火種
白目を剥いて倒れるバロックの元に黒いローブを着た連中が集まっている。
「バロック様!! これほどの手傷を負われるとは……。とにかく治療をせねば命関わる。セルバン、早くバロック様を城に連れて行け!!」
「はいよ。こりゃ随分派手にやられたな。途中で死んじまっても俺のせいにしないでくれよ」
黒ローブの男の一人がバロックを担ぐと、もう一人が杖の先をそいつの顔辺りに向ける。
「縁起でも無いことを言うな! バロック様にもしもの事が有れば、私がお前を殺すぞ!」
「分かった……、うお!」
アウラがバロックを担ぐ黒ローブに体当たりをして体制を崩し、ミーシャが手足を縛り上げた。中々のコンビネーションに俺は口笛を吹いた。
「そいつを連れて行ったらまた悪さをするんでしょう? もう悪い事をしないって誓うなら逃がしてあげても良いわよ」
「調子に乗るなよ獣風情が!」
杖を持つ黒ローブが杖の先に魔力を溜めるより早く、俺はそいつの額を指で弾いてやった。
たったそれだけで、声を上げずに黒ローブは気を失った。
「殺しはしないがこれだけやらかしたんだ。ただでは帰らせない。体に魔封じの印を描かせてもらう」
俺は指先に魔力を集中し、バロックの腹部にでかでかと魔封じの印を描く事にした。
魔王といえど印を消せぬようにより強力な印を深く染み込むように時間をかけてやった。
「これで帰って良いぞ。ただし、また何かするなら今度は消し炭にしてやると伝えとけ」
これだけで懲りたりはしないだろうが暫く悪さは出来ないだろう。
ミーシャに縛られた黒ローブを解放する時、脅すように語気を強める。
「ひえ〜!エンペラードラゴンの契約者はおっかねえな」
バロックと仲間を重そうに担ぎながら黒ローブは姿を消した。
町の脅威が去った事に安堵した俺は睡魔に襲われた。慣れない事をしすぎて疲れたのかもしれない。
ミーシャが駆け寄って来たが眠気に勝てず目蓋を閉じた。心配するな、くらい言えば良かったか?
小鳥のさえずりで俺は目を覚ました。
窓から差し込む日差しは、まだ温まりきっていないので日が昇ったばかりなのだろう。丸一日寝てしまったようだ。
「ラルク! 良かった起きたのね。何処かおかしい所はない?」
ベッドの近くに置かれた丸椅子に座ったミーシャが俺の顔を覗き込む。心配して様子を見ててくれたのだろう。
「悪い、心配かけたな」
「良いの良いの。勝手に私が心配しただけだから。お腹空いてたら何か食べる? パンとチーズくらいなら直ぐに用意し出来るわよ」
「両方もらおうか。腹が空いて仕方ない」
ぐぅ~と情けない俺の腹の音を聞いてミーシャはおかしそうに笑った。
「元気な証拠ね。今持って来るわね」
ミーシャも疲れてる筈なのに迷惑をかけてしまったな。この埋め合わせは何時かしないといけないだろう。
そんな事を考えているとアウラが俺の枕元にやって来るなり「いい嫁もらったなラルク」なんて言いやがる。
嫌味でも何でもなく純粋にアウラは思っているのだろう。
「まだ、嫁じゃない」
「ドラゴンは好き同士になったら夫婦になるぞ。人間は面倒臭いんだな」
それくらい単純なら人も生きやすいのかもしれないと俺はドラゴンを少しだけ羨んだ。
ミーシャが運んできた食事を平らげると俺は身支度をしてから一人で町を散策する事にした。
スケルトンの襲撃によりがたがたになった石畳や、崩れ落ちた民家の外壁などが、今日になったら殆ど修復されていた。
「アシュリー様が責任を感じ一晩で大方町の修繕をなさったのです。自分の所為で町が襲われたのだと」
俺の隣に現れたザイードが修繕し切れていない箇所を直し満足したような顔をしている。
「バロックは何が目的で町に来たんだ? アシュリーを殺す為だけじゃないだろう?」
「憶測になりますが、邪神を目覚めさせる為の命を集めようとしていた可能性が高いですね」
「邪神? それこそおとぎ話の話みたいだな」
「ドラゴンだって十分おとぎ話みたいな存在ですよ」
「はは、違いないな」
バロックの思惑も打ち砕いた事だ。名前だけで忌々しそうな邪神の顔を拝む事も無いだろう。
「ティアもアシュリーの所に居るんだろ」
「ええ、バロックに顔を覚えられてる可能性が有るので保護しています。何も無いようなら住んでた町にお送りしようと考えています」
俺が倒したとはいえバロックも魔王だ。刺客を送り込むなど造作もない。アシュリーの魔王城で匿ってもらうのが何よりの得策だろう。
「ティアに一緒に冒険して楽しかったと伝えてくれ」
俺が帰ろうとするとザイードが緑の石の指輪を俺に握らせた。
「お嬢様を助けてくれた個人的なお礼ですよ。また何か有れば連絡します」
そう言い終わるとザイードは姿を消した。照れくさかったのかもしれない。
何か魔術の秘められた指輪なのだろうかと、俺は指輪をはめたが何も起こる気配はなかった。
後でミーシャにでもやるかと、俺は指輪を懐にしまう。
その日は町に異変がないか確認してから宿で一夜を明かした。
「そろそろ行ってみるか。エル・フィリアに」
恋愛以外の愛情なら三人位には愛されただろうと俺はエル・フィリアに向かう気だった。
「駄目って言う理由なんてないわよ。行きましょう。ふふ、空飛ぶ島ってどうなってるのかしら」
意外な事に、ミーシャは目を輝かせ、尻尾をゆらゆらさせながら子供以上に心を躍らせてるようだった。もしかしたらアウラ以上無邪気な心を持っているのかもしれないり
「ここからじゃ遠いから肉だけ食わせてくれ」
「はは、好きなだけ食え。飯だけ食ったら出発しよう」
町のレストランに向かっている時だった。
「レガリア王国が魔物に襲撃されたらしい」
すれ違った男達の噂が俺の耳に入った。
男達を引き留め俺は尋ねた。
「レガリア王国はどうなった!? 住人たちは?」
「何だあんたは? 詳しいことは何も分からねえよ。ただ、魔物の群れがレガリア王国を襲ったって聞いただけだよ」
戸惑う男達に「すまない」と頭を下げる。
そして俺は目的地をエル・フィリアではなくて忌まわしいレガリア王国に決めた。
父と母の安否を確かめる為に




