7.終わらない初恋
思春期の真っ只中。あの頃のサクヤはまだ黒髪だった。
「小春、今のステップ間違えてる」
「サクヤだって、ターンが早すぎ」
あの頃から、私たちはなんでも言い合える仲だった。
「サクヤ、まだ帰らないの?」
ある日。
レッスンが終わり他の生徒は身支度をしているのに、サクヤは帰る気配がなかった。
「オレは居残り。夏のコンテストに出るから」
「才加先生とふたりで出るの、本当なんだ……」
大きなコンテストには、スクールの中から上級者が参加することになっていた。
残念ながら私は応援組だった。
「しばらくゲームは禁止かな」
サクヤはダンスシューズの靴ひもをきつく結ぶ。
「レベル上げとけよ、あのクエストは1人じゃ難しいから」
「別に……ゲーム仲間はサクヤだけじゃないもん」
「あっそ」
いつも通りの、少ない言葉。
「サクヤ、練習はじめましょう」
そこへ、才加さんがやってきた。
シルバーのダンスシューズにはピンクの靴紐。この頃流行っていたダンスシューズは、生徒たちの憧れだった。
「小春ちゃん、気を付けて帰ってね」
「はい、また来週……」
後ろからアップテンポのイントロが流れはじめた。
「じゃあね」
そのメロディに消えていく私の声。
スタジオを出るとき、サクヤと才加さんの息の合ったダンスが目に入る。
年の差を感じさせない、激しいダンスだった。
手の届かない世界に見えて、辛かった。
サクヤの視線の先にいつも才加さんがいる。
とっくに、気付いていた――。
◆◆◆
「私は、サクヤに女として見られてませんから」
現実に引き戻された私は、自嘲気味に笑って誤魔化した。
「そんなことないわ、だって――」
才加さんが言いかけたとき、生徒たちが続々とスタジオに入ってきた。
「才加先生、小春先生!」
「この前のステップできるようになったよ~!」
小学生たちの元気な声がスタジオを明るくする。
「はいはい、集まってー。ストレッチからはじめるよ」
いつもの声で返し、手を叩く。
「それじゃ、この前のおさらいね。ちゃんと曲を聴いてリズムに合わせるよ!」
身体を伸ばしながら、ふと鏡に映る自分と目が合った。
――ずっと、そばにいるのに。
どうしてあの人には、この手が届かないんだろう。
サクヤと才加の短編は、アルファポリスでお読みいただけます。
本編と合わせて読んでいただけるとうれしいです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/251034659
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