恋の飴玉
「これ、ペトラが初めて俺に焼いてくれたケーキの味がする。あの時は甘すぎて無理やり食べてたんだけど、凄く懐かしい。いゆ、ありがとう。今、すごく幸せな気分」
涙を流しながらホラールは微笑んだ。前とは違う、本当の笑顔に見える。
「私が食べたらどんな味がしたんだろう」
「あ。食べる?はい」
そう言ってホラールは口を大きく開けた。
「いらないよ!」
「だよね。あははっ。ごめん、ごめん」
ホラールは涙を拭いて笑った。
飴をあげてよかった。人の笑顔をみて嬉しいと感じたのは、生国へ生まれてから死国に来るまで一度もない。一生の間で初めてだ。
二人のスマートフォンが同時に震える。
「スワンとアムリも授業が終わったって。そろそろ二人も来るね」
「俺が返信しておくね」
「うん。ありがとう。ねえ、ホラール。その髪の毛って地毛なの?染めてるの?」
ホラールの綺麗な髪の毛。染めているのか地毛なのかずっと気になっていた。
「地毛だよ」
返事をしてホラールはスマートフォンをテーブルに置いて私を見た。
「そうなの?綺麗だね。羨ましい」
「いゆの髪の毛も黒くて綺麗だよ」
私は心の中で大いに照れた。
「ありがとう。そんな事言ってくれるのホラールとお年寄りだけだよ。周りの人には何で染めないの?ってよく言われてたんだ」
いちいちそれに受け答えするの面倒だったな。私は泣いているふりをした。
「自分で気に入っているなら、それでいいじゃんない?」
ホラールが私の髪の毛をサラリと触れ微笑んだ。それに私の心はキュンと跳ねる。
「生きている時にホラールに会っていたら、私恋してたかも」
傷心中の人にこんな事言うのは卑怯かもしれないが、告白でもないし私は少し冗談ぽく笑いながら言った。
「ありがとう。でも俺には大事な恋人がいるからさ、ごめんね」
わざとらしく申し訳ない顔をして、ホラールは謝った。それが可愛くて笑える。
「何がごめんなの?」
いつのまにか来ていたスワンが、椅子を引いて鞄を置いた。
「スワンお疲れ!あ、アムリもチヒョン!」
「おつかれ。僕お腹すいた~」
「今ね、ホラールに告白してないのに振られたところなの」
「自意識過剰な男ね。そんな人放っておいてご飯取りに行きましょ」
スワンは私の手を引いて日本食のコーナーに向かった。
「いゆ、大丈夫?」
スワンが私の腕に腕を絡ませた。
「さっきホラールに振られたって」
「大丈夫だよ。何て言うか、冗談を冗談で返された感じだし」
正確に言うとホラールの方は冗談ではないと思う。けれど、本当にショックは受けていないので、私は無理をして笑っているとは思われない様に明るく答えた。
順番がきておぼんの上にご飯とみそ汁を乗せる。おかずは何にしようかな。魚は骨を取るのが面倒だし。沢山のおかずを見ながら色々と考える。
「あれ、地獄探知犬じゃない?」
誰かが発した言葉に反応して、みんなが見ている方向を見ると、そこには今日死国管理局で見た地獄探知犬達がいた。またあの時みたいに誰かが連れていかれるのかな。そう思うとなんだか怖くなった。
「探知犬?」
日本寿司をおぼんに乗せてからスワンが言った。
「そうみたい。今日、パスポートを取りに行った時に地獄に連れ戻される人を見たんだ。ペトラちゃんの時みたいですごく怖かった」
「誰かを探してるのかしら?聞いてみる?」
「え?」
スワンは探知犬に近づいて行った。
「こんにちは」
「お。なんだ。一般の人間から話しかけられるなんて久しぶりだな」
「誰か探してるの?」
「脱獄人に来まってるだろ」
「あれ?君」
スワンと会話をしてしていない他の犬が私に声をかけた。
何?!何で私!?
別の探知犬が一匹、ゆっくりと何かを確認しながら近づいて来る。自信をもって自分は地獄の住人ではない!と、言い切れるが、なぜか変な緊張をしておぼんを持つ手に力が入る。




