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【累計5000pv突破!】最強のドラゴンを従えたので、世界の命運とか気にせずのんびり生きる事した  作者: 黒猫 六郎太


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聖女の憂鬱

ある程度、島も人が住める環境になってきたので、俺達はレガリアから北東に位置する国、ラザムの城下町を訪れていた。


 今はのんびりとカフェでデザートを楽しんでいる。


 この町は魔法技術が発展しており、傷みやすい生クリームも長期間保存できるらしい。そのおかげで、ホイップクリームがたっぷりと乗ったシフォンケーキを堪能できる。


 食に関する魔法技術を極めた結果、食料事情が安定し、戦争とは無縁の国になったのだという。


「肉も美味いけど、このケーキも美味い! 気に入ったぞ!」


 アウラは五個目のケーキを頬張りながら、満面の笑みを浮かべていた。


 こんなに嬉しそうな顔をされると、好きなだけ食べさせてやりたくなる。


「ねえ、ラルク。もう少しの間、島の管理はゴブリン達に任せて、のんびりしましょうよ。私達だって休息は必要よ」


 楽園を作ると意気込んでからというもの、島を住みやすい環境にするために、あれこれ考えては行動してきた。


 確かに、そろそろ休息を取るのも悪くないかもしれない。


「それも良いかもな」


 これまで巡ってきた町では、幸いなことに種族や職業による差別は見かけなかった。


 理不尽な目に遭っていたのが俺だけなら良いのだが……。


 この世界には、まだ俺の知らない国や町がたくさんある。もう少し色々な場所を巡ってみようと思っていた。


 カフェを出ると、通りの向こうに大勢の人だかりができていた。


「何かあったのかしら?」


 ミーシャが興味深そうに人だかりを眺める。


 その中心には、白い聖衣を身にまとった十代半ばほどの少女がいた。


 少女は老人の目元に手をかざし、魔力を流し込んでいるようだった。


「目を開けてみてください」


「おお!! 見える! 見えるぞ! 五年前に光を失ったこの両目が、再び見えるようになるとは……。聖女様、本当にありがとうございます!」


 老人は少女の手を握り、何度も感謝の言葉を口にした。


「聖女? あの娘がか?」


「あんた、知らないのか? 旅する聖女、イリア様だよ。ああやって病を治したり、慈善活動をしたりしているんだ。顔も可愛らしいし、聖女様なんて肩書きがなければ、俺だって遠慮なく告白するんだがな」


 突然話しかけてきた中年の男の話を半分ほど聞き流しながら、俺は改めて聖女イリアの姿を眺めた。


 肩まで伸びた金色の髪は、日の光を受けて柔らかく輝き、白い聖衣によく映えている。


 猫のようにくりっとしたライム色の瞳には、無邪気さとともに、神への信仰に対する強い意志が宿っているように見えた。


 これが聖女というものなのか。


 俺が感心しながら眺めていると、イリアはふとこちらに気づいたようだった。


「仲間が来たようなので、私はこれで失礼しますね」


 そう言うと、イリアは俺の手を取って歩き出した。


「お、おい!」


「しーっ! このまま町の入り口まで歩いてくれませんか? ええと、お名前は?」


「ラルクって呼んでくれ」


 どうやら、聖女様も色々と苦労しているらしい。


 隣からミーシャの嫉妬に満ちた視線が突き刺さるが、俺は人助けだと自分に言い聞かせ、そのまま歩き続けた。


「ここまで来れば良いか?」


 町の入り口までたどり着いたところで尋ねると、イリアは柔らかな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。助かりました。まさか、あそこまで人が集まるとは思いませんでした」


「ははっ。聖女様は有名みたいだからな」


「私はただ人を助けたいだけで、名を広めるつもりはないのですが……。なかなか難しいですね」


 こうした奥ゆかしいところも、彼女が人々から慕われる理由なのだろう。


「聖女様は、これからどうするんだ?」


「次の町へ向かおうと思います。助けを求めている人は、他にもたくさんいますから。皆さんにも、神のお導きがありますように」


 イリアは俺達のために祈りを捧げると、街道へ向かって歩き出した。


「ラルク、あの女から変な臭いがしたぞ」


 今まで黙っていたアウラが、神妙な面持ちで口を開いた。


「変な臭い? 俺には何も感じなかったぞ?」


「人間なのに、魔族のような臭いが混じっていた。あれは普通じゃないぞ」


 アウラはイリアが去っていった方向をじっと見つめている。


 アウラの嗅覚は並外れている。単なる勘違いとは思えなかった。


「この町で聖女様が何をしていたのか、聞き込みをしてみよう。もし怪しい動きがあったら、後を追って確かめるぞ」


「分かった。私は市場の方で話を聞いてみるね」


 俺達は手分けして町の人々から話を聞いて回った。


 しかし、聞こえてくるのはイリアが病人を治療したり、困っている人々を助けたりしていたという話ばかりだった。


 彼女が悪事を働いているような証言は、一つも見つからなかった。


 ただ、一つだけ奇妙な話があった。


 イリアがこの城下町を訪れてからというもの、家畜の不審死が立て続けに起きているというのだ。


 単なる偶然かもしれないが、確認する必要はあるだろう。


 俺達はアウラにイリアの臭いを辿らせ、後を追うことにした。


 彼女を見つけたのは、すっかり日が沈んだ頃だった。


 街道から少し離れた場所に焚き火があり、その傍らには簡易テントが設置されていた。


 俺達が近づくと、こちらの気配に気づいたのか、テントの中からあくびをしながらイリアが姿を現した。


「皆さん、どうかなされたのですか?」


「単刀直入に聞こう。お前は魔族なのか?」


「……あはっ! 半分正解よ」


 イリアの口調が突然変わった。


「半年前、この子は私を退治したつもりだったけど、魂だけになった私は、この子に乗り移ったの。夜しか活動できないし、腹いせに人を殺す力もない。不便で仕方ないわ」


 イリアの瞳が燃えるような赤色に変わり、その頭には二本の魔族の角が生えてきた。


 聖女の身体に魔族が潜んでいたとは、何とも皮肉な話だ。


 おそらく、城下町で家畜が死んでいたのも、こいつの仕業なのだろう。


「イリアの身体を乗っ取るとは……。俺に会ったことを後悔させてやる!」


「待ちなさい! この身体はイリアのものよ! 私を殺せば、イリアまで死んでしまうの! 分かっているの!?」


 急に慌て始めた魔族を無視して、俺はイリアの額に手を触れた。


 そして、純白に輝くイリアの魂から、どす黒い魔族の魂だけを引き離すイメージを思い描く。


 すると、イリアの身体から黒い靄のようなものが抜け出し、魔族の魂が引きずり出された。


「なっ!? 何をしたの!?」


 自由になった魔族の魂は、逃げるようにその場を離れようとした。


 しかし、アウラが尻尾を振るうと、魔族の魂は一撃で砕け散った。


「私は……何ということを……」


 魔族の魂が消えた途端、イリアはその場に崩れ落ちた。


 憑依されていた間の出来事を、思い出したのだろう。


「お前のせいじゃないさ」


「いいえ……。私が不甲斐ないばかりに、罪のない命が奪われてしまったのです……。私は、どうしたら良いのでしょう……」


 イリアは困惑と不安の入り混じった表情を浮かべ、今にも泣き出しそうだった。


 俺はそんな彼女をそっと抱きしめた。


「大丈夫だ。落ち着け。皆を笑顔にする聖女様が泣いてどうする。もう何も起こらないから、安心しろ」


 その言葉を聞いた途端、イリアは堰を切ったように声を上げて泣き始めた。


 聖女と呼ばれていても、彼女は俺達と大して変わらない年頃の少女なのだ。これまでずっと人々を助けてきた彼女だって、誰かに頼りたくなることはあるだろう。


 しばらくして、ようやく落ち着いたイリアは涙を拭った。


「私ったら、みっともない姿を見せてしまってすみません」


「気にしなくていい。聖女だからって、人間なんだから泣いたっていいんだ」


「ありがとうございます。そんなことを言われたのは、生まれて初めてです」


「ラルクは私のなんだから、取らないでね」


 何故か顔を赤くしているイリアの前に、ミーシャが割って入った。


「そ、そんなつもりはありません。ただ、少しの間、一緒に旅をしてほしいなと思っただけで……」


 どうやら、イリアもまだ不安を感じているらしい。


 しばらくは誰かが傍にいてやった方がいいだろう。


「イリアがもう大丈夫だと思えるまでで良いなら、喜んで付き合うさ」


 その直後、ミーシャに浮気だと顔を殴られた理由が未だに分からない。

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