優しさと浮く心
自分の部屋に戻ろうと歩き出した時、チヒョンが部屋から出てきた。
「落ち着くまで一緒にいるよ。どうせ明日会うから今日会わなくてもいいし」
本当は誰か一緒にいて欲しかったのでその言葉が嬉しく、その言葉で重かった私の心が浮いた。
「いやいや。本当に大丈夫。それにせっかく着替えたのに」
だけど申し訳なさもあり、遠慮をする。
「それに、そのお姉さん。彼女なんでしょ?私の為にキャンセルしたら激怒するんじゃない?」
夜中に人を呼び出すなんて、ちょっと気の強そうな人なイメージ。
「彼女じゃないよ。ちょっと電話してくるから中に入ってて。どこにでも座って良いから」
チヒョンは私を部屋に入れて、どこかに電話を掛けながら部屋から出て行った。
静かなせいで、敬語で電話をしているチヒョンの声が少し聞こえてくる。聞いちゃいけないと思い、窓際に移動した。チヒョンの荷物がある反対方向を見ると荷物が一つもない。一人でこの部屋を使っている様だ。
扉が開き、「じゃあまた明日」と言いながら戻ってきた。
「今日は大丈夫だって」
「本当に?怒ってなかった?」
私にを遣わせない様にか、「全然」と言ってチヒョンは笑った。今はその言葉を信じよう。
「チョコ食べる?気分を落ち着かせるにはチョコが一番だよ」
小さな冷蔵庫から、銀色の紙に包まれた食べかけの板のチョコレートを取り出した。包み紙の上からパキッ一列分割って「どうぞ」と私にくれる。
とてもいい匂いのチョコレート。これが地獄の臭いを消すチョコレートなのかなと思った。
「ホットミルク飲む?アーモンドミルクしかないんだけど。俺バナナ牛乳は平気なんだけど、ストレートの牛乳を飲むとお腹が痛くなるんだよね」
嫌な顔をしながら自分のお腹をさする。
「うん。ありがとう。チヒョン蹴られたお腹大丈夫なの?」
「さっきよりは痛くないけど、多分、明日痣になってると思う。蹴られた瞬間、口から内臓が出るかと思った」
チヒョンは再び小さな冷蔵庫をあけ、紙のパックに入ったアーモンドミルクを取り出し、棚から緑色のカップを取りだした。コンロの上にカップを置くと、アーモンドミルクをその中に入れコンロの火を付けた。
「そのカップ割れないの?」
「直火可能だから大丈夫だよ。カップの中身は温まるけど、コップ自体は熱くならずに直で飲めるんだ」
時折、木のスプーンでかき混ぜながらミルクを温める。さっきまで緑色だったカップがだんだんとオレンジ色になってきた。コンロの火を止めて、チヒョンはホットミルクを私に渡した。
「どうぞ」
「ありがとう」
受け取ったカップがほんのり温かい。チョコレートを一口かじり、ミルクを一口含んだ。
「あつっ」
「思ってるよりも熱いよっていうの忘れた。ごめん」
手で感じる熱さよりも中身が熱くてびっくりしたが、ほっとするし、心地のいい味だった。
「ううん。大丈夫。ありがとう」
「気分が良さそうな顔をしてるね。よかった。今日ここで寝る?そっち誰も使ってないから使ってもいいよ」
「いいの?」
「うん。でも、俺のこと襲わないでね」
チヒョンは自分の体を抱きしめた。
「それ私の台詞なんだけど」
なんて言い返してみる。
「え。襲う方にも好みがあるんだけど」
「ひどーい。その言葉そっくりそのまま返す」
「あははっ。だって誰にでも選択肢はあるだろ。勝手にこうって決めつけないで、ちゃんと相手の意見は聞かないと。お姉さんもそうしてくれると良いんだけど」
「チヒョンってたまに意味の分からない事言うよね」
「それは、いゆが俺について来れてないだけだよ。着替えたいんだけど、気になるようだったらそっち向いてて」




