ウィンク
「いや、私の勘違いかもしれないわね」
魔女が両肩をあげて言った。
まじまじと見たくせに勘違いって、何と勘違いしたのか。
「ね、あなたに薬を作ってあげるわ。何がいい?」
「何でですか?」
「気まぐれよ」
急に何がいいか言われても。何がいいだろう、背が伸びる薬?記憶力が良くなる薬?
「あなたは少し自信が足りないみたいだし、自分に自信のもてる薬作ってあげる。ちょっとあなたの髪の毛もらうわね」
「え?痛っ」
ぽんぽん話を進める魔女さん。
心の準備が整う前に、急に後ろから髪の毛が一本抜かれた。振り返ると誰もいない。前に向き直ると店の中にいた(というかオブジェだと思っていた)小鳥に髪の毛を抜かれていた様で、それを魔女が受け取った。私の髪の毛をランプの上でポコポコと音を奏でている丸底フラスコの中に入れた。
「座って待っていてね」
私は髪の毛を抜かれたところをさすりながら羊の体の形になっていソファに座った。妙に暖かくて柔らかくてまるで本物の羊の上に座っている気分だ。まさか、この羊も本当に本物だったりして。私は立ちあがって椅子を確かめた。
「ただで薬を作ってもらえるなんてラッキーだね」
何があるのかと、アムリも椅子を見ながら言った。
「ここの薬高いんだけど、よく効くから本当に良いよ。五分も経っていないのに、僕もう気分がよくなってきた」
「日本人!」
大きな声で呼ばれてびっくりした。
「好きな色は?」
「特にこれと言ってないけど、いつも赤い色に目が行きます。イヤフォンとか服とか赤が」
「じゃあ赤い色の実を入れて…」
話が終わる前にまた作業に戻る魔女さん。
忙しない人。
「名前があるのに日本人って呼ばれるの嫌だな。この国に来てから気づいたんだけど、生きている時に貯めていたお金って死んだら一緒にここに来ないでしょ?ここにきて残ってるものは、自分自身の体と、親から受け継いだ苗字と付けられた名前だけ。その名前も無くした気分」
「いゆの名前なら、私達が沢山呼んであげるわよ」
スワンがにこりと微笑んだ。
私も微笑み返し「ありがとう」と と言ったが、照れくさくてそのまま別の方向へ視線を変えた。
お店の壁にかけられている鏡にの中の自分と目があった。変な顔で笑える。
あ。そう言えば首に跡が無い。
昨日の地獄の住人の力が相当だったので、痣が出来ると思っていたのだが、首には指の痣も治りかけの黄色い痣もない。チヒョンが塗ってくれた薬が本当に効いたようだ。
「日本人。できたわよ」
魔女は私を呼ぶと赤く透き通った液体の入った小瓶を投げてきた。私はそれを落とさない様にあわてて両手で受け取る。
「それ飲んだら、自分に自信が持てるようになるわよ。飲んでから一時間以内には効果が出てくるけど、その効果は一瞬か一時間か一ヶ月か一生、いつまで効くかは分からないわ。だから何か自信を持ちたい時に飲んでちょうだい」
「何で効果が分からないんですか?自分で作った薬なのに」
「その薬の効果は服用した人次第で変わってくるからよ。最低でも十分間は効くから安心して。もしかしたら副作用があるかもしれないけど、あったとしても真実が見えるだけで、手足がしびれたり、味覚がなくなったりなんてものじゃないから安心して」
魔女は私に向かってウィンクをした。




