表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴れた日の話し  作者: ゆかわ どり
69/137

野次馬

 午後の授業が終わった後、私はパスポートを受け取りに死国管理局へ向かった。


 いつもより人が多いなと思いながらバスを降りると、死国管理局の前に大勢の人だかりが出来ていた。


 なんだか騒がしい。男の人の叫び声も聞こえる。


 人だかりに近付き、隙間から中心を見ようとするが全く見えない。


「何かあったんですか?」


 見るのは諦めて近くにいる人に聞いた。


「地獄の住人が捕まったんだ。最近ニュースになってた地獄探知犬が見つけたらしい」


 その人はちらりと私を見ると、人集りの中心に視線を戻して答えた。


 地獄の住人?


 ペトラちゃんの顔が一瞬よぎる。


 上から見るのを諦め、しゃがんで人々の足の間から見ると、地獄の住人らしき男の人と、その周りにペトラちゃんに襲い掛かった狼が数匹いた。あれが地獄探知犬だったんだ。


「や、やめてくれえぇ!地獄には戻りたくないっ!嫌だ!俺は悪くない!助けてくれぇ!」


 地獄探知犬が逃げようとしている地獄の住人の襟に噛みついて唸る。


「暴れるな!」


 他の探知犬が大きい声で言った。


「やめてくれ!うわああああああああ!」


 その光景は地獄でペトラちゃんが狼に連れていかれる様子と全く同じだった。地獄探知犬は地獄の住人を離さないようにガッチリ噛みついたまま、死国管理局の中に入って行った。


「あいつ馬鹿だな」


「一生地獄から出られなくなっちまうのにな」


「え、それどういう意味ですか?」


 全く知らない人二人の会話に思わず反応してしまった。私がいきなり話しかけたので少し驚いている。


「地獄の住人は地獄から脱走すると、もう二度と地獄から出られなくなるだろ。そんな事も知らないなんて。君、死国へ来たばかりなの?」


 ペトラちゃんも地獄から脱走して見つかったとしたら、一生地獄から出られなくなってしまうんだ。


 地獄の住人と探知犬がいなくなると、人だかりがすぐになくなった。


 恐ろしいモノを見てしまい、存在しない私の心臓がドキドキしている感じがした。


 緊張しながら死国管理局に入ると、先程の騒ぎが嘘の様に、いつも通りだった。

 

 カウンターへ行き、申告書の控えを渡してパスポートを受け取った。パスポートは日本の十年用のパスポートに似ていて濃い朱色。


 死国での初めてのパスポート。ワクワクして顔がニヤける。

 

 死国管理局をでると、丁度学校へ行くバスが停留していたのでそれに乗り込んだ。





 授業が終わる前の学食にはほとんど人がおらず、いつもの席にもみんなはいなかった。


 お茶を飲んでほっとしよう。


 ドリンクエリアで日本茶を注文し、その場で一口飲む。


 あ~。おいしい。心が少し落ち着いた気がする。でも、やはり先程の出来事を思い出すと少し怖い。


 ちょびちょびお茶を飲みながらいつもの席に向かうと、さっきまではいなかった誰かが座っていた。


あの髪色の持ち主は、


「ホラール!早いね」


「授業が早く終わったから」


「早く終わってくれて良かった。さっきパスポートを受け取りに死国管理局に行ったんだけど、入り口の所で地獄の住人が地獄探知犬に捕まって連れていかれてたの。その光景が怖かったからみんなに早く会いたかったんだ」


「地獄の住人か・・・」


 何か思いつめたような顔のホラール。しまった。きっとペトラちゃんの事を考えているんだ。せっかく元気になってきたのに。私のばか!違う話をしよう。


「そういえばね、昨日代行人に会ったんだけど、人間には人間専用がいるんだって。その人がくれた名刺も可愛いの」


 もらった飴を見せた。


「なんで代行人に会ったの?」


「あ、私も死国の家族について気になったから見てきてもらおうと思ったんだけど、費用が高くてやめたの」


 気を使わせないように嘘をつき、昨日もらったホラールに飴を渡した。


「そうなんだ。これ、飴玉に連絡先が書いてあるの?」


 ホラールが飴を不思議そうに見ている。


「包み紙が名刺代わりになってるんだって」


「へー。面白いね」


「その人がね、地獄の住人になる決意ができたら連絡してねって言ったの。なんか怖かった。昨日の代行人って地獄に住んでるのかなって…」


 あ!話を変えるつもりだったのにまたやってしまった。私はなんて馬鹿なんだろ。家族が気になるから代行人に会ったって言ったくせに、嘘がばれてしまう。


 自分の頭を机に叩きつけたい気分。


「ホラール。その飴あげる。気分によって味が変わるんだって。きっと元気になる味がするかも」


 本当は自分で食べたかったのだが、度重なる失言の申し訳なさから、私はそう言った。


「元気がないように見えた?ありがとう」


 ホラールは包み紙の両側を引っ張り、飴を取り出すと口の中に放り込んだ。


「私には必要がないからその包み紙は捨てちゃっていいからね」


 ホラールは包み紙を綺麗に畳んで上着のポケットにしまった。


「どんな味がする?」


「うーん。何の味だろう。どこかで食べた事のある味だけど」


 しばらく無言で飴を舐めていたホラールだったが、口の動きが止まった。


 一点を見つめているかと思うと、目からすーっと涙が流れた。


「ホラール?え?どうしたの?泣くほど辛いの?苦いの?」


 あ!違う。きっと甘いんだ。ホラールは甘いのが苦手だった。この短時間の間にホラールに対して失敗しかしていない。


「ごめん!甘いの嫌いだったよね?!何か飲み物を持ってくる!何がいい?」


 私は鞄から学生証を取り出した。


 返事を待つがホラールは黙ったままだ。


「ホラール?」


ホラールは口から小さく息を吐くと、ゆっくりと私を見た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ