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最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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絶望を穿つ光

「避けられるものなら、避けるがいい!」


渦から真っ赤な蝶が次々と飛び出してくる。


蝶は鱗粉を撒き散らしながら、俺へまとわりつこうと迫ってきた。


そのうちの一匹が近くを飛んでいたカラスに触れる。


鱗粉を浴びたカラスは苦しそうに鳴き声を上げ、そのまま地面へ落ちていった。


「まずい!」


俺は咄嗟に火球を放ち、迫ってきた蝶をまとめて焼き払う。


勝てない相手ではない。


だが、一つ一つの攻撃が厄介だ。


老人を倒すまで、気を抜くことはできそうになかった。


「ほっほっほ。怖いじゃろう? 次は何が出るかのう」


「うるさいぞ!」


苛立ったアウラが、老人へ向けて炎を吐き出す。


流石に老人も慌てたようだ。


すぐさま渦を自分の前へ引き寄せ、迫り来る炎を吸収する。


しかし、完全には防ぎきれなかったらしい。


老人の服の一部が焦げている。


渦で魔法を吸収できても、老人自身には大した魔力耐性がないのだろう。


上手く魔法を当てれば倒せる。


俺はアウラが炎を放っている隙に、老人へ向けて冷気を放った。


すると、冷気は渦に吸収されることなく、老人の右腕を凍らせた。


「こんなもの、大したことないわい!」


老人が腕を振る。


凍り付いていた右腕が、瞬く間に元の状態へ戻った。


だが、これで分かった。


渦は一度に二種類の魔法を吸収することはできない。


それに、炎を吸収している間は渦から何も出てこなかった。


つまり、吸収と放出を同時に行うこともできないのかもしれない。


「なるほど……」


俺は老人を見据える。


奴の弱点が見えてきた。


「わしに傷を負わせた人間は、お前が初めてじゃ。天災のヴォークス。それがわしの名じゃ」


名を名乗ったということは、俺を有象無象の人間ではなく、一人の敵として認めたということなのだろう。


「ヴォークス! 命が惜しければ、城塞の渦を消せ!」


「若造が! わしに勝てるつもりか!?」


侮られたと感じたのか、ヴォークスは語気を荒らげ、周囲の渦を一つに収束させ始める。


魔力が渦に衝突した瞬間、紫色の渦は跡形もなく消滅する。


飛び出しかけていたガーゴイルも途中で霧散し、無数の破片となって地面へと落下した。


「ちっ……!」


ヴォークスは即座に新たな渦を生成する。


しかし、俺は見逃さなかった。


ほんの一瞬だけ、ヴォークスの顔に冷や汗が浮かんだことを。


「渦を生み出すのにも、それなりの魔力が必要なのだろう?」


俺は一歩、ヴォークスへと踏み出す。


「そろそろ限界じゃないのか」


「抜かせ!」


冷静さを失ったのか、ヴォークスは渦を使わず、長く伸びた爪を振りかざして直接襲いかかってきた。


俺はその攻撃を難なくかわし、無防備になったヴォークスの胸元へ容赦なく拳を叩き込む。


確かな手応えがあった。


「ぐあっ!」


ヴォークスは血を吐きながら、そのまま落下していく。


これで終わったかと思った。


だが、地面へ落ちる寸前、渦がヴォークスの身体を吸い上げた。


「魔界に帰ったのか?」


次の瞬間。


背後から殺気を感じ、咄嗟に身構える。


俺より早くアウラが動いた。


金属音が響き、俺の目の前で巨大な大剣が弾かれる。


ヴォークスだ。


いつの間にか取り出した大剣を両手で握り、俺たちを睨みつけている。


「わしは今まで、百の町と二十の城を破壊し、十万以上の命を葬ってきた」


ヴォークスの口元が歪む。


「わしが壊せぬものはない」


大剣を構え直す。


「わしが殺せぬものはない」


こいつは邪悪だ。


ここで仕留めなければ、より多くの人が犠牲になる。


俺はアウラの背から飛び降り、ヴォークスへ向かって飛びかかった。


大剣が俺の鼻先を掠める。


構わず踏み込み、炎を纏わせた拳をヴォークスの腹へ叩き込んだ。


確かな手応え。


だが――


「はあ、はあ……かかったな」


ヴォークスが不敵に笑う。


「お前は、わしと共に魔界の果てへ行くのだ! そこで朽ち果てろ!」


罠だった。


腹に突き刺した拳が抜けない。


その瞬間、ヴォークスの周囲にあった渦が急激に膨れ上がった。


渦は俺とヴォークスをまとめて飲み込もうとしている。


「ラルク!」


「来るな、アウラ! お前まで吸い込まれるぞ!」


こちらへ飛び込もうとしたアウラを、俺は叫んで制止する。


このまま渦に吸い込まれれば、どうなるか分からない。


それでも、アウラまで巻き込みたくなかった。


「残念だったな、ドラゴンテイマー。これでお前は終わりだ」


ヴォークスが勝ち誇ったように笑う。


「終わり?」


俺はヴォークスを睨みつけた。


「違うな」


渦の轟音に負けないよう、声を張り上げる。


「人には未来を紡ぐ力がある。どんな絶望に飲み込まれても、それを打ち砕いて先へ進む力がな」


俺は、こちらに向かって来る希望を感じながら、拳にさらに魔力を込める。


敗因? 負けたのはお前もだろう」


「まだ気付かないか?」


俺はヴォークスを睨みつける。


「この強大な魔力を」


「……まさか!」


ヴォークスが、はっとしたようにロックウェルの方角へ顔を向ける。


その瞬間。


遠くの城塞から、巨大な光が放たれた。


中央の高台にそびえ立つ巨大砲台。


神罰砲ジャッジメント


放たれたエネルギーは、夜空を切り裂きながら一直線にこちらへ向かってくる。


その光は、触れるものすべてを包み込み、破壊し尽くしてしまいそうなほど凄まじい。


ヴォークスの顔から、初めて余裕が消えた。


「馬鹿な……!」


これが、サイモンが危険を冒してでも放った一撃。


ロックウェルの人々が、生き残るために掴み取ろうとした明日への可能性だった。


神罰砲(ジャッジメント)が俺たちへ迫る。


このままではヴォークスは、ただでは済まない。


だが、渦が俺たちを完全に飲み込むまでには、まだ僅かな時間がある。


「どうする、ヴォークス?」


俺は笑みを浮かべる。


「お前の渦と、あの砲撃。どっちが先かな?」


プライドを捨てたのか、ヴォークスは俺を解放すると、渦の中へ飛び込もうとした。


しかし、俺は咄嗟にヴォークスの腕を掴んだ。


「逃がすか!」


ヴォークスが振り返る。


「お前が今まで奪った命に、詫びてこい!」


俺はヴォークスの顔面へ拳を叩き込んだ。


吹き飛ばされたヴォークスの身体が地面に叩きつけられる。


その直後、渦が消滅した。


「ラルク!」


アウラが俺の襟首を咥え、強引にその場から離れる。


数秒後。


遥か彼方から、空気を震わせる轟音が響いた。


神罰砲ジャッジメント


放たれた光がヴォークスを捉え、その姿を飲み込んでいく。


光が消えた後、そこには何も残っていなかった。


「……終わったな」


アウラの背で、俺は小さく呟く。


俺たちは疲れ切った身体を引きずるように、ロックウェルへ戻るのだった。

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