異形の女王
城に近づくと城壁だけでなく、塔や門までも蜘蛛の糸に覆われていた。
「何か、この糸何だか鼻が痛くなるような嫌なピリピリした臭いがするぞ」
上空から城に近づくとアウラ顔をしかめる。
何らかの策略なのだろうか? 糸を残したままにするとまずいかもしれない。
「アウラ、糸だけを焼いてくれ。出来るだろ?」
「時間がかかるぞ」
「時間をかけても良いから、確実にやってくれ。俺はここで下りるから、頼むぞ!」
アウラから飛び降り、城の中庭に降り立つ。
争う声が聞こえてくる城内へ、俺は急いだ。
声の聞こえた城のエントランスには、斬り倒されたアラクネと、傷ついた兵士達が倒れていた。
残念ながら、数人の兵士はすでに息絶えていた。
一人の兵士が、息も絶え絶えになりながら俺の方へ這ってきた。
「誰かいるのか? 目をやられて何も見えないんだ」
「大丈夫か? 何があった?」
俺は手のひらに魔力を込め、応急処置程度に兵士の傷を治した。
だが、目だけは治せなかった
「アラクネや小さな蜘蛛が、大量に城へ押し寄せてきたんだ。頼む! 王と王妃様を守ってくれ!」
言い終わると兵士は気を失ったようだった。
「任せときな」
俺は兵士をその場に寝かせると、王を探すため上の階へ向かった。
上の階へ上がり、しばらく進むと装飾のされた立派な扉が有った。
中からは人の気配がしていたので、俺は音を立てないように扉を開く。
すると、中にはきらびやかな服を身にまとい、王冠を被ったアラクネとそれに対峙するアレクがいた。
「アレク! 無事だったか!」
俺はアレクに駆け寄った。
「ああ、何とかな。騎士団長シャルロット様が居ればこんな奴簡単に倒せるんだがな」
アレクが睨み付けるとアラクネは笑う。
「妾に勝てるつもりか? 身の程を知れ。この城は今日から妾のものだ。お前らは妾の為に身を粉にして働き続けるがいい!」
無数の小さな蜘蛛が何どこからともなく現れ、俺とアレクの体を登り始めた。
このまま体を乗っ取る気だ。
俺は出力を抑えた雷の魔力を全身に巡らせ、まとわりついた蜘蛛を退治する。
アレクの蜘蛛もどうにしてやろうとした、その時だった。
冷気がアレクを中心にして、辺りに立ち込めていたのだ。
「ラルク! 氷漬けになりたくなかったら、離れていろ!」
俺は咄嗟に後方に跳ぶと、次の瞬間――
アレクの体は氷の鎧に包まれ、足元には蜘蛛の死骸が転がっていた。
「疲れるからこんな格好したくなかったんだが、言ってる場合じゃないからな。ラルク、後で町の女の子にはしっかり話してくれよ。俺がこいつをブチのめして国を救ったってな!」
「その程度の力で妾に勝てると思っているとは、笑わせてくれるわ! 身の程を知らぬ下僕には罰を与えねばな!」
アラクネは蜘蛛の糸をアレクに向かって吐き出す。
「遅い!」
アレクは糸をかわすと、冷気を纏った剣でアラクネの足を数本切りつけた。
「そんなもの効かぬ……。 うっ!」
アラクネの足は切断されていなかった。だが、斬りつけられた箇所から徐々に凍り始めていた。
「そのまま凍っちまいな」
「……反省しなくてはならぬな。相手を見くびり過ぎて窮地を招くとは。これは罰だ、妾自身に科した罰!」
そう言って完全に凍りつく前に、アラクネはどこからか取り出した剣で、自らの足を切り離した。
アラクネは見下した表情をしていなかった。
戦場の敵同士が向け合う、警戒と憎悪の混じった表情をこちらに向けていた。
下手に学習されてからでは厄介だと、俺はアラクネに火球を放とうとした。
「待てアレク。俺にやらせてくれ。俺が好きなこの国で、めちゃくちゃやった奴は俺の手で懲らしめたい」
「油断するなよ」
俺が火球をかき消すと、アレクは再びアラクネに斬りかかろうとした。
しかし、その剣はアラクネには届かなかった。
アレクが血を吐いて蹲ったのだ。
「アレク!」
「あはは、念の為に城に毒の魔力を込めた糸を張り巡らせて正解だったようだな。嬲り殺してやるぞ、下僕め!」
アラクネは、切り離された足の根元から新たな足を生やすと、アレクに向かって剣で斬りかかろうとした。
俺は火球の玉を放ち、アラクネを足止めした隙にアレクを駆け寄る。
「アレクしっかりしろ!」
「ああ、やらかした。 一発で仕留めれば良かった。ラルク、後は頼む……」
アレクは気を失ったようだった。
俺はアレクの体に回った毒を魔力で中和したが、このままではアレクは死ぬだろう。
俺がけりをつけなければならない。
「ほう、お主は毒に耐性があるのだな」
「エンペラードラゴンと契約してるから」
「あはは、何を言うかと思えばエンペラードラゴンとな? そんな古龍などとうの昔に滅んでおるわ。そんなはったりなど無意味。お前も死ぬがいい!」
アラクネが俺に向かって剣を振り降ろす。
俺は避けずに剣を二本の指で挟んだ。
「なら、試してみるか? この力がはったりかどうかをな!」
驚くアラクネの腹部に、挨拶代わりの拳を数発叩き込む。
アラクネは足元から崩れるように倒れた。
「……うっ!」
「女王様気取りをしていたのに、この程度か?」
小さく呻くアラクネの眼前に火球を生み出し、俺は冷淡に言い放つ。
「吐かせ! エンペラードラゴンの力を人間ごときが使いこなせる訳がない。勝つのは妾だ!」
俺は体当たりをいなし、すれ違いざまに背中へ風の刃を放った。
「ぐあああ! 何故、そこまでエンペラードラゴンの力を使いこなせる……。もしや、お前はドラゴンテイマーか?」
「ご名答」
青ざめるアラクネに俺はにやりと笑って見せるのだった。




