断ち切れぬ絆
町から呼んだ憲兵に盗賊を引き渡した後、ミーシャとティアを次の町に向かわせ、俺とアウラは爺さんの家に向かう事にした。
爺さんの家は盗賊に襲撃された馬車から三キロ程離れた森の中にあった。
開けた場所に木造造りの平屋建ての家があり、その周囲を囲むように耕された畑が見える。ずっと一人で暮らしているのかもしれない。
「何もないが上がってくれ」
木目の有る食卓テーブルを囲むように俺達は座り爺さんは俺の前の席に座る
「爺さんはドラゴンを見た事が有るのか」
「有るも何も昔はドラゴンは普通に存在しておったからな。ドラゴンは人間の良きパートナーだった。馬鹿な王族達がドラゴンの力を独り占めしようとして、怒りに触れてから、ドラゴンは人間界から姿を消してしまった。この世界に残るドラゴンも滅んでしまったと思っておったが……」
老人は嬉しそうに笑い声を漏らしアウラを眺めてい
る。
「こんな立派なドラゴンを手懐けるなんあんたはドラゴンテイマーじゃな?」
「そう、あの嫌われ者と言われるドラゴンテイマーさ」
ピンと来ないのか爺さんは不思議そうな顔をしていた。
「ドラゴンテイマーが嫌われ者? 昔は立派なドラゴンを従える優秀なドラゴンテイマーは国同士で取り合いになっていたが今は違うのか。時代が変わったという事か」
俺も昔に生まれていれば持て囃されていたかもしれない。だが、昔に生まれてたらこいつには会えなかったかと、呑気に耳の裏を掻いているアウラに目をやる。
「爺さんも契約者だな。人とドラゴンの魔力の混じった臭いがするぞ」
アウラが指摘すると爺さんは服の袖を捲り上げた。そこにはドラゴンと契約した紋様が刻まれていた。しかし、その紋様は薄れかけていた。
「ドラゴンテイマーではないから契約しても指先から火が出せる程度の力しかを得る事は無かったが、小竜と契約したんじゃよ。ドラゴンが消えた時、消えてしまったがな。年々紋様も薄れておる」
何処か寂しげだったのはその所為だったのか。爺さんにとってドラゴンは、家族みたいなものだったんだろう。
爺さんは暫く俯いていたが俺の腕の紋様を見せるように促した。
「やはり、まだ仮契約しか済ませておらんかったか。このままでは本来の力を発揮出来んぞ」
「仮契約?」
「口頭だけの契約では契約が浅くなる。血印の儀式を執り行えばより強く結びつきドラゴンの力を最大に引き出せるようになる」
「そうだったのか、初めて知ったぞ」
「え、ドラゴンなのに知らなかったのか?」
ドラゴンなら契約の事を全部知ってるもんかと思っていたが違うのか? と俺が戸惑っていると爺さんはおかしそうに笑い出す。
「無理もない。このドラゴンはまだ幼いからな。恐らく卵から生まれて半月程度だろう。ドラゴンの常識を知るには若すぎるくらいだ」
言動が子供っぽいとは思った事も有ったが、そんなに若いとは思わなかった。まだアウラが知らないドラゴンの知識があるのかもしれないと俺は考えていた。
「血印の儀式はどうやるんだ?」
「やり方実に単純じゃよ。仰向けになり、お互い自分の手の平に傷を付け握り合う。すると互いの血と魔力が混ざりあい儀式は完成する。……ただし、どちらかが邪心を持っていた場合二人は死ぬ事になる。それでもやるか?」
邪心、例えばアウラの力を使って世界を支配したり、好き放題しようって考えか? 俺には有るはずが無かった。だから「やる!」と即答していた。
「やってやる。それやったらラルクと、もっと仲良くなれるんだろ?」
アウラは分かっていなさそうだったが、俺に邪心が無いと信用してくれているのだろう。
「お前達の気持ちは分かった。部屋を貸してやろう儀式はそこで行うといい」
ポケットから鍵を取り出すと老人は、俺達を殺風景な部屋に案内する。
「儀式用のまじないとかは無いのか?」
「無い、無い。 ただ相手を信じるだけでいい」
言われた通り俺はナイフで自分の手の平を軽く切ると血が少量流れ出す。
アウラは少年の姿で俺の横で仰向けになると、躊躇なく自分の手にナイフを押し当てた。
「手を出せ、ラルク。それでいい」
俺の差し出した手をアウラは力強く握り締める。
すると熱いものがアウラの手の平から俺の中に流れ込んで来た。
血? 魔力? それだけでは無い。俺に対するアウラの温かな気持ちも流れ込んできている気がした。
アウラも何か感じていたのか。「ふふ」と嬉しそうに笑っていた。
熱さを感じなくなってから暫く手を握り合っていたが「腹空いたぞ!」と起き上がり、先に部屋を出ていく。
俺は床に座ったまま右腕の紋様を改めて眺めると元々有ったドラゴンの顔みたいな紋様の目が赤く立体的になっていた。
「上手く行ったみたいじゃな。スープでも飲んで帰るといい」
そう言って老人はキャベツとジャガイモの入ったスープの椀とスプーンを俺に手渡す。
俺も腹が空いてたようで情けなく腹が鳴る。
「ははは、生きとる証拠じゃな」
「疑うわけじゃないが本当にこれで何か変わったのか?」
「直ぐには分からないじゃろうが、いざとなった時に分かるよ。より深まった絆の力をな」
爺さんは自分の事みたいに儀式が無事に終わった事を喜んでいた。ひょっとしたら昔の自分と重ねてるのかもしれない。
「絆か」
人に言われても深まったかどうかなど実感出来ないものだ。これから旅を続けて実感していこう。
「爺さん世話になったな」
爺さんの家の前でアウラの背に乗り俺は礼を言う。
「聞きたい事が有ったらまた何時でも来ると良い」
爺さんは名残惜しそうに何時までもこちらに手を振り返していた。
「アウラ、お前も何時かは何処かに行ってしまうのか?」
爺さんの話を思い出し尋ねるとアウラは不機嫌そうに「何処にも行かないぞ!」と答える。
「世界がアウラを裏切ってもアウラは居なくならないぞ! ラルクがアウラを嫌いになるまでずっと居るぞ!!」
「嫌なこと言って悪かったよ。お前を嫌いにならないからずっと居てくれ」
頭を撫でてやると、うるるる! と嬉しそうにアウラは鳴いてより高く飛ぶ。
何時か終わりは有るだろうが、今はアウラの温もりとこの風を感じていたいと俺は思うのだった。




