5.合コンへのお誘い
「お電話ありがとうございます。カスタマーサポートセンター、担当の朝倉でございます」
私はペット用品メーカーで派遣社員として勤務している。
主力商品の「見守りカメラ付き自動給餌器のテクニカルサポート」なんていう募集要項だったけど、要はクレーム対応だ。
電話、メール、そして絶え間なく画面にポップアップするチャット。
『このカメラ、全然うちの子が映らないのよ!不良品じゃないの?』
お客様、カメラの前にいなければ映るわけがありません。
『電源を入れても画面が真っ暗なままなんだけど!』
Wi-Fi接続の問題なら、通信会社に聞いていただけますか?
なんていう心の声はもちろん見せない。
「左様でございますか。ご不便をおかけして申し訳ございません。ただいま状況を確認いたしますので、恐れ入りますが少々お待ちいただけますでしょうか」
何度も、何百回も繰り返してきた定型文。
本当は言い返したい言葉が喉まで出かかっている。
たとえ理不尽なクレームであっても、『通話終了』のボタンを押せば私の世界から消える。相手の顔もわからない。そもそも、私個人へ投げられた言葉ではないのだから、割り切ってしまえば苦ではない。
それが、この仕事における唯一の救いだった。
「小春ちゃん、おつかれさま。さっきの結構長かったね」
休憩室の自販機でカフェラテを淹れていると、後ろから明るい声がした。
同じ派遣社員として入社した陽菜だ。
「カメラの前で愛犬が吐いちゃったって大騒ぎ。なんとかしてくれってさ。それは、なんともね……」
「ペットへの愛はわかるんだけどね~」
陽菜は手にした炭酸飲料を喉に流し込むと、いたずらっぽく微笑んだ。
「ねぇ、小春ちゃん。来週の金曜日はヒマ?ダンスのお仕事だっけ?」
ここでの仕事以外に、私はダンススクールの講師を週2回ほどしている。
「ううん。ダンスは火曜日と土曜日の夜だけだから」
「よかった!合コン、行かない?」
陽菜が前のめりで聞いてくる。
「えー、そういうの得意じゃないしなぁ」
「知ってるよ。でも、小春ちゃん最近ずっと、仕事とダンススタジオの往復だけでしょ?たまには外の空気吸わないとさ。春は出会いの季節っていうじゃない」
春は――別れの季節ともいうわね。
そんな私の気持ちを察したのか、陽菜はさらに続ける。
「それにさ、新しい恋、探してみてもいいんじゃない?昔馴染みの彼、だっけ?」
サクヤがトップアイドルだなんて、口が裂けても言えない。
「ちょこちょこ会っている割に、進展ないんでしょ?それとも、ずっと追いかけているつもり?」
「う、うーん」
悪い子じゃないんだけどな。思ったことをストレートに言うのは、サクヤと同じかも。
「……たまには、行こうかな」
「え、本当?やったー!」
陽菜は嬉しそうにピョンピョンとはねて喜んでいる。
いつも「彼」の隣にいるピンクのパンダみたいだ。
確かに、ゲームの世界に逃げてばかりじゃ情けないか。
「いい男ゲットしようね。大丈夫、小春ちゃんなら絶対モテるから!そうだ、仕事終わったら戦闘服を買いに行こうよ!」
「えぇ、給料日前なのに?」
「自分への投資は大事よ~!」
私に必要なのは、気まぐれに私を呼び出す誰かではなく。
深夜2時に私を帰さない、優しくて、普通の温もりを持った誰かなのかもしれない。
これ以上追いかけても、サクヤはアイドル。
傷つく前に、この恋から逃げ出そう。
私は恋愛に前向きになろうと、自分に言い聞かせるようにカフェラテを飲み干した。




