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ツンデレ王子は深夜2時のシンデレラを溺愛する♡同級生のアイドルが彼氏になった夜 〈Dulcisシリーズ×サクヤ編〉  作者: はなたろう


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8/13

8.オフ会の誘い

数日後、仕事から帰宅した私はPCの電源を入れた。



ステラ・クロノスのログイン画面を抜ける。マルタ遺跡の前で東洋風アバターの彼が、ピンクのパンダを連れて静かに佇んでいた。



『久しぶりだね』


『仕事で海外に行ってたから、忙しくてゲームできなかった』


『大変だね』



いつも通りの何気ない会話。



『この前はごめんね、ちょっと情緒不安定かもw』



私は自虐的な衝動に突き動かされたことを反省し、なんとなくキーボードを叩いた。

そのまま、軽く流してくれてよかったのに。



『オフ会しない?』



彼から送られてきたのは、これまでの数年間で一度も口にされたことのない言葉だった。

指先が止まってしまう。



『もしもーし?あれ、寝ちゃった?』


『ごめんね。ちょっと驚いたから』


『いや?』



画面の向こう側にいる、顔も本名も知らない人に会う。

そもそも、彼なのか彼女なのか、年齢だってわからないのに。



『会いたいけど――』



彼とは、もう何年もゲーム内で一緒に戦っている。



私は防御に特化した重装備。大型モンスターの素材を惜しげもなく使った装備で、正面から攻撃を受け止める。

敵の注意を引きつける、いわゆるタンク役だ。


一方で、彼は違う。

スタイリッシュな軽い装備でフィールドを駆け回り、敵の弱点を突いていく機動型。



私が受けて、彼が仕留める。そうやって、ゲームの中では連携して戦ってきた。

それがとても楽しい時間だった。



もし会ってしまったら、この心地よい幻想は音を立てて崩れてしまうだろう。

現実世界の寂しさを紛らわせてくれる、大事な世界なのに。



『今度の金曜日の夜はどう?』


『ごめん、金曜日は合コンだ』


『え?』



しまった、せめて飲み会と返せばよかったかも。



画面の中の彼が、目に見えて凍りついたように動かなくなる。



いつもなら機敏に反応するピンクのパンダも、主人の動揺に同期したのか、その場で小さく震えているように見えた。



『やっぱり、ゲームの中で仲よくしよう!』



私は強引に会話を閉じ、クエストのため遺跡の中へと入って行った。


難解なクエストに苦戦していると、テーブルの上でスマートフォンが震える。



『金曜の夜、こっち来れない?』



いつもどおりの、自分勝手な誘い。



音楽番組の生放送、dulcis〈ドゥルキス〉が出演するのは知っていた。

夜10時の放送終了後に来いというんだろう。



『この前の新作ゲーム、できるようになった』



いつもなら、どんなに傷ついていても、どんなに疲れていても「空いてるよ」と即答していた。


けれど私は、初めてその通知を左へスワイプし、未読のまま画面を伏せた。



――キスしたくせに!



どんな顔して会えばいいのか。



――なかったことになんて、できないよ。



画面の中では、強固な鱗を持つドラゴンが咆哮を上げている。

私の装備では到底、大した傷はつけられない。



いつもなら、タンク役として前線に立ち、仲間を守るために冷静に立ち回るはずなのに。

この日はどうにもむしゃくしゃして、死ぬのが分かっていて無謀に突っ込んでしまった。



『やられるぞ!下がれ!』



彼からの警告チャットが飛ぶ。



ピンクのパンダも必死にサポートを試みるが、暴走する私のHPは一瞬で削り取られていく。



結局、あっという間に戦線離脱。



『MISSION FAILED』



真っ暗な画面に文字が冷たく浮かんだ。



薄暗い部屋の中で、PCのファンが回る音だけが空虚に響いている。

現実のサクヤを無視し、ゲームの彼からも逃げ出した私は、一体どこへ向かえばいいのだろう。



そのまま、ログアウトしてベッドに倒れこんだ。



「にゃあ」



猫の桃太郎が、あきれたように鳴いた。





そして、翌朝。



『生きてるなら、スタンプひとつくらい返信よこせ、バカ』



深夜2時に届いていたメッセージに、返事ができないまま出社した。


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