10. つまらない合コン
「小春ちゃん! こっちこっち!」
ダイニングバーの入り口で、陽菜が大きく手を振っていた。
「最後の問い合わせ、大丈夫だった?」
「うん、まぁ……。遅くなってごめんね」
「乾杯したところだよ。それより、今日のメンズは当たりだよ!なんと、dulcis〈ドゥルキス〉の、サクヤに似てる人がいるの!」
「え?」
そんなまさかと思い、個室のドアを開いた。
「こんばんは」
そこには、清潔感のあるスーツ姿の男性たちが3人、すでにビールを手ににこやかに座っていた。
イケメンだとは思う。だけど……。
――全っ然、似てない!
ただ、髪色がシルバーアッシュなだけじゃん!
はぁ。陽菜ってば視力悪すぎ。
タイピングミスが多いのはそのせいかも。
「は、初めまして、朝倉小春です」
自己紹介を済ませ、差し出されたビールを飲む。
アルコールが喉を焼く感覚に、思わず顔をしかめた。
お酒は苦手だ。
それはサクヤも同じで、ふたりでいる時はいつもコーラ。それにポテチ。
夜にはデリバリーのピザがお約束だった。
アイドルなのに不摂生でいいのかな。
「カスタマーサポートって、要はクレーム対応だよな。大変だなぁ、毎日怒鳴られてない?俺ならできないな。すぐ辞めちゃうよ」
労わっているようでいて、どこか見下すような言い方。
確かに理不尽なこともある。
だけど、「ありがとう、助かったわ!」「この製品を買って良かったわ」感謝されることの方もたくさんあるのに。
「小春さんは、ダンスの先生もしてるんだって?すごいね、プロ目指してたの?バックダンサーとかしたことある?」
向かいに座った男性が、興味津々といった様子で身を乗り出す。
「いえ、そこまでは……好きなだけで」
本当なら、サクヤと肩を並べたかった。
才加先生みたいに、同じ景色を目指してみたかった。
だけど、そんなに簡単な世界じゃない。
「ゲーム?あんまりやらないかな。時間の無駄っていうか」
「資産運用だって、ある意味ゲームだけどな」
周りがクスクスと笑うのに。なんとなく合わせて笑ってみる。自分でもわかる乾いた笑い。
仕事、ダンス、ゲーム。
投げかけられる言葉のすべてが、ことごとく噛み合わない。歯車がギチギチと嫌な音を立てて空回りしていく。
『いいじゃん、カスタマーサポート。小春は話聞くの上手だしな』
『今度の新曲、サビの振りが決まらないんだよな。――これどう思う?』
『面白いゲーム見つけたから、すぐ来いよ』
たとえ深夜2時に終わっても、いつだって楽しく過ごしていた。
たとえ仕事が深夜2時に終わっても、サクヤと過ごす時間はいつだって特別だった。
言葉がなくても気にならない。
ただ、なんとなく側にいるだけで満たされていた。
サクヤも同じ気持ちだったはずだ。
それなのに。
「小春ちゃん、お酒進んでないよ? もっと飲みなよ!」
「う、うん」
陽菜の明るい声さえ、今の私には遠くの雑音のようにしか聞こえなかった。




