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最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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束の間の平穏

 それから俺達はロックウェルに三日ほど留まり、壊れた外壁の修復や、怪我をした兵士たちの治療を手伝った。


 三日も経つ頃には、俺達の手助けがなくても復旧を進められるくらいにまで、ロックウェルは立ち直っていた。


 もう俺達がここに残る必要はないだろう。

 俺たちは旅を再開することにした。


 城門まで見送りに来たサイモンが、名残惜しそうに口を開く。


「また近くを通りかかったら、ぜひ立ち寄ってください」


「ああ。その時まで達者でな」


 俺は手を上げて答える。


 こうして俺達は、ロックウェルを後にした。


 その日は少し日差しが強く、汗ばむほどの暑さだった。


 少し進路を変更し、俺達は川で休憩することにした。


 靴を脱ぎ、木陰になっている場所で足を川の水に浸ける。


 ひんやりとした水が心地よかった。


「魚がいるぞ! 今日の昼飯だ!」


 アウラはドラゴンの姿になると、魚目掛けて川へ飛び込んだ。


 勢いよく跳ね上がった水飛沫が、俺達の顔を濡らす。


「きゃあ! アウラ、飛び込むならもっと離れたところでやってよ!」


 ミーシャが慌てて顔を拭う。


 その全身はすっかり水浸しになっていた。


「ご、ごめん。じゃあ、あっちに行くぞ!」


 アウラは少しだけ申し訳無さそうにしていたが、直ぐに川の上流へ向かって泳いでいく。


「もう! 自慢の毛並みが台無しよ!」


 ミーシャは服を気にしながら、恨めしそうにアウラを睨んでいた。


 毛が水に濡れて一回り小さくなったミーシャを見て、俺はとうとう堪えきれず吹き出してしまった。


「ちょっと! ラルク笑わないでよ!」


「あははは、悪い、悪い。でも、可笑しくて」


「もう知らない!」


 ミーシャは頬を膨らませると、濡れた髪や毛並み鞄から取り出したブラシで整え始めた。


「大変です! ラルクさん、来てください!」


 近くで薬草を摘んでいたイリアが、慌てた様子で俺を呼ぶ。


「どうした、イリア?」


「女性が魔物に襲われているんです!」


 イリアが指差した先には、十代後半ほどの少女がいた。


 その少女を二匹の赤い毛をした猿の魔物が襲っている。


「まずい!」


 俺が駆け出そうとした、その時だった。


 地面を揺らすような咆哮が響く。


 家ほどの大きさを持つ巨大な狼が、凄まじい勢いで猿の魔物へ突進した。


 二匹の魔物は為す術もなく吹き飛ばされ、そのまま動かなくなる。


「……なんだ、あの狼は?」


 狼は少女へ向き直る。


 そして大きな顔を少女へ近づけた。


「まさか、食うつもりか!」


 俺が身構えた、その瞬間。


 狼は少女の頬をぺろりと舐めた。


「きゃっ、くすぐったいよ」


 少女は困ったように笑いながら、狼の口元を慣れたような手つきで撫でる。


「シルベン、ありがとう助かったよ」


 少女はこちらに気付くと、狼を撫でる手を止め、こちらへ駆け寄ってきた。


「心配して助けようとしてくれたんですよね。すみません、心配をかけてしまって」


 少女は俺に深々と頭を下げる。


「無事ならいいんだ。それより、そっちの狼は飼っているのか?」


「飼っているというよりは、相棒みたいなものです」


 少女は振り返り、シルベンを見る。


 シルベンは少女の隣まで歩いてくると、まるで当然のように寄り添った。


「私は旅芸人をしているので、馬車を引いてもらったり、先ほどみたいに魔物から守ってもらったりしているんです」


「旅芸人?」


 思わず俺は聞き返した。


「はい。移動式の劇場で、いろんな町を回っているんですよ」


 少女はそう言って、にっこりと笑った。


 おーい、リゼル。ここにいたのか。そろそろ町へ向かわないと、明日の公演に間に合わなくなるぞ。……おや、こちらの方々は?」


 やって来たのは、艶のあるシルクハットを被った、愛嬌のある顔立ちをした四十代くらいの男だった。


 男の姿を見た途端、リゼルは申し訳なさそうな顔をする。


「パ、パパ。この人たちは先ほど知り合ったの。魔物に襲われた私を助けようとしてくれて……」


「シルベンが突然駆け出したから、何事かと思ったら、また襲われていたのか!」


 男は深くため息を吐き頭を抱える。


「だから馬車から離れるなと言っているんだ! そもそも、お前は昔から――」


「それくらいにしたら?」


 長くなりそうな説教を見かねたのか、ミーシャが口を挟む。


「リゼルだっけ? ちゃんと反省してるみたいだし」


 リゼルは小さく頷く。


「……これは見苦しいものをお見せしました」


 男は咳払いをすると、俺たちへ向き直る。


「旅のお方、娘がご迷惑をお掛けしました。よろしければ、お礼代わりに次の町まで馬車に乗っていきませんか?」


「いいのか?」


「もちろんです。多少窮屈でも良ければですが」


 男はにこりと笑う。


 騙すつもりもなさそうだと、俺は男を信じることにした。


「次の町までよろしくな、おっさん」


「私はアルバート劇場の座長、オーラムと申します」


 わざわざ訂正するところを見ると、どうやらおっさんと呼ばれるのは気に入らないらしい。


「オーラムさんって呼べば良いのか?」


「おっさんやおじさん以外ならお好きにお呼び下さい」


 口調は穏やかだが絶対言うなよと言わんばかり圧を感じる。


 俺は気にせずアウラを呼びに行く。


 少し離れた川辺では、少年の姿になったアウラが大量の魚を抱えていた。


「この姿の方が魚を捕まえやすいぞ。ん? 何かあったのか、ラルク?」


「そろそろ行くぞ。親切な旅芸人のおっさんが馬車に乗せてくれるみたいなんだ」


「じゃあ、この魚は皆で食べるぞ!」


 アウラは満面の笑みを浮かべる。


 俺とアウラがオーラム達の元へ戻ると、シルベンの後ろには二階建ての家ほどもある巨大な馬車が繋がれていた。


「でかいな……」


 思わず見上げると馬車の側面に、妙な切れ目のようなものがいくつも入っていた。


「……安物でも掴まされたのか?」


「ふふっ、そう見えますよね」


 リゼルが可笑しそうに笑う。


「でも、違うんですよ」


 リゼルが馬車の側面に手をかける。


「この馬車は開けば、そのまま劇場になるんです」


「劇場に? この馬車が!?」


「はい!」


思っていた反応だったのか驚く俺にリゼルは楽しそうに答える。


「舞台も客席も、全部この中に入ってるんですよ」


「へえ……」


 思わず馬車を眺め直す。


 移動式の劇場と言っていたが、目の前の馬車が劇場になる事が想像出来なかった。


「出発しますよ。ほら、乗って乗って!」


 オーラムの声が響く。


 俺たちは促されるまま、後部の扉から巨大な馬車へと乗り込むのだった。

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