選択肢
アウラの背に乗った俺は憂鬱と不安な気持ちの混ざった感情が渦巻いていた。
ミーシャも空気を読んでか何時も以上に大人しい。
何も無ければ良いのだがと、空の上からレガリア王国の領地を眺める。すると、直ぐに違和感に気付いた。
城が有った場所が、ほぼ畑になっていたのだ。
畑にはトロールが数体おり、人間をこき使っているようだった。俺は、その人物に見覚えが有った。
レガリア王国の王イドルムだ。泥に汚れた粗末な布の服を着て、照り付ける日差しに焼かれながら、ひぃひぃ言いながら畑を耕している。
正直、こいつがどうなろうが知った事ではないが何が有ったか話を聞かねばならないだろう。
トロールの側にアウラが下りると俺はトロール達に声をかける。
「王国に何が有った?」
「おお! ラルク! わしを助けに来たか! こいつらを始末しろ! さっさとや、ぐぇ!!」
偉そうにうるさく喚くものだからイドルムを雷の魔術で痺れさせてやった。トロールの方が賢いのか武器になりそうな鍬を置いて対話を試みようとしている。
「我らは、こいつらに土地を奪われたから奪い返しただけだ」
「そうだ。魔物だからという不当な理由だけで土地や食料まで奪い取られた。だから、こいつの国を我らトロールが植民地にして、奪われたものを倍にして返させようとしただけだ」
復讐されるなんて考えずに、喧嘩売ってやり返されるとはやはりろくでもない王だ。離れて正解だった。
それより確認しないといけない事がある。相手の返答によってはトロール共と一戦を交える事になりそうだ。
「城下町の連中には手を出していないだろうな?」
どういう意味か理解出来ないのかトロール達はきょとんとした顔をしている。
「我らを襲った兵や一部の騎士は王族達と共に強制労働させてるが、罪のない民に何かする理由など無いだろ」
少なくとも母は無事だと俺は安堵していた。
思ったよりトロール共の方が人間達より心根がよいのかもしれない。
「騎士ガウディの事は知らないか?」
「知らないな。俺らのボス、トータス様なら何か知ってるかもな。案内してやるよ」
イドルム担ぐとトロールは俺等を左右で囲むように歩き出した。
「木の良さそうなトロールだし、この様子ならお父さんも無事かも知れないわね」
「そうだと良いな……」
俺の父、ガウディはこの国を守るためだけに命を懸けて戦ってきた。しかし、城と共に王国は無くなってしまった。討ち死にしてなければ良いのだが…。
十数分歩き続けた先に丸太で組み立てられた小屋のような物が見えて来た
「あれがトータス様の家だ。待ってろよ……。トータス様! トータス様に会いたがっているドラゴン使いと仲間をお連れしました」
「ドラゴン使い? ほう、ドラゴンテイマーか。通して構わないぞ」
許可が出たようで家の中に入ると、他のトロールよりスマートな体型のトロールが、アンティーク調の執務机で何か作業をしているようだった。
「お邪魔したかな?」
「いや、休もうとしていたからちょうど良かったくらいだ。それで何ようかな?」
「騎士ガウディはどうした?」
ガウディの名を聞いた途端トータスは顔を覆った。
「彼に取っては酷いことをしたかもしれないな。目の前で王が民の命を差し出し生き延びようとした醜態を晒したのだから。心を病む筈だ」
「生きてるんだな。何処にいる?」
「……見ないほうが良いかもしれないが行くなら止めはしない。城下町の酒場にいるだろう」
酒を飲まない父が酒場にいるなどイメージが沸かなかったが俺は城下町の酒場まで全力で走った。
エンペラードラゴンの力でものの数分で十数kmの城下町の酒場についた。
まだ昼になったばかりなのに酒場はやけに騒がしい。
酒場のドアを押して中に入ると衝撃的な光景が広がっていた。
酒場のステージで鎧を来た父が一心不乱に踊っていた。
「もう、騎士はやめだ! 俺はレガリア一の踊り子だあ」
踊る父を呆然と俺は眺める事しか出来なかった。あれほど厳格な父が壊れてしまったのだ。
王は神聖な存在だと信じたのにその醜態を目撃し、守るべき国も滅び、縋るものを失ったのだから当然かもしれない。
……父は生きてた。それだけは喜ぶべき事なのだろう。
父はこちらに気付くとステージから下りてこちらに向かって来る。その表情は笑顔に満ちていた。
「ラルク、愛しい息子よ。元気そうで何よりだな。付き合え一杯やろう」
カウンターの席に移動すると父はエールを二杯頼んだ。少しの間沈黙が続く。何を言えば良いか分からなかったからだ。
「母さんは元気?」
「ああ、トロール達が王国を支配した時は青い顔してたが彼らが友好的だと分かってからは毎日楽しそうにしているよ。この前は女トロール達とお茶会をしてきたらしい」
「それなら良かった」
話した感じはいたって普通だが何だが以前より父の口調が明るくなった気がした。
「勝手に家を出てごめん」
「気にするな。……、ラルク。信じる者を失って初めて俺は気付いたんだ。何かに縛られる必要は無いって。がむしゃらに突き進んだからと行って道は必ず開けるものではないんだ。お前は自由だ。責任感は伴うがどんな選択肢を選んでも良いんだ」
父は壊れたのではない。初めて自分で選択肢選んで生きているのだろう。俺からは、それが正しいとは言えないが自分の好きに生きて欲しいと、甘いようなほんのり酸っぱようなエールを飲みながらと考えていた。
「じゃあな、母さんによろしく伝えてといて」
「ああ、またなラルク」
酒場から出るとミーシャとアウラが待っていた。
「もう行くのか? 今度は何時来れるか分からないぞ」
「良いんだよ。俺が居なくても何とかなりそうだからな」
それに、長居をしたら厄介な奴に絡まれるかもしれない。
「そこに居るのはラルクだろ。こき使われてるんだ助け……」
ボロ布を着た元聖騎士見習いシェームが駆け寄ってきそうになったので魔法で、素早く石を投げ付け気を失わせてやった。
「行くぞ。ここにはもう用は無い」
ろくでなしの王より、トロールが治めた方がこの国は余程平和だろう。
アウラの背中に乗り温もりを感じると日常が戻った気がした。




