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晴れた日の話し  作者: ゆかわ どり
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残酷なロマンチック

「デーチェとベーラ。俺のおじいちゃんとおばあちゃんと同じ名前だ」


 同じ名前という事はまさか。


「そう。君はおじいさんの生まれ変わりなんだよ。その後、君のおばあさんは女の子に生まれ変わったんだけど、その生まれ変わった女の子は生きている時に、大切なモノを失ってしまったんだ。それは何故だと思う?」


「おばあさんが、地獄の、住人だったから?」


 アムリは一度ホラールを見てから遠慮がちに答えた。


 代行人は首を縦に動かしたが、ホラールは直ぐに大声で反論をする。


「違う!おばあちゃんは父さんが子どもの頃に病気で死んだって。父さんに、そう、聞いた…」


 確信が持てなくなったのか、最後の方は声が消えるように言った。


「そうだね。表面上はそう見えていただろうけど中身は違う。君のおばあさんはおじいさんの事をすごく愛していて、それはおじいさんの死後も変わらなかった。

 おばあさんは生まれた時から病気を患っていて、病院で薬を処方されていたんだ。おじいさんと出会って、おじいさんの為にも長生きしなきゃと、きちんと薬を飲んで、病院にも定期的に通っていた。

 しかし、おじいさんが亡くなった後、自分は何の為に生きているのかが分からなくなってしまったんだね。死ねばおじいさんに会えると思って、薬を飲むのも通院もやめてしまった。

 そして、その願いを叶えるために悪魔が迎えに来た。まだ幼かった君のお父さん達の事なんて全然考えもしないで、おばあさんは喜んで死を選んだ。

 けれど、おばあさんが来たのはおじいさんのいる死国ではなく地獄だった。おじいさんが死国にいると知ったおばあさんはやっとの思いで死国の住人になったんだ。

 そこでおじいさんと再会をして、生まれ変わったらまた出会うことを誓い、おじいさんは再生をして君になり、おばあさんはその二年後に再生をしてペトラちゃんになった」


 ペトラちゃんがホラールのおばあさんの生まれ変わりと聞いて、みんな驚いている様だった。


 死国で再会を誓って、生国でまた恋人になっただなんて素敵…だけど複雑。


「確かに、二年は俺とペトラの年の差と同じだけど。ペトラが、おばあちゃんの生まれ変わり?」


「自殺だけが地獄へ行く理由ではないんだよ。自分の命を大切にしないのも地獄に行く理由になるんだ。さっき、僕が言った一〇〇%大切なものを失うと言った話し。ペトラちゃんが生きている時に失った大切なものは何だかわかるかい?」


「それは、ホラールね」


 スワンが遠慮がちに続けた。


「地獄から死国に来て、生まれ変わる為に引き変えた大切なもの」


 代行人はゆっくり頷いた。


「そう。おばあさんは、おじいさんの生まれ変わりとなる君の命と引き換えに生まれ変わったんだ。君は、君のお父さんと伯母さんを見捨てたおばあさんのわがままのせいで亡くなったんだよ」


 まるで、ホラールのおばあさんが自分の子ども達を愛していなかったような言い方。


 きっと、ホラールのお父さんは、自分のお母さんが亡くなった時悲しんだはず。なのに、亡くなったお母さんのわがままでホラールは死んでしまった。自分の息子を二度も悲しませて、周りの人も悲しませるなんて。


 会った事もないホラールのおばあさんに少し怒りを覚えた。


「まだ存在もしていなかった息子の子どもの命と引き換えて再会だなんて、なんて残酷なロマンチックなのかしら」


「俺は、それでも構いません。俺の命、ペトラにあげます」


 ホラールはまっすぐ代行人を見ている。


 いつもにこにこしているホラール。けれど、今は固く決意をした真剣な顔だ。


 代行人はそんなホラールを見て微笑みを一つ見せた。


「また君の命と引き換えになるわけではないんだよ。何と引き変えるかを選ぶ事は出来ないんだ。また君の命かもしれないけれど、他の大切なものとの可能性もある。そして、永遠とこれが繰り返されるんだ」


「大切なものって、命の他にもあるの?」


 代行人がスワンを見た。


「君はスワンだね。お茶が好きな様だけど、お茶の何が魅了的?」


「匂いと味かしら。それに、お茶って色んな効果があるのも好きな所」


「それじゃあ、そんなに好きなお茶の匂いも味も感じられなくなったら?」


「そんなの絶対に嫌よ。絶望的だわ」


「それなら、スワンの引き換えになるモノは嗅覚かもしれないね。人によって大切なものは違うから」


 代行人が話し終えると、タイミングを見計らった様に黄色く光る虫が一匹飛んで来た。その虫はタンポポの綿毛の様にふわふわしていて、代行人の周りを不安定に飛んでいる。


「おっと。虫の知らせだ。僕はもう行かないと。ホラール。僕はペトラちゃんをこの世界に連れてくる事をお勧めしないよ。この負のループは君が終わらせないと。それと、チヒョンが地獄の住人だってことは誰かに言わない方が身の為だよ。特に死国管理官にはね。もし言ってしまったら、今までかくまっていたと思われて猶予なく地獄行にされる。君達にとっては迷惑な話だろうけど、地獄に恋人がいるホラールにとっては喜ばしい話しかな」


 代行人はふわふわな虫を捕まえて掌ですりつぶし、粉になったそれをふーっと息で飛ばした。吹き飛ばされた粉は代行人を霧のよう隠し、視界がはっきりすると代行人の姿は消えていた。


 大切なもの。私にとって大切なものって何だろう・・・。


「さっきの人、どうして私がお茶を好きな事を知っていたのかしら」


「どうしてチヒョンなんだ?ペトラじゃなくて・・・」


 ホラールが手をギュッと握った。


「わからないわ。ね。もう戻りましょう。私疲れちゃった」


 寮に戻る間、誰ひとり言葉を交わさずに自分達の部屋へ向かった。


 それぞれの部屋に入る前、チヒョンが「おやすみ」と言ったが、みんなは返事をせずに部屋に入り扉を閉めた。


 私は「おやすみ」とチヒョンに返事をして部屋に入った。



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