形あるもの
チヒョンがスーツのジャケットを脱ぎハンガーにかけた。
「そうだ。借りてたカーディガン、手洗いしてみたんだけど臭いが取れていない気がして洗濯機で今洗ってる」
「あ」
ネクタイを緩める手を止めた。
「あれ洗濯機で洗うと縮むのに」
「え!急いで止めて来る!」
「いやいや。捨てて良いよ。また着たかったら買えばいいし」
「そんな簡単に捨てていいよだなんて。物がかわいそうだよ。折角買ったものなのに」
「形あるものはいずれ壊れるのと同じで、洋服も一生は着る事が出来ないんだよ。着られなくなった日が早くなっただけだから。好きにしていいよ。小さくなっていゆのサイズにぴったりになったらそのまま着てもいいし」
私がいるとチヒョンが着替え辛いと思い、一度自分の部屋に戻り、適当に歯磨きをしてからチヒョンの部屋に戻った。
机の椅子に座りパソコンをいじっている。私はチヒョンのいる机と反対側にあるベッドにもぐりこんだ。
疲れて早く寝たかったが、目を閉じるとなぜか地獄の住人に襲われた事を考えてしまう。指が食い込むほどの強い力。跡形もなく消えた姿。思い出すと全身に鳥肌が立った。
「チヒョン」
「ん?」
パソコンをいじっていた手を止め、私の方を見た。
「何?」
「やっぱりそっちで寝てもいい?」
「俺のベッドで?」
「うん」
チヒョンは少し考えてから「俺がそっちに行くよ」と言った。机の電気を消し、作業していたパソコンを持って私のいるベッド横の机に座り電気を付けた。
「あ。まぶしくて眠れないよね?」
私は「大丈夫」と言ったが、チヒョンは自分の机に戻ると、引き出しから真新しいろうそくを何本か持ってきて一本ずつ火を灯し電気を消した。
「このろうそくリラックスできる匂いだからよく眠れると思うよ。今日は体も頭も心も驚いたはずだから、ゆっくり休んでね」
「うん」
「キーボードの音うるさかったら言って。気を付けるから」
「ありがとう」
チヒョンは笑顔でうなずいて椅子に座ると再びパソコンで作業を始めた。
「チヒョンはパソコンで何してるの?」
「選択授業の課題。うるさい?」
「ううん。ただ何をしているのか気になって」
というのは嘘で、話していないとさっきの光景を思い出してしまい、何か会話がしたいだけなのだ。




