リンゴの声
「ここのリンゴって、誰でも勝手に食べてもいいの?」
「ええ。下に落ちると、そのうち腐ってこの公園が汚くなるでしょ?だからその前に食べちゃうの」
「誰がいいって言たの?」
「死国管理局自然環境課よ。私はそこで働いているの」
象がそんなところで?
「あそこって、国家公務員みたいなところだよね?働いているのは人間だけだと思ってた」
「この世界で職場に動物がいない会社は少ないわよ。共存課っていう、動物と暮らしたい人間と、人間と暮らしたい動物達の募集や書類審査、面談を行う部署にも動物はいるわ。私、観光地で働いていた時はご飯の為に仕方がなく働いていたけど、今とても楽しいの」
生国時のように、人間が選んだ生き物をお金と交換して連れて帰るって感覚と違うんだ。死国って言葉の壁がない分いろんな生き物が生きやすい国なんだろうな。
「ね、あなたもリンゴを食べたら?傷跡の有るリンゴの方が無傷のより美味しいわよ」
やった!リンゴが食べられる!どうせなら美味しい方がいいし、傷跡ありを食べよう。
「傷跡、傷跡・・・あった!」
リンゴはあるけど手が届かないかも。
必死に手を伸ばすが、あと数センチで手が届かない。私は象の背中から太めの枝に移り、木登りをしてリンゴを採った。象の背中に戻る途中で、葉っぱに隠れたリンゴを見つけ、それももぎ採りゆっくりと象の背中に戻った。
「二個あったから一個あげる。傷跡が有るのと無いのどっちがいい?」
と一応聞くが、私も傷跡の有るリンゴを食べてみたい。
「私はいつで食べられるから、傷後有りのリンゴはあなたが食べて」
やった!伸びてきた象の鼻に無傷の綺麗なリンゴを置いた。
私は自分のリンゴを軽く服で拭き、噛り付くが思った以上に硬く、前歯が刺さらない。犬歯でリンゴを少しかじる。果汁がジュースかと思うくらいあふれ出し、口の中にも一気に広がる。
「おいしい!」
甘さも酸味も硬さもパーフェクトだった。
「どうせ実らせるなら美味しい方がいいでしょ」
え。象とは違う声。まさかこの声リンゴじゃないよね。リンゴの踊り食いとか恐怖なんですが。
恐る恐るリンゴをゆっくりと回して見るが顔がない。ほっとしたが、植物も顔がないけど話せていたはず。
「リンゴさん。ごめんなさい。命をいただきます」
何かを献上するかのように両手にリンゴを乗せ、少しあげてからりんごに向かって言った。
その様子を見て笑うリンゴの声。
「私はそのリンゴじゃなくて、木よ」
木?私は振り返って木を見た。
「木さん。びっくりした。おいしいリンゴをありがとう」
顔がどこあるのかは分からないが、顔っぽく見える木の幹に向かって話した。
「こちらこそ、落ちる前に見つけてありがたいわ。象もいつもありがとう」
象は「いいえ」と長い鼻を上に伸ばした。
「ねえ、人間。リンゴを採ってくれたお礼に、このまま背中の上にのせて少し散歩に連れて行ってあげる」
「本当に?嬉しい!ありがとう」
「象と人間さようなら。またリンゴを食べに来てね」
「うん。まだ全部食べてないけど、ごちそうさまでした」
象は鼻を上にあげて小さく一声鳴き、私は手を振って木にさよならをした。




