たぬきの吉沢さん
「お前失礼だな!人間だって色んな菌を持ってんだろ。同じ動物のくせに馬鹿にすんなよ!何様のつもりだ!」
「三一七番テーブルどうしましたか」
映像でダールさんが現れて問いかけてきた。
「足が見えるヒラヒラな服なんて着て埃も入るだろ!こんなやつとはやってらんねぇ!」
ヒラヒラな服ってスカートのことかな。スカートは私だけじゃないのに。
ジジは持っていたチョコレートの入っている袋を床に叩きつけ、キーキー言いながら部屋を走って出て行ってしまった。
私は昔から人が傷つく事や怒らせてしまう事を平気で言ってしまうらしい。中学生の時、隣の席だった人にそれを言われてから注意していたのに。
「三一七番ペアがいなくなってしまいましたね。代わりの相手探しましょう」
ダールさんがパソコンを動かすような動作をして「いました」と言うと、猿が出て行った扉からエプロンを着けたたぬきが四本足で走って来た。
「三一七、三一七。あっ。三一七!よろしく」
私だけ猿ではなくたぬきとペアになった。今度は余計な事を言わないようにしなくちゃ。
「これで大丈夫そうですね。みなさんも手を止めてないで作業を進めてください」
私は、チョコレートを袋に入れながら、死国に来て何回したかわからない自己紹介をした。
「よろしく。私は吉沢よ」
「吉沢?日本から来たの?」
「ええ。そうよ。あなたも日本出身なの?」
「うん。その名前は誰がつけてくれたの?」
「私がよく行っていた畑のご主人が吉沢さんだったから。勝手に自分の事を吉沢って言っているだけよ」
「吉沢さんはよく吉沢さんの畑の芋とか食べてたの?」
「うん。作るのが上手で美味しかったのよ」
「それはしちゃいけない事でしょ?」
実家の畑の作物も良く動物に食べられていた事を思い出す。楽しみにしていたさつまいもを猪に全部掘り起こされていた時はかなりショックだった。
「でも、追い払われた事は一度も無かったわよ。吉沢さんに食べ物をもらった事もあったし」
「優しい人だね」
「私、子どもがいたの。だから沢山食べなきゃいけなかったしね」
「お母さんだったんだね」
「そうよ。道路に面してる鉄工会社の隅に産んで育てていたんだけど、私車に轢かれちゃって」
「子どもはどうなったの?」
「夫が毎日頑張って食べ物を取って食べさせようとしているけれど、まだ授乳の時期だから全然食べられなくて。昨日の感じだとそろそろこっちの世界に来ちゃうと思うわ」
私はこんな時「それは可哀そうだね」の言葉しか言えない。しかし、そんなありきたりな言葉を言うのは嫌だったので黙ってしまう事が多かった。しかし今回は吉沢さんをハグした。
「ありがとう。でも夫に申し訳ないわ。赤ちゃんが生まれてとても喜んでくれたのに」
「あれ?ちょっと待って。昨日の感じって、昨日生国へ行ったの?」
「まさか。私達が生国へ行けるのは日本休暇だけじゃない。業者に頼んで見て来てもらのよ」
「何の業者?」
チョコレートの入った袋を吉沢さんに渡した。
「死国代行の業者よ。ね。これ、一つ多いわ」
返された袋を確認すると確かに五つではなく六つ入っていた。
「あ。本当だ。で、その死国代行って何?」
「私達って、休暇の時しか生国行けないでしょ?だから、代行に頼んで見て来てもらうの。オプションでビデオとか写真とかテレビ電話もしてくれるわよ」
「業者はお盆の時期じゃないのにどうして生国に行けるの?」
「私は代行人じゃないから分からないわ」
今度はきちんと五つ入れているか確認をしてから吉沢さんに袋を渡した。
「恨みがあって生国人に仕返ししたい人もその業者に頼むみたいよ。自分で直接行ってしたい人もいるみたいだけど、代わりに地獄に行かなきゃいけないとか決まりがあった気がするのよね。気になるなら業者に聞いてみたら?」
吉沢さんは、着ていたエプロンのポケットから葉っぱを一枚取り出した。
「はい、これ」
受け取った葉っぱは、少し硬い紙できた名刺だった。
名前と電話番号の部分がくり抜き加工されている。たぬきが葉っぱって似合いすぎる。何語というのは分からないが、私はこの世界の力のおかげで文字が読める。名刺の名前の部分にはジンと書かれていた。
「業者は一見さんお断りなの。その名刺に書いてある番号に連絡をして、私の紹介だって言えば会ってくれるわよ」
「ありがとう」
初めての実習は、猿にいや思いをさせてしまったけど、吉沢さんとの会話のおかげで、あっという間に終わった。
「名刺って四角のイメージだったんだけど、これ可愛いくない?」
夕食時、吉沢さんに貰った名刺をみんなに見せた。
「何の名刺?営業かけれれたの?」
チヒョンが名刺を受け取りまじまじと見た。
「違うよ。吉沢さんっていうたぬきが生国にいる家族の今の状況を詳しく知っていたから、どうしてか聞いたの。そしたら代行業者がいるんだよって、それをくれた」
「私もそれ知ってるわ。法律ぎりぎりの事もするから紹介が無いと使えないんですって」
「法律ぎりぎり?怪しくない?そんな業者使って大丈夫なの?」
アムリがチヒョンの持つ名刺を覗き込んで言った。
「大丈夫じゃなかったら、死国管理局員が取り締まるだろ」
「確かに、チヒョンの言う通りかも。いゆこの業者を使うの?」
「今の所は使う予定はないよ」
「そうなんだ。ねえ?もし、いゆが代行を使ったら、僕に紹介してくれない?今妹がどうしているか知りたいの」
アムリが真剣な顔で静かに言った。
「うん。必ず紹介するね」
デザートにみんなでサンザシのべっこう飴を食べてから自分達の部屋へ戻る。
チヒョンが口の中に残っている飴をバリバリかみ砕きながら「はい」と名刺を返してきた。
「あ。忘れてた」
名刺を受け取り、鞄にしまった。




