔になるだろうしな。王様には、礼は、すぐに思い浮かばないから、次来た時まで考えさせてくれって伝えといてくれ」
「ラルク達にも都合が有るもんな。もし、魅力的な美女を見つけたら俺の事を紹介してくれよ。ルーシュ城のアレクサンダーはイケてるってな」
体を引きずっていた時は心配だったが、これだけ減らず口を叩けるならもう心配ないだろう。
「あれだけ活躍したんだから次来た時は、アレクは騎士団長になってるかもね」
ミーシャは茶化すように言うと、アレクは首を横に振る。
「団長のシャルロットを超えるまでは俺は騎士のままでいい。弱い奴は上に立つべきじゃないからな」
「モテる事ばかり考えてなきゃ、すぐにでもなれるんじゃないか?」
「無理無理。美女の事を考えられないなら、騎士なんか辞めるさ」
アレクにやりとは笑う。
「アレクらしいな」
俺も笑い声を、あげて笑う。
お互いに手を振り、俺達は別れた
次に会う時は、本当に団長になっているかもしれない。
そんなことを楽しみに思いながら、俺達は旅を続けるのだった。
俺達は森の中にいた
地図を見る限り、一時間もあれば抜けられるはずの距離なのに、いつまで経っても森を抜けられる気配がない。
「誰かの視線を感じるぞ。おかしな魔力でアウラ達を閉じ込めてるみたいだぞ」
アウラは神妙な顔をして辺りを眺める。
俺も視線を感じていたが獣なのかとばかり考えていたが、違ったようだ。
「魔力に悪意のようなものは感じません。むしろ、澄み切った魔力を感じます」
「いい人が私達を閉じ込めてるっていうの? 何の為に? この森から出れなかったら飢え死によ」
飢え死にと聞いてアウラは青ざめた。
「食べ物が無いのは嫌だぞ!」
アウラが鉤爪に魔力を込め空間に振り降ろそうとする。
「お待ち下さい。私達は貴方を迷わせているのではありません。招いているのです。我らの住処へ」
声のした先には立派な角を持つ、大きな鹿がいた。。
鹿は俺達に近づくと、長身の男に姿を変えた。
「招く? 何処に招こうと言うんだ」
「この森の妖精の王が貴方に会いたがっているのです。来てくれますよね?」
男は無表情のまま尋ねる。
断わる事も出来たが、妖精の王に会うのも悪くないだろう。
「行くからさっさと案内してくれ。アウラが腹ペコで暴れない内にな」
俺は鹿の姿に戻った男について行くことにした。
しばらく男の後をついて行くと、表面に傷一つない黒い岩があった。
男は蹄で岩を二回蹴る。
すると、男と共に俺達の体が岩の中へ吸い込まれていく。いや、実際に吸い込まれたわけではない。そう錯覚させられたのだ。
気づくと、辺り一面に黄金色の草が生い茂っていた。
少し離れた場所には、膝丈ほどしかない、草で編まれた小さな家が建っていた。
「ここに妖精の王がおられます」
案内されたのは、ルビーに似た輝きを放つ花で飾られた建物だった。
「あら、貴方が有名なドラゴンテイマーのラルクね。会いたかったわ。私はラズベリルよ」
出てきたのは子供と見間違えるような幼い見た目の女性だった。
俺やアウラには敵わないが、その圧倒的な魔力の流れから子供ではないと分かった。
「迷子ですか? もう大丈夫ですからね。ラズベリルちゃん」
イリアは子供と思いラズベリルを抱きかかえる。
「私は、妖精王よ。こういうのは嫌では無いけど示しがつかないから下ろしなさい」
「これは失礼しました。すみません。随分お若いんですね」
慌ててイリアは、どこか名残惜しそうなラズベリルを下ろした。
「この人本当に妖精王なの?」
ミーシャは呆れたような顔をして俺に耳打ちをする。
「ちょっと変わり者だが魔力は本物だ。」
大抵の魔物を圧倒出来る程の魔力を、ラズベリルは秘めている。流石は妖精の王といったところか。
「ラズベリル様、そろそろ本題に入られては?」
「うるさいわね。分かってるわよ。まどろっこしいのは嫌いだから手短に言うわね。もうじき、この世界は闇に包まれる。その元凶である魔族を、貴方に倒して欲しいの。頼めるかしら?」
「断る。そんな事、勇者にでも頼め。じゃあな」
俺が帰ろうとするとラズベリルは焦りの表情を浮かべ俺の手にしがみついて来た。
「ちょ、ちょっと。 そこは断るところじゃないでしょ。良いものあげるから考え直して」
そう言ってラズベリルは、木箱を取り出す。
中には木彫りの小さな熊が入っていた。
「おもちゃなんかいらない。アウラ、空間を切り裂いて帰ろう」
「分かったぞ!」
「うえーん! 止めて、帰らないで。何でもするからお願いよ」
妖精の王に泣きつかれる日が来るとは思わなかった。
「約束はしないが、聞くだけ聞いてやろう」
「ありがとう、ラルク大好き! 倒してほしいのは魔王バロックよ。奴は自ら各地へ出向いて、邪神復活のために人の魂を集めているの。もちろん、私もその時は力を貸すわ。それまでに相応の装備も準備する。万が一の時は、貴方だけでも逃がしてあげるから」
「バロックなら以前倒して魔力を封じる印を体に刻んでやったぞ。奴の配下は動き回ってるみたいだがな」
ラズベリルは俺が何を言ってるか理解出来ていないようだった。
「あり得ないわ! エンペラードラゴンの居ないこの時代に、まともな装備もないドラゴンテイマーが魔王を倒すなんて!」
「エンペラードラゴンならここにいるぞ!」
アウラが胸を張って答える。
「えぇ~!」
ラズベリルの絶叫が、森にしばらく響いていた。




