14.まさかのオフ会
どこまでも続くような草原。
風に揺れる柔らかな緑の中に、彼はいた。
いつも私を守ってくれた東洋風のアバター。そして、足元の愛らしいピンクのパンダ。
「金曜日にオフ会しようって、言ったじゃん」
「――え、えええぇ!」
思わず声が裏返る。
その声に、ケージの中で丸まっていた桃太郎がビクッと身体を震わせた。
「これ、まさかサクヤのアバターなの?」
「当たり前だろ」
「な、なんで、ピンクのパンダなのよ!」
「うるさ……」
サクヤは小さく舌打ちすると、ドライヤーの風を再び私の髪に当てた。温風に髪がぶわりと舞う。
その音に負けないように、私は思いきり声を張った。
「ずっと黙ってたなんて、ひどいよ」
「小春が鈍感なだけだろ」
「気づくわけない!」
髪と一緒に、胸の奥がじわじわと熱くなる。
「サクヤはステラ・クロノスやらないって、言ってたじゃん」
私は何度も「一緒にやろうよ」と誘ったのに、興味ないって言ったのはサクヤの方だった。
「小春はさぁ、格ゲーでも何でも、必ずマッチョなキャラ選ぶよな。あれ、なんで?」
「……強そうだから」
「そのわりに、オレに守られてばっかりだな」
「あ、あんなにやさしい彼が、サクヤだったなんて。信じられない……」
ぽつりと漏れた本音。
「むかつく」
即座に返ってくる低い声。
「だって、サクヤなんて――」
ドライヤーの電源が切られる。
急に静かになった空間に、心臓の音だけがやけに大きく響いた。
「――オレなんて?」
今度はブラシが髪をすくう。
乱暴な口調とは違って、手つきは妙に丁寧で――すごく優しい。
いつだって、そうだ。
「意地悪なのに……」
「どこが?」
「……したくせに」
「は?」
「その気もないのに、キスしたくせに」
サクヤの手が止まった。
「好きでもない女に、キスなんてするか」
「……っ!」
「男の勇気ある行動を何だと思ってんだ。それなのに、さっさとタクシー呼びやがって」
「だ、だって」
「いっつも、2時になるとさっさと帰りやがる」
ぼそっと吐き出された言葉に、私は振り返った。
「早く帰れって言ったのは、サクヤでしょ?」
サクヤの手が一瞬止まる。
「そんなこと、一度も言ってねえよ」
低く、押し殺した声。
「言ったよ」
「言ってない」
「もう2時だぞって、そう言ったもん!」
「それは『泊まって行けば?』って意味だろ」
「へ……?」
よくよく、あの夜を思い出してみる。
『徹夜で仕事に行く気かよ』
確かに、そう言われた。
でも――そんな意味だなんて、分かるわけがない。
「キスしたまま音信不通、そんで合コン行くとか、どんなコンボ攻撃だよ」
「だ、だって……」
「うるせーな、だってもクソもあるか!」
「きゃっ!」
ふわりと身体が浮いた――。
次の瞬間、そのままサクヤの膝の上へ抱き寄せられた。




